女性を主人公とする映画の名手、ポール・フェイグ監督。撮影現場でも洒落たスーツを着こなしステッキを持ち歩く優雅な立ち姿からは想像できないほど、彼の作品にはブラックユーモアと下ネタが溢れ、同時にその優しいまなざしを裏切らない真摯さをたたえている。

彼を一躍有名にした『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(2011年)から、新たな境地へと達した『シンプル・フェイバー』(現在公開中)までの各作品を通じて、フェイグ監督の魅力を知ってもらいたい。

『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』:自尊心を取り戻せ

フェイグ監督作品の最大の魅力は、女性を“人間”として描く手腕だ。

ストーリーの中心に女性がくるとき、彼女たちの「健気さ」や「母性」を過度に強調したり、逆に「女はドロドロ」に終始していたりと、“女”への固定観念が先行している作品は世の中に星の数ほど存在する。フェイグ監督はそういったステレオタイプを脱した、“人間”としての女性を描いているのである。

『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』より Film (C) 2011 Universal Studios. All Rights Reserved.

さて、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(以下『ブライズメイズ』)のあらすじは以下の通り。

主人公アニー(クリステン・ウィグ)は、幼なじみで親友のリリアンの結婚式のメイド・オブ・オナー(花嫁側の世話役「ブライズメイド」たちを仕切る代表者)に選ばれる。しかしリリアンの婚約者は資産家で、アニーの知っている結婚式とは規模も予算も全く違う世界だった。そしてリリアンのセレブ友達・ヘレンは、「自分の方がリリアンの親友にふさわしい」とメイド・オブ・オナーの座を奪おうとする……。

「“女はドロドロ”の話じゃないか!」と思っただろうか? 確かに、アニーとヘレンはリリアンをめぐってお互いの足を引っ張り合う。しかし観てみると、この映画の主題は「アニーVSヘレン」ではなく、「アニーが“自尊心”を取り戻す話」であることがわかる。むしろ、人の醜さを笑おうという気持ちで観はじめたら、自身を省みて心がえぐられることになる危険な一作だ。

『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』より Film (C) 2011 Universal Studios. All Rights Reserved.

アニーはケーキ屋経営の夢を諦め「人生のどん底」と自暴自棄になっていることが、冒頭から強調して描かれる。車はボロボロ、埃まみれでテールランプは壊れたまま。深い仲の男性はいるものの、彼にとって都合の良い“3号”扱いに甘んじている。そして、思いがけず他人からの好意に触れると、怖じ気づいて逃げてしまう。自分の心身のケアをせずに敢えてみじめな状態のままでいる、セルフネグレクトの状態だ。

そのような時に、親友やその「新しい友人」が幸せそうに、成功しているように見えたら、自分が情けなく、むなしくなってしまうのは、性別を問わず共感できることだろう。

しかし、アニーを気にかける警察官ローズや、ブライズメイドの一人メイガン(メリッサ・マッカーシー)との出会いにより、アニーの意識は変化する。

社会の荒波に対する唯一の対抗策は「自尊心をもつこと」。自分を丁寧に扱い、自分を追い詰める苦難に立ち向かえるようになって初めて、他者からの優しさを受け入れられるようになり、意外と社会には自分の味方もいると実感できるのだ。

『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』より Film (C) 2011 Universal Studios. All Rights Reserved.

なお、「リリアンの結婚」が話の主題なのに、リリアンのフィアンセはほとんど登場しないというのも皮肉めいている。

「結婚式」が花嫁を主役に据えたガーリーでロマンチックな式典であるのと同時に、「結婚」によって住処も、生活も、人生全てが一変するのはもっぱら妻の側。女友達が集まって口にする、結婚をする不安/結婚をした後悔は、切なくなるほどリアルだ。

『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』
Blu-ray発売中 ¥1,886+税 発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

