【シネマなアレコレ vol.4】 映画館で音楽を!

コラム

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文=石村加奈

『ソレダケ /that’s it』

(c)2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

最近、映画館で、コンサートやスポーツ観戦の生放送を観るライブ・ビューイングが流行中だ。映画の枠を超えた解放的なイベントは、映画館ならではの環境を駆使した、新しいエンターテインメントとして注目を集める。今回は、大画面のスクリーンと大迫力の音響を活かして、ライブ感覚で楽しめる、新感覚の日本映画2本を紹介したい。

まずは『狂い咲きサンダーロード』(80)や『爆裂都市 BURST CITY』(82)など、デビュー当時から音楽と映像の前衛的な融合に挑戦し続け、世界の映画および音楽ファンを熱狂させている、石井岳龍監督が、久しぶりに取り組んだロック映画『ソレダケ /that’s it』。

社会の底辺でもがく主人公の大黒(染谷将太)は、人身売買ビジネスの重要な情報が詰まったハードディスクを発見し、凶悪ギャングから追われる身となる。調達屋の恵比寿(渋川清彦)、旧知の風俗嬢・南無阿弥(水野絵梨奈)、猪神(村上淳)らと出会う中、大黒はギャングのボス・千手(綾野剛)に無謀な戦いを挑む・・・。

『ソレダケ /that’s it』

(c)2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

ハードなストーリーの強度をより高めているのは、国内外のロッカーからリスペクトを集める、ブッチャーズの音楽だ。本作はもともと、ブッチャーズことbloodthirsty butchersのライブとドラマが交錯する映画という企画からスタートしたのだが、ブッチャーズのリーダー・吉村秀樹氏の急逝後、石井監督がその遺志を受け継ぎ、ブッチャーズの楽曲に触発された、新たなドラマを再構築した。全篇ブッチャーズの音で構成された本作は、徹底的に音にこだわり、単に音を大きくするのではなく、音楽ライブ用の音響機材を使って、映画にとって最適な、極上の音響と音量で上映される。公開に先駆け4月に行われたマスコミ試写では、上映前に耳栓が配られる(!)という、前代未聞の配慮も話題となったが、ブッチャーズの凶暴な爆音が、狂おしくも切なく心に響く、エモーショナルな映画に完成している。

ブッチャーズの音にかき立てられるように、大スクリーンの中を全力疾走する登場人物たちを観ているだけで、こちらの血も騒ぐ。カメラが捕らえた、染谷や綾野の顔には、ほかの作品では見たことのないような、テンションと色気がほとばしっている。特に染谷扮する負け犬・大黒の、クレイジーに加速していく逆走っぷりは“今、この瞬間”を生きる証として、がむしゃらに暴れているような、ストイックさが透けて見えるほどだ。

もう1本は、人気ロックバンドRADWIMPS(本作に出演する、女優の宮沢りえと大竹しのぶ、俳優の佐藤健も、ラッドファンを公言している!)の野田洋次郎を主演に迎えた『トイレのピエタ』。
本作で、野田は主演だけでなく、主題歌の「ピクニック」も手がけた。デビュー以来一貫して、愛や命について歌ってきたRADWIMPSだが、撮影直後に書き下ろしされた歌には、これまでとはひと味違う、色がある。それは、純粋にラッドの曲を聴くというよりも、主人公・園田宏と共鳴した野田のドキュメンタリーでも見ているような興奮から、沸き上がってくる感覚なのかもしれない。撮影中はほとんど主人公と同化していたという彼が、宏が絵を描く心境で作ったという楽曲は、死を恐れることなく、ひたむきに生命の尊さを遺そうとする、素直な輝きに満ちている。映画の最後にスクリーンから届く野田の歌声は、いつものセクシーさとは違った、主人公が生きた世界の全てを浄化するような透明感で胸を打つ。

『トイレのピエタ』

(c)2015「トイレのピエタ」製作委員会

「ピクニック」にたどり着くまでの、物語はこうだ。画家になる夢をあきらめて、窓拭きのバイトで日々をやり過ごしていた宏は、ある日突然、余命3カ月と宣告された。ますます投げやりになった彼の前に現れたのは、生命力みなぎる女子高生・真衣(杉咲花)。汚れのない真衣に導かれて、人生最期の宏の夏は、かけがえのない時間となっていく。ただ惹かれ合い、求め合う二人の、青春のひとときが、スクリーンいっぱいに描かれる。

漫画の神様・手塚治虫が、亡くなる直前までつづっていた、病床日記の最後のページに記された「トイレのピエタ」という言葉にインスパイアされて、本作で劇映画デビューを果たした松永大司監督が、書き下ろしたラブストーリー。物語の根底には、手塚作品の主要テーマでもある“生命の尊さ”が流れている。それは、野田が歌を通して表現してきたことにもつながっている。死を目前に絶望する主人公の体内から、少女へのピュアな恋心が芽生え、やがて生きることへの執念がスパークする様子を、野田は初めての演技とは思えないほど、ドラマチックに体現する。音楽活動で培った説得力は、スクリーンで観客の心をつかむ存在感を放ち、観終わった後には、生きていく勇気と生きていることの幸福感を与えてくれる。

2本とも、カッコいい音楽にふさわしい、大きなエネルギーをはらんだ日本映画だ。作品から伝わってくるフレッシュな熱気を、ぜひ映画館で体感してほしい。

『ソレダケ /that’s it』

『ソレダケ /that’s it』
5月27日よりシネマート新宿にてロードショー!全国順次追撃上映
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
監督:石井岳龍
楽曲:bloodthirsty butchers
出演:染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳/綾野剛
(C)2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

『ソレダケ /that’s it』作品詳細

『トイレのピエタ』

『トイレのピエタ』
6月6日(土)新宿ピカデリー他全国公開
配給:松竹メディア事業部
監督・脚本:松永大司
原案:手塚治虫
原作:松永大司『トイレのピエタ』(文藝春秋刊)
主題歌:野田洋次郎(RADWIMPS)「ピクニック」(ユニバーサル ミュージック)
出演:野田洋次郎/杉咲花、リリー・フランキー、市川紗椰、古舘寛治、MEGUMI、岩松了、大竹しのぶ(友情出演)/宮沢りえ
(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

『トイレのピエタ』作品詳細

記事制作 : Avanti Press