淡い感じが色としても残るような心地よい作品

周防正行監督最新作『舞妓はレディ』で、長谷川博己が歌と踊りに挑戦! 舞妓(まいこ)を目指す、コテコテの鹿児島弁と津軽弁を話す少女・春子(上白石萌音)に、京言葉を教えようとする言語学者・京野を熱演した彼が撮影時の苦労話を語った。

取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美

映画『舞妓はレディ』は9月13日より全国東宝系にて公開

舞妓  

■たった3週間で京言葉と鹿児島弁をマスター!

Q:今回は歌と踊りのみならず、流ちょうな京言葉と鹿児島弁も劇中で披露されましたね。

実は、3週間くらいしか稽古期間がなかったんです。他の仕事もやらせていただいていた中で京言葉や鹿児島弁を覚えるというのは、ちょっとプレッシャーでした。でも、周防監督に「お願いします」と言われたからには、「こちらこそお願いします!」という感じでした。それで失敗したら怖いなとは思ったんですけど、まあ、やれない役はオファーされないだろうと(笑)。

Q:そんな短期間でどうやって方言を習得したんですか? 

毎日のように京言葉のお手本の音声データを持って、方言指導の先生たちに確認したりしていました。でも、人によって正解が違うので、混乱したこともありました(苦笑)。また鹿児島弁は練習しているうちに時々、京言葉と鹿児島弁がごっちゃになって、何が何だかわからなくなりましたね。鹿児島弁の先生から、「それは京都です」って言われたりするんですけど、その違いもよくわからない。でも、必死にやりました。人間は窮地に追い込まれたほうが覚醒して、能力を発揮できるのではないかと思ったりしました(笑)。 

舞妓 

現場で体感した周防監督のこだわりとは?

Q:日本映画ならではの情緒と現代ミュージカルのポップさが、うまくミックスされた作品でした。 

いきなりミュージカル映画のようには始まらない、曖昧な感じでスーッと入っていくところが日本っぽいし、それが京言葉の曖昧さとも重なるような気がして、周防監督はそこも狙って作られたのかなと思いました。埼玉県の敷地にオープンセットを組んで撮っていたのですが、花街の雰囲気がよく出ていましたよね。あのセットでお酒を飲みたくなりました。

Q:周防監督からはどんな演出があったのでしょう?

監督は現場に入る前に、疑問点を全部解消してくださるんです。どんな質問にも丁寧に答えてくださるし、こちらが言ったことも尊重してくださって、現場に入ると任せる、という形をとられる。プロとして見てくださっているようで、すごくやりやすかったです。

Q:監督夫人の草刈民代さんとも共演されましたが、お二人との現場はいかがでしたか? 

楽しかったです。初日の撮影で草刈さんのダンスシーンがあったんですけど、監督は何回もそのシーンを撮り直していたんですよ。だから、僕も何度も京言葉をやることになるんだなと思っていたら、僕の演技はだいたい1回で「はいOK!」。もっとやりたい時もあるんですけどね。草刈さんのダンスシーンには、監督のこだわりあるんでしょうね。 

舞妓 

歌の演技に思わず脂汗が!

Q:その中でも、撮影でご苦労されたシーンがあったら教えてください。

京野が研究室で春子に京言葉を教えるミュージカルシーンは、現場で実際に動きながら作っていくのが楽しかったんですけど、撮影時間がタイトだったので、試行錯誤しながら撮るのが大変でした。空間をどう使うか、歌のリズムに合わせてどんな動きをするのか、いろいろ苦労したことを覚えています。

Q:やはり、歌でセリフを伝えるというのは、普段の演技とは違う感覚なんでしょうね。

そうですね。完成した映画を観たとき、自分の歌のシーンは冷静には観られず、脂汗が出てきちゃいました。そこが違う役者さんだったら、より楽しめたのにな、と(笑)。いわゆるミュージカル映画の歌とは違うんですよね。僕が初めに台本を読んだときは、ウディ・アレンの作品に近いのかなと思いました。そしたら、監督も『世界中がアイ・ラヴ・ ユー』のような映画にしたいとおっしゃっていたみたいです。 

■希望の役は忘れた頃にやって来る!? 

Q:長谷川さんはコミカルな役から悪役まで、演技の幅が広くていつも驚かされます。 

僕は、器用に何かをこなすことがあまりできないんです。どちらかというと、つくり込む役の方が好きなんですよ。不思議なことに、自分で選んでいるわけじゃなくて、そういった役を要求してくださる方がいらっしゃるからなんですよね。 

Q:次はどんな役に挑戦したいですか?

言葉に出さないで思っているときの方が、希望の役が来るんですよ。思っていて忘れた頃にかなうというか。だから、今すぐ来てほしいものに関しては、黙っているに限る(笑)。僕の中でのジンクスかもしれませんけど。

Q:最後に、長谷川さんから本作の魅力を伝えてください。

日本文化の奥深さを堅苦しくなくファンタジーとして楽しんで観られる、上質なエンターテインメントです。西洋のカラッとした感じではなく、日本映画ならではの淡い感じが色としても残るような、とても心地よい作品だと思います。笑えるしハートウオーミングだし、ちょっとキュンとするところもあって、どんな方にもオススメできます!