『デンジャラス・バディ』:男性社会でナメられないために

『ブライズメイズ』は全世界で大ヒットを記録し、第84回アカデミー賞の脚本賞と助演女優賞(メリッサ・マッカーシー)にノミネートされた。このマッカーシーがフェイグ監督と再タッグを組み、サンドラ・ブロックとともに主演を務めたのが、次作『デンジャラス・バディ』(2013年)だ。

女性たちの私生活を描いた前作から一転して、本作の舞台は警察。エリートのFBI特別捜査官アッシュバーン(ブロック)と叩き上げの地元刑事マリンズ(マッカーシー)が共同捜査をさせられるという、凸凹バディものの王道ストーリーだ。コメディのテンポも良く、刑事ものらしいどんでん返しもあり、ワクワクして観られる1本である。

『デンジャラス・バディ』より (C)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

しかしところどころには、笑ってはいられないシーンも。高慢で自分の間違いを認められないアッシュバーンも、体当たりで犯人に突撃し、時には法に触れるような脅迫も辞さないマリンズも、警察という「男性社会」で女性が働き、「強く見せないとナメられる」という経験をしてきての人格形成だということが、端々から垣間見えるのだ。

女性が「ナメられる」ことで被る不便性は、キャラクター描写に留まらない。「捜査を撹乱する犯人」と見込んだ人物は、実は彼女たちが気に食わなくて嫌がらせをするミソジニスト(女性嫌悪者)なだけだった……という物語の大きなミスリードにもつながっている。

とはいえ、本作の柱は相性最悪な二人によるドタバタコメディ。往年の警官バディ映画が反発の末に男性同士の絆=「ブロマンス」を育んできたように、この二人にも女性同士の絆=「シスターフッド」を結ぶ、熱い展開が訪れる。

『デンジャラス・バディ』
Blu-ray発売中 ¥1,905+税 発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

『SPY/スパイ』:軽んじられる裏方

メリッサ・マッカーシーが続けて主役を務める『SPY/スパイ』(2015年)は、その名の通りCIAが舞台のスパイ映画だ。しかし主人公スーザン(マッカーシー)はスパイとはいえ、本部で潜入捜査官をサポートするデスク担当。前作の荒くれ刑事の面影はなく、内気な優等生を演じている。

スーザンがサポートしていた潜入捜査官ファインが、敵の策略によって殺されてしまう。そこで敵にまだ顔が割れていない内勤のスーザンが、ファインに代わって潜入捜査官として前線に出ることに……というのが本作のストーリー。

実はスーザンは、頭脳・身体能力ともに有能な成績を修めたエージェント。しかし周りの同僚たちに能力を軽んじられ続け、自信を喪失している。『ブライズメイズ』のアニーの問題の根幹が彼女の内部にあったのに対し、スーザンの問題は自分を扱う周囲の視線にあるのだ。

『SPY/スパイ』より (C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

女性が自信を無くす理由の一つが、容姿へのからかいだ。『ブライズメイズ』、『デンジャラス・バディ』では周囲の目を気にしないゴーイング・マイ・ウェイなキャラクターを表現していたメリッサ・マッカーシーのふくよかな体型が、本作ではスーザンのコンプレックスとして描かれている。

スーザン自体は前作・前々作のマッカーシーと比べてわかりやすくキュートな、“女子っぽい”見た目なのだが、それゆえに“普通の(と勝手に世間が呼ぶ)女子”から外れた体型であることが強調される。

さらに、ジュード・ロウ演じる花形スパイのファインが、スーザンのコンプレックスを加速させている。ファインは有能で快活な人物だが、「この活躍は自分だけの力」と無邪気かつ傲慢に信じており、スーザンたち裏方を軽んじていることが言動の端々に覗く。そしてその完璧な容姿と自信たっぷりな言動ゆえに、周囲からは彼の自己評価が正しいように受け取られてしまっている。

『SPY/スパイ』より (C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

だが本作でも、冒険活劇を通じてスーザンは自信を取り戻し、周囲もスーザンの能力を認めていく。自信をもって大胆に振る舞うようになるスーザンに、登場人物も私たち視聴者もどんどん魅せられていくのである。

『SPY/スパイ』
Blu-ray発売中 ¥1,905+税 発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

『ゴーストバスターズ』:“オタク女子”は世に認められるのか?

