大事なのは逃げないこと、負けてもいいから挑戦し続ける

戦前のカナダに実在した日系カナダ移民の野球チーム「バンクーバー朝日」。貧困と人種差別に苦しみながら、白球を追い続けた青年たちの奇跡の物語を、『舟を編む』の石井裕也監督が映画化。朝日のリーダーとして若手俳優陣を率いた主演の妻夫木聡が、笑いと感動に包まれた本作について語った。

取材・文: 本間綾香 写真: 高野広美

妻夫木聡 インタビュー

映画の舞台バンクーバーで喝采

Q:石井監督と組むのは『ぼくたちの家族』に続き2度目になりますね。

今回、出演を決めた一番の理由は石井監督です。石井監督とだったら、最後まで一緒に闘い抜けると思いました。撮影前から何度も話し合ったのですが、石井監督は日本人でありカナダ人でもある複雑な思いを抱えた朝日のメンバーの、野球に対する情熱、スポーツマンシップを大切にしていたと思います。人間というのはいつの時代も、自分とは何者なのか、生きるとはどういうことなのかを考えていて、この映画はそこを描いているからこそ、誰もが感情移入できる作品になったのだと思います。

Q:20世紀初頭のバンクーバーの日本人街、また日系カナダ移民2世のレジー笠原という役柄を理解するために、どのようなリサーチをしたのでしょうか?

当時の資料は日本人学校にあったもの以外、ほとんど残っていないんです。みんな強制収容所に送られた後、元の家には戻れなかったので。できる限り目を通すようにしましたが、それに沿って演じることよりも、すごく寒かっただろうなとか、過酷な生活の中で野球が生きがいだったんだろうなとか、レジーたちのリアルな感情をイメージするようにしました。若い彼らが毎日はいつくばっていたように、僕らキャストもはいつくばって現場に臨んだんです。結構しんどい撮影だったので(笑)。

Q:バンクーバー国際映画祭で見事、観客賞を受賞しました。作品について、現地ではどんな反応がありましたか?

笑っているお客さまがたくさんいて、一喜一憂しながら見てくださっているようでした。朝日のメンバーに共感し、応援してくれている空気が伝わってきて、泣けてしょうがなかったです。「受け入れてくれたんだ!」って感動しました。僕の隣に着席していたケイ上西功一さん(実際のバンクーバー朝日のメンバー)も、映画を観ながら笑ったり泣いたりしてくれて、たまらない気持ちになりましたね。

妻夫木聡 インタビュー

■旬の若手&ベテラン俳優との共演

Q:朝日のキャストの中で唯一、野球経験がなかったそうですね。

小学生の頃に1年くらいやっていただけで、ほとんど素人でした。リーダーだし、いちばんうまくなきゃいけない役なのに(笑)。みんなより先にスタートして約3か月特訓したのですが、途中ケガをしてしまい、しばらく中断したんです。そんな時にみんなが野球をしているのを見ていたら、自分もすごくやりたくなって……。映画のために練習していたけれど、レジーと同じように心の底から野球を好きになっている自分に気付いて、うれしかったですね。

Q:映画には妻夫木さんをはじめ、勝地涼さんや池松壮亮さん、上地雄輔さんといった今、勢いのある若手俳優陣のパワーがみなぎっています。朝日のピッチャー・ロイ永西を演じた亀梨和也さんも新境地を開拓していましたね。

普段から役名で呼び合ったりして、自然と結束が生まれました。カメ(亀梨)は「これまで映画の仕事をする機会があまりなかったからうれしい」と話していましたね。彼なりに殻を破ろうとしていたと思いますし、見たことのない顔を間近で見ることができて、とても魅力的でした。カメってちょっと一匹オオカミみたいな、孤独感が漂っている感じがするんです。実際はすごくいいやつなんですけど、彼自身が抱えている葛藤みたいなものが、役柄と重なる部分もあって、石井監督もそういうところを見ていたんだと思いますね。

Q:これまで何度も共演されている佐藤浩市さんが、レジーの父親を演じました。

映画『感染列島』の撮影時に、「聡が出る作品だったら、どんなものでもオファーを受けようと思う」という、とてもうれしい言葉をいただいたんです。一番信頼している先輩ですね。浩市さんは役の大小にこだわらず、どんな作品でも必ずそこに存在感というか足跡を残す。酔っぱらうと「相米(慎二監督)のオヤジがよ?」なんて言うのですが、僕もいつか「石井裕也がよ?」なんて言えるようになれたらなと思いますね(笑)。

妻夫木聡 インタビュー

■逃げずに闘い続けることが大切

Q:これまでにたくさんの映画やドラマに出演されてきましたが、壁にぶつかったことはありますか。

役者の場合、壁にぶつかっても乗り越えるしかないんですよね。監督、スタッフ、大勢の人が関わっているから、逃げることなんてできない。少し前に、ある作品で泣けないと悩んでいる若手がいて、僕も同じような経験があるから力になりたいと思って努力したんですけど、僕でどうにかなることじゃないんです。やっぱり自分が自分に打ち勝たないと。大事なのは逃げないこと、負けてもいいから挑戦し続けることだと思います。

Q:経験を積んでなお、正面からぶつかっていくのは勇気が要ることですね。

役者を始めたばかりの頃は、いろんな現場に入って日々吸収することがたくさんあって、楽しいという気持ちだけで芝居ができていました。でも、知識を得るというのは残酷な面もあって、自分の中で方程式を作って、器用に立ち回るようになるんです。ヒットさせなきゃとか、現場での立場も考えてしまう。でも、映画『悪人』に出演した時に、久しぶりに自分が毎日、役のことだけに没頭していると気付いたんです。それが懐かしいような新鮮な感覚で、以来、仕事への取り組み方が変わりましたね。

Q:今後、「こんな役者になっていきたい」という目標はありますか。

余計なことを考えずに、作品に集中していきたいですね。芝居には、「こうすれば正解」みたいなものはない。場数を踏むと自分の中でパターンができてくるけれど、そういったものは全部捨てて、まっさらな気持ちで台本を読むよう心掛けています。役者としての何年後の自分とか、そんな先のことまで考えない。今を精いっぱい生きることが大事だと思います。