【ハリウッド★トレンド通信 Vol.5】 “愛”は“記憶”を超える その瞬間、あなたが選ぶ愛のカタチは?

コラム

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 文=ロサンゼルス在住ライター 町田雪

『アリスのままで』

『アリスのままで』
(c)2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

人が生きていくために大切なものはたくさんあるが、“記憶”の果たす役割はとても大きい。昨日より今日、一歩進むため、人生を築き上げるため、愛を育むため、自分が自分であり続けるため・・・。あたり前のように、記憶は私たちの日々を支えてくれている。それでも、多くの人は年を重ねるごとに、記憶が続くスパンを縮め、鮮明さを欠き、やがて、失うことを経験する。そのとき、支えになるのは何なのか? 記憶を超える様々な愛のカタチを描いた映画を紹介したい。

『アリスのままで』

『アリスのままで』
(c)2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

若年性アルツハイマー病を患った女性を描いた『アリスのままで』が訴えるのは、“受け入れる愛”。名門コロンビア大学の言語学教授であるアリス(ジュリアン・ムーア)は、3人の子どもたちと、医師の夫ジョン(アレック・ボールドウィン)に祝福され、幸せな50代を歩み始める。が、まもなく、講義中に使い慣れた言葉を忘れ、キャンパス内をジョギング中に迷子になる・・・。

生涯をかけて、言語に魅せられ、言語を操り、言語で人を惹きつけてきたコミュニケーションの達人。そんな自分が、言葉を忘れ、職場を忘れ、約束を忘れ、やがて、家族を忘れ、自身を忘れる。日々、記憶を失い続けるアリスは、携帯電話に自分の誕生日や子どもたちの名前をメモし、毎日、反復テストを行う。そして、そのすべてを忘れてしまったときのために、未来の自分へのビデオレターを残す。そこには、自分が“アリスのままで”いるためのメッセージが込められていた――。

『アリスのままで』

『アリスのままで』
(c)2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

そんなアリスを、家族は各々の愛のカタチで支える。取り乱す妻を優しく抱きしめる夫。発症後に講演を行うことを決意した母を勇気づける息子トム(ハンター・パリッシュ)。なかでも、対照的な2人の娘のリアクションが印象に残る。母の物忘れを指摘しながら、記憶の漏れをとどめようと必死になる長女アナ(ケイト・ボスワース)。一方、アリスの悩みのタネであった女優志望の次女リディア(クリステン・スチュワート)は、同じ話を繰り返す母をそのまま受け入れ、何事もなかったかのように同じ言葉で答え続ける。アリスにとって必要な愛は、「がんばれ」「忘れないで」ではなく、「それは恐い感覚だね」「今そう思うなら、それでいいんじゃない」と認めてもらうことだったのだろう。言葉を発することすらできなくなったアリスに寄り添い、愛を語り続けたのは、ほかでもないリディア。アリスが自分を失ったとしても、リディアのなかでは、いつまでも“母アリスのままで”あり続けるのだ。

『アリスのままで』6月27日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかで全国ロードショー

『アリスのままで』作品詳細

『きみに読む物語』

『きみに読む物語』
(C)MMIV NEW LINE PRODUCTIONS, INC. (C)MMV NEW LINE HOME ENTERTAINMENT,INC. ALL RIGHTS RESERVED.

珠玉のラブストーリーと称えられた『きみに読む物語』では、“呼び戻す愛”が描かれる。認知症を患い、施設で療養中の老年女性(ジーナ・ローランズ)と、彼女に物語を読んで聞かせる老年男性デューク(ジェームズ・ガーナー)の姿から始まる冒頭。映画は、話のなかに登場する若い男女のフレッシュな恋愛模様と、その話に引き込まれる老女の様子を、交互に映し出していく。

物語の舞台は、1940年の米南部。ワイルドで奔放な父子家庭の青年ノア(ライアン・ゴズリング)は、ある夏、休暇に来ていた裕福な家庭のお嬢様であるアリー(レイチェル・マクアダムス)に一目惚れ。2人は激しく惹かれあうも、厳格なアリーの家族によって引き裂かれる。その後、ノアは徴兵され、アリーは弁護士と婚約するが――。「それで2人はどうなったの?」「まさか、そのまま別れたわけじゃないでしょう?」と、話の先が待ちきれない様子の老女。ノートに綴られた物語が終わった瞬間、それが自分と目の前にいるデュークの話であったことを思い出す。このノートは、まだ記憶が残っていた頃に、老女が2人の愛の軌跡を綴り、夫のデュークに託したもの。初めのページには「私がすべてを忘れたら、このノートを読んでね。きっと、あなたのもとに戻るから」とのメモ書きがしてあるのだ。

『きみに読む物語』

『きみに読む物語』
(C)MMIV NEW LINE PRODUCTIONS, INC. (C)MMV NEW LINE HOME ENTERTAINMENT,INC. ALL RIGHTS RESERVED.

ただし、老女の記憶が続くのはわずかな時間だけ。デュークは“戻ってきた”愛しい妻と抱き合い、ダンスを楽しむが、老女はすぐに「あなたは誰?」と突き放し、パニックに陥る。涙を流すデューク。あっというまに他人同士になってしまう2人の姿が本当に切ないシーンだ。それでもまた、翌日も同じノートを読んでは、記憶が戻るわずかな時間を待ち望む。そんなデュークの“呼び戻す愛”が、老夫婦に究極の奇跡を起こすことになる。

『きみに読む物語』

『きみに読む物語』
(C)MMIV NEW LINE PRODUCTIONS, INC. (C)MMV NEW LINE HOME ENTERTAINMENT,INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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DVDスペシャルプライス ¥1,200(税抜き)
発売元:ギャガ 販売元:ハピネット

『きみに読む物語』作品詳細

同じく、老年の認知症の妻と夫の姿を追いながらも、逆に“突き放す愛”を描いているのは『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』だ。まだ一緒にいたいと懇願する夫グラント(ゴードン・ピンセント)を説得し、強い意志で認知症患者の施設に入る妻フィオナ(ジュリー・クリスティ)。面会禁止の1カ月を経て、グラントが施設を訪ねると、フィオナは、施設内の別の男性オーブリー(マイケル・マーフィー)と絆を築き上げている。傷つき動揺するグラントは、解決の糸口を見つけるべく、オーブリーの妻マリアン(オリンピア・デュカキス)を訪ねるが――。

妻が本当に夫を忘れているのか、本当に別の男性に惹かれているのか、見ている者に判断が委ねられる展開。やがて、「どうして、私を見捨てないの?」と優しくグラントに語るフィオナの姿に、彼女がすべてを忘れているわけではないことを知る。それでも、「あなたといると混乱するから」と、オーブリーのもとへ行こうとするフィオナ。愛しているから混乱する。また忘れたら苦しむから。愛しているからこそ突き放す。なんとも切ない決断だが、これもひとつの人生の選択、愛のカタチなのだろう。

『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』作品詳細

このほか、渡辺謙、樋口可南子主演の『明日の記憶』では、若年性アルツハイマー病を発症した広告代理店の敏腕営業マンと、その妻の“寄り添う愛”が描かれる。日本のテレビドラマ『Pure Soul~君が僕を忘れても~』と、同作をもとにした韓国映画『私の頭の中の消しゴム』には“支え抜く愛”が感じられる。

『明日の記憶』作品詳細

『私の頭の中の消しゴム』作品詳細

認知症ではなかったとしても、記憶とのつきあい方は、誰もが抱える永遠のテーマ。そのときが来たときに、自分なら、どんな愛のカタチを選ぶだろう。あなたなら?

記事制作 : Avanti Press

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