フェイグ監督の次なる作品は、1984年の映画『ゴーストバスターズ』を、メンバーを全て女性に一新して描いた同名作(2016年)。メリッサ・マッカーシーとクリステン・ウィグが再共演を果たし、さらにウィグがバラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」で共演していたケイト・マッキノンとレスリー・ジョーンズを引き連れてきた、コメディエンヌ大集結作だ。

『ゴーストバスターズ』より (C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. and Village Roadshow Films Global Inc. All Rights Reserved.

設定はオリジナル版と同じで、科学オタクの主人公たちがゴースト退治で活躍する痛快コメディ。だからこそ、オリジナル版との違い――主人公が“オタク女子”であることによる「痛快には行かなさ」が際立ってもいる。

製作された年代やリアリティ・ライン設定の理由もあるが、社会の、主人公たちへの風当たりはオリジナル版よりも世知辛い。ゴーストを撮影した動画には「ビッチにゴースト退治は無理」という誹謗中傷がつく(実はこれは、本作製作決定の報道時に実際に書かれたコメントをそのまま使用したというメタネタ。こういった誹謗中傷にさらされるのはフィクションだけのことではないのである)。また、ゴーストの存在を隠蔽しようとする市政からは、「孤独な女子の末路」という印象操作をされてしまう。

それでも彼女たちは、大学の研究室や地下鉄の駅で働いていた頃よりも愉快に笑い、踊る。重たい機械を押して、下水の臭いが漂う地下鉄の線路に出発する。同じ趣味で集まった同性の友達で集う楽しさが凝縮された、「シスターフッド」を体現した作品である。

『ゴーストバスターズ』
Blu-ray発売中 ¥4,743+税 発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

代謝する女性

ポール・フェイグ監督の描く女性たちは“代謝”をする。

『ブライズメイズ』では、アニーは夜を共にした男性が起きる少し前に起き、化粧を整えてからもう一度ベッドに就く。また、自暴自棄になったアニーの脚を触ったルームメイトは「チクチクする」と言い、アニーをハグした女友達は「頭を洗え」と苦言を呈する。

『デンジャラス・バディ』では、仕事第一のアッシュバーンは体毛を処理しておらず、潜入先では「脚の毛を剃れ」と揶揄され、口さがないマリンズの家族からは「前は男だったんでしょう?」と尋ねられる。

女性も生きているので、当然、処理しなければ体毛は生えるし、本当の寝起きの肌はアラがあるし、頭髪は臭くなる。それらを敢えて描くことで、女性が身だしなみにかけている労力はしばしば「無かったこと」にされる現代社会を、フェイグ監督は揶揄しているのである。

『デンジャラス・バディ』より (C)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

消費する女性、消費される男性

さらに、フェイグ監督作品の女性たちは主体的に性を“消費”する。

作中の女性はギョッとするほど皆、下ネタを言う。「ギョッとする」のは、通常、フィクションで性的なことを言う女性は、「下品な女」というキャラクター付けがなされている時だけで、「仕事に恋に頑張る主人公」が口にするものではないからだ。

現実でも女性はしばしば下ネタに対して、きょとんとした無垢な“少女”のフリか、苦笑し許容する“母”のフリを求められる。だが、本当はある程度の年齢ならば、意味することは大抵知っているし、相手との関係性によってはあけすけな応酬で大笑いしたりもするものだ。

『SPY/スパイ』より (C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

一方でフェイグ作品には、男性主人公映画の“ヒロイン”のごとき“イケメン”枠が存在する。彼らは自己中心的だったり、足手まといだったり、女性にとって都合の良い賢者だったりするが、いずれも「美しい肉体」として彼女たちに“消費される”。

