『柘榴坂の仇討』阿部寛 インタビュー

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こんなに泣ける時代劇は珍しい!

主君・井伊直弼のあだ討ちを命じられた主人公・志村金吾(中井貴一)の不器用な生きざまを描く歴史大作『柘榴坂の仇討』。金吾に13年間追われ続けた浪士・佐橋十兵衛を演じた阿部寛が作品に込めた思いを明かした。

取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美

映画『柘榴坂の仇討』は9月20日より全国公開

柘榴坂の仇討

■試写室で映画記者が号泣!

Q:幕末から明治にかけての史実を交えた人間ドラマが心に残ります。

浅田次郎さんの原作だけあって、武士道が前面に出てくる作品だけど、庶民の気持ちもきっちりと代弁しているんですよ。例えば、金吾を陰で支えた奥さんの切ない思いとか、当時の女性の気持ちをしっかり描いているのが斬新でした。そこは泣けるところです。

Q:マスコミ試写でも涙している方が多かったです。 

試写室で僕の後ろにいた年配の男性記者さんも泣いていたんです。記者さんは仕事で映画を観る立場だから、感情を抑えてしまうことが多くて、これまで記者の方と一緒に観るのと、劇場で観るのとはあまりに落差があったように思うんです。そんなクールな記者の方々がズルズル泣いているのは初めてのことでした。久石譲さんの音楽とも相まって、記者さんを泣かせるところまでいけたのがうれしかったですね。時代劇にあまりなじみのない若い方にも、そこはぜひ伝わると思います。 

■迷いのない男VS迷う男の対比が面白い

Q:今回演じた十兵衛を、どんな人物だと解釈しましたか? 

信念を持ちながらも時代に翻弄(ほんろう)され、身を隠しながらも生き続けた、すごく人間味のある男です。井伊直弼の暗殺に加わった仲間は死んでいく。だが自分だけは「日本の行く末を見たい」。十字架を背負いながらもなお生きていく。金吾は主君のあだを討つという使命がある以上、迷いのない人生を送るんですが、十兵衛にはいくつもの迷いがある。死ねるのに死ねない。その対比が面白いなと思ったんです。同じ精神を根底にもつ侍同士なのに、生きざまが真反対。金吾の影におびえながら13年も身を潜めて生きていた彼の切なさやストイックさをしっかり表現したいと思いました。

Q:井伊直弼の暗殺後、車引き・直吉と名乗って家族も作らなかった十兵衛が、長屋で近しくなった子供に笑顔を見せるシーンも印象的でした。

実は、誰とも交流を避けて生きるという選択肢もあったのですが、あえて幼子にはあたたかみを見せるやさしいオジサンを選びました。でも、長屋から一歩外に出ると苦悩を抱えている。その両面を出したほうが強く残るのではないかと信じて演じました。 

柘榴坂の仇討 

■殺陣は魂と魂のぶつかり合い

Q:中井貴一さんとは何度かご一緒されていますが、今回の共演はいかがでしたか?

貴一さんは覚悟を持って現場に入る方なので、今回はなるべく現場で会わないようにしていました。金吾は十兵衛の命を奪うことだけを考えて13年間生きてきた。そんな精神状態だとしたら、僕と現場で会いたくないだろうなと思ったんです。役者って、映像に映るわけじゃないかもしれないけど、そういう無駄なこともやってみたりするんです(笑)。

Q:そのせいもあってか、お二人の殺陣シーンはすごい緊張感でした。

「武士の魂」と言われる刀で向かい合う殺陣は魂と魂のぶつかり合い、演じていても気持ちがいいんです。貴一さんは13年間もただ一つの目的のためにぶれずに生きてきた役なので、筋が通った殺陣をされる。僕はぶれてしまった役だから迷いがある。そこをうまく表現できたような気がします。  

Q:十兵衛が金吾を乗せた人力車を引きながら会話する場面も見どころですが、撮影は大変だったのでは? 

大変でした。スタッフさんに後ろから車を押してもらう手もあったのに、「自分で引きます!」って言ってしまったんです。実際にやってみて後悔しました(苦笑)。しかも、尋常じゃないくらいの雪の中で、坂道を引いた。坂道は勢いをつけて引きたいんだけど、撮影に合わせて速度調整をしなきゃいけないから、つらくて・・・・・・(笑)。まあ、地味な苦労なんですけどね(笑)。 

柘榴坂の仇討 

■武士の精神は、今も日本人の中にある

Q:侍の矜持(きょうじ)を描いた本作から、改めて感じたことはありますか?

武士の精神って、今でも日本人の心の中にあるんです。男の人の中には武士道が、女の人の中にはりんとした清らかさが必ず残っている。「侍」という言葉には今もカッコいい響きがあって、海外の方も何かを感じている。そんな日本の文化がなくなってしまうのは悲しいので、時代劇で残していくのも大切なことだと思っています。僕は俳優として、この作品に参加できたことを誇りに思います。

Q:自分には信念があるのか、自問自答したくなる作品ですね。

それはありますね。僕は優柔不断ですよ(笑)。いや、利便性とか利益とか、そっちに走る人間ではないと思うんですけど、金吾たちの信念に比べたら「自分はいつ日本人の心を失ったんだ?」って考えてしまいます。また貴一さんという方が、義や礼をきちんとされる人なんです。だからこそ、そう感じるのかもしれませんね。