好きだからこそ、続けてこられたこと

ブルース・リーに憧れ、25年間スーツアクター一筋に生きてきた男の大きな挑戦を、唐沢寿明主演で描いた映画『イン・ザ・ヒーロー』。本作で唐沢演じる主人公が所属するアクションチームの先輩を、下積み時代のスーツアクター経験を生かして好演している寺島進が、役柄に込めた特別な思いを語った。

取材・文:編集部・森田真帆 写真:奥山智明

映画『イン・ザ・ヒーロー』は9月6日より全国公開

インザヒーロ 

亡くなった先輩への感謝の思い

Q:本作は、特撮作品などでヒーローや怪獣、着ぐるみを着用し演技をするスーツアクターを題材にした作品ですが、寺島さんにもスーツアクターをしていた経験があるんですよね。

そうだね、若い頃はずっと殺陣やアクションのスタントをしていたから、スーツアクターも経験がある。だから、唐沢くんが100人斬りするラストシーンはもちろん作品の見どころなんだけど、俺は斬られる100人に目がいってしまうんだよね。自分が殺陣をやっていた頃に出会った、寝食を共にしていた仲間たちを思い出したね。

Q:寺島さんが演じている吾郎さんは、若い俳優たちの良き先輩ですが、寺島さんにもそういう存在の方はいらっしゃいましたか? 

アクションって最初はトレーニングに始まって、殺陣、トランポリン、マット運動、あらゆる稽古があるんだよ。その全てにおいて丁寧に教えてくれた先輩がいたんだけど、昨年その方が亡くなったんだよね。自分にとって一番いろんなことを教えてくれた先輩であり、スーツアクターの仕事も紹介してくれた忘れられない大先輩。だから何ていうか・・・・・・、ささげるっていう言い方は照れくさいからしたくないけど、この映画を観せたかったという気持ちだけで頑張れた気がするかな。 

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■30年ぶりのアクションは、思うように動けず!?

Q:久しぶりにアクションをした感想はいかがでしたか? 

昔やっていたことを頭では覚えているんだよ。でも実際に動こうとすると、頭に思い描いていた通りには全然動けなくてさ。昔はキックの切れももっとあったんだけどなあ。だから、久しぶりにアクションをやって感じたことは、「もっとできたのになあ」ってこと。正直、全然納得できていなんだよね。

Q:それでも唐沢さんとの立ち回りシーンは迫力満点でした。

やっぱり殺陣をやるとテンションが上がるんだよね。妙なドキドキ感もあるし。刀を握って現場に立ったときは、自分の原点に返るというか、スタート地点に立ち戻った気持ちになれたよ。30年前はドキドキしていた青年だったけど、こうやって年を取ってもあの頃みたいにドキドキできるのは幸せなことだよね。

Q:現場でも、率先して若手の役者さんにアドバイスしていましたね。 

撮影に入る前に、みんなでアクションの練習をずいぶんしたんだけど、そのときよく飲みに行ったりしていたんだよ。アクションチームってやっぱり体育会系だから、この映画に出てくる感じそのままだなんだよ。だから若いやつらも知らない間にお茶をくんできてくれたり、灰皿持ってきてくれたりしてさ。俺も当時は、先輩がみんな厳しくてずいぶんしつけられたから昔を思い出したね。 

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■好きだからこそ続けられた、役者道

Q:映画の中では、福士蒼汰さん演じる若手俳優がたくさん怒られながら変わっていきます。寺島さんは、怒られて覚えていることはありますか?

今でもよく覚えているのは、自分が稽古場でケガをしたとき。あのときはずいぶん怒られたな。なんでかっていうと、当時は貧乏で保険に入る金すらなかったんだ。だから先輩はわかっていたんだよな。仕事場でケガをしたら保険が下りるけど、稽古場でケガをするなんて、保険も下りない上に自分の仕事もできなくなる。一歩間違えて入院することにでもなったら、本当に大変なことになるんだからね。

Q:アクションチームの役者たちがアルバイトをしながら生活しているシーンもありましたね。

自分が殺陣の世界に入ったときは先輩方に「悪い時代に入ったな」って言われていたんだ。時代劇もどんどん少なくなっていたときだったし、殺陣一本で生きていけていた時代からは変わっていたんだよね。でもさ、スタントマンでも俳優でも、ミュージシャンでも下積みの頃っていうのは、みんなバイトをしていると思う。それでも好きな道を選んだのは自分だからな。好きなことをやりながら、生きられていることだけで幸せなんだよ。 

Q:25年スーツアクターをやってきた主人公もそうですが、寺島さんが夢を諦めなかったのはどうしてだったと思いますか? 

この映画でもアクションをやっているやつが「もうやめたい」って言っているシーンがあったけど、そういうふうにやめていくやつは山ほどいたよ。特に家族を持っている人は、家族のためにバイトをするようになる。やっぱりつらくなると思うんだよね。だからやめていく。でも俺は、ただ単に好きだった。それに意地もあったから続けられたというのは大きいかな。そういうところは、唐沢くんが演じた本城にも、自分が演じた役にも似ていたかもね。