悲しくも女性は普段“消費される”ことに慣れてしまっているが、反転させて男性が“消費される”のを見ると、滑稽さとともにその暴力性も浮き上がって見える。

例えば『ゴーストバスターズ』では、クリス・ヘムズワースがキュートな受付係ケヴィンを熱演。ケヴィンはおそらく精神年齢が子どもと思われる無邪気な「馬鹿」で、電話の応対もろくにできないのだが、クリステン・ウィグ演じるエリンは彼に熱を上げていて、“観賞用”のような扱いで雇い入れてしまう。いわゆるマリリン・モンロー的な(モンローは実際は聡明な女性だったが、アイコンとしての)、“ブロンドの可愛いお馬鹿”の男性バージョンだ。

『シンプル・フェイバー』:ファム・ファタルも“人間”である

フェイグ監督の最新作『シンプル・フェイバー』では、上記の描写から、さらに一歩踏み込んだ“女性”と“シスターフッド”の描写に成功している。

ストーリーは「可愛くて家庭的なシングルマザー」ステファニー(アナ・ケンドリック)と、「美しきキャリアウーマン」エミリー(ブレイク・ライブリー)のママ友関係から始まる、エミリーの失踪事件。ブラックユーモアと下ネタの切れ味はいつもどおりだが、今までとは風合いの異なるシリアスなサスペンスだ。

ファッショニスタのフェイグ監督がついに本領を発揮したスタイリッシュな画面構成で、なかでもパンツスーツを華麗に着こなすエミリーは、監督のスーツ姿をモデルにデザインされたキャラクターだという。

『シンプル・フェイバー』より (C)2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

ステファニーは残されたエミリーの息子の世話を手伝い、独自にエミリーの行方を捜査する、思いやり深い女性。しかし、事態は二転三転し、「友情は永遠」という綺麗な話にはまとまらなくなる。

エミリーはステファニーや、自身の夫ショーン、出会ってきた人々全てを魅了し、撹乱する。通常の語彙を使うならば、「悪女」、「ファム・ファタル」と形容したくなる人物だ。しかしフェイグ監督はエミリーをそんな使い古された一言では片付けず、骨太な人物設定を基盤に組んだ。彼女を、一人のエキセントリックな“人間”として描くことに成功している。

エミリーとステファニーの関係性も、今までのフェイグ監督作品とは様相が異なる。彼女たちは甘く優しい「助け合い」の関係に安住することはできない。しかし「女はドロドロ」ともまた異なる、奇妙な“絆”が二人の間にはあり続ける。

男性主人公の作品で置き換えて考えてみるならば、例えば宿敵どうしの最後の決闘、言葉を交わさずとも視線だけで通じ合える一瞬のような、殺伐としていて、なおかつウェットな“絆”――ある種の「ブロマンス」の関係だ。その意味で、エミリーとステファニーの関係も、確かに一種の「シスターフッド」なのである。

『シンプル・フェイバー』より (C)2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

なお、『シンプル・フェイバー』の“イケメン”枠であるエミリーの夫ショーンはアジア系俳優のヘンリー・ゴールディング。劇中随一の美男子として特に必然性なくアジア系が起用されるのは、ポリティカル・コレクトネスの進んだハリウッド映画の中でも珍しく、そのホットな魅力がきちんと描き出されているのが嬉しくもある。

『シンプル・フェイバー』より (C)2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

今回紹介した作品はいずれも女性が脚本や製作などに深く携わっている。彼一人のセンスではなく、女性スタッフが実際に関わっているがゆえに等身大の女性の物語を描き出すことができるのであり、この徹底したフェミニスト精神こそがフェイグ監督最大の才能だ。

心身ともに紳士であるポール・フェイグ監督が、次の作品ではどのような“人間”を描くのか、楽しみに待ちたい。

(文/吉岡悠紀子@アドバンスワークス)