【シネマなアレコレ vol.1 70年代ファッション in LA】 ヒッピー探偵のオフビート・ノワール『インヒアレント・ヴァイス』

コラム

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文=松本典子

『インヒアレント・ヴァイス』

(C)2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC,AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

サンローラン、プラダ、ドリス・ヴァン・ノッテン・・・に限らず70年代をテーマにしたコレクションを発表しているハイブランドも続々、な今年の春夏です。明るい色目のフラワーやらボヘミアンなプリントにