希望と次の世代へのバトンをつなぐ思いを込めた映画

さだまさしが1987年に発表した楽曲「風に立つライオン」を映画化。企画の発端は、本作の主人公・航一郎を演じた大沢たかおが、さだに楽曲の小説化を熱望したことだ。一つの歌が大きな映画へと育っていった過程、そして作品に込めた思いを大沢が語った。

『風に立つライオン』大沢たかお インタビュー

取材・文: 須永貴子 写真: 杉映貴子

『風に立つライオン』の予告動画はこちら

映画『風に立つライオン』は314日より全国公開

さだまさし+三池崇史!?

Q:企画の成り立ちを教えてください。

『解夏』(2004年公開/原作・さだまさし/主演・大沢たかお)に取り組んでいた頃、「風に立つライオン」を何度も聴き返すうちに、自分の心の奥底にあるものとリンクしたのか、歌詞の裏にある世界観を知りたくなりました。そこで、さださんに「映画化を見据えた小説を書いてください」と直接お願いしました。

Q:監督は『藁の楯 わらのたて』で組んだ三池崇史監督です。ヒューマン作品と三池監督の組み合わせが意外でした。

さださんの原作に僕が出演した過去2作(『解夏』『眉山‐びざん‐』)の流れから、この作品も万人にとってわかりやすくて優しい物語だと思われがちですが、全く違います。ある意味すごくビターな話ですし、スケールも大きい。作品から残酷さ、優しさ、むなしさ、悔しさといったものが出てこないと「優しい医者がケニアで人のために頑張りました」でまとめられてしまう。現場に入るときにはすでに、三池さんなら鋭い刃物で人間の深淵(しんえん)に切り込んだ描写をしてくれるという確信がありました。

『風に立つライオン』大沢たかお インタビュー

ケニアロケだから生まれたもの

Q:大沢さんはケニアロケに約30日間参加したとのことですが、衛生面、食事、飲料水、移動、睡眠、風に舞う砂ぼこり、気候の厳しさなど、いろいろ大変だったのではないでしょうか。

おっしゃる通り、ありとあらゆる面で劣悪な環境でした。僕はわりと慣れているし平気だけれど、(看護師・和歌子役の)石原さとみさんが終始平気な顔をしていたのには驚きました。小説の舞台がアフリカのケニアとはいえ、ニュージーランドの外れ辺りでロケをすれば、それらしい映像は撮れます。機材もそろった、より良い環境で。そこで、なぜ、わざわざケニアまで行くのかというと、撮影隊全体が小説に描かれているあの環境に身を置くことでしか映らない何かを求めていたと思うんです。

Q:「大変さ」が作品にとってプラスになると?

あの時代にケニアで医療に従事するという大変な経験をした人たちの話を映画にするときに、作り手が大変さから逃げちゃいけないと思います。実際、ケニアで撮影したことで、登場人物の感覚に近づけて、テクニックを超える何かが生まれたと思います。少年兵を演じているのは現地の子ですし、中にはスラムから連れてきた子もいます。ナース役の人たちはエキストラさんもいれば、本職の方もいます。劇中に映る手脚が切断された人たちは、本当に負傷された方たちです。「ドキュメンタリーっぽいですね」という感想を言われるのは、そういったリアルなものが入り込んでいるからだと思います。

Q:少年兵が負傷する描写は、過酷さが伝わりつつも残虐すぎない。三池作品として、そこも意外でした。

いつもは残酷大好きな三池監督が、特に傷口が映るシーンなどはR指定が付かないように撮っていました。監督は自分の得意技を抑えてでも、この映画をより幅広い世代の人たちに向けて撮ったわけです。なぜなら、この映画自体が「希望」でなければいけないし、大人から次の世代へバトンをつないでいくものを描いているからです。だからといってぬるくしてしまうと、今の厳しい時代においてはキレイごとになってしまう。監督は相当ギリギリを突いて表現されていますよね。

『風に立つライオン』大沢たかお インタビュー

無事に戻れたことが何より

Q:撮影を通して一番印象深いことはなんですか?

無事に撮影が終わって、日本に戻ってこられたことですね。襲われる危険があったので、常にマシンガンを持っている人たちにガードされた状態で移動や撮影をしていたんです。そこで何か事件や事故があったら撮影が中止になってしまうという恐怖感が強くありました。しかも、ちょうどエボラ出血熱の報道が過熱している時期でした。だからこそ事故も事件もなく、誰も死なず、無傷で戻ってくることが大前提なので、無事に終わって本当に良かったです。

Q:そこで何かあったら「自己責任」と攻撃されるご時世ですもんね。

おっしゃる通りです。でも、世界と戦える良い映画を作るためには、枠の外に飛び出さないといけないですからね。

Q:航一郎もそうですが、この作品に出てくる人たちはみな、自分の使命を全うします。大沢さんの使命は「良い映画を作ること」でしょうか?

どうなのでしょう・・・・。顔を知らない人たちから1,800円と人生の中の2時間をいただいて、「これが芸術です」と一方的に映画を見せつける仕事って、ものすごい責任がありますよね。だから、使命以前に、ご縁があってやるからには少しでも「観て良かった」と思ってもらうためにベストを尽くそうと思っています。そうじゃないと神様に「おまえ、何サボってんだよ」って怒られますし、誰も見ていないときの姿も画面に映ってしまうのが、この仕事の怖さだなと思います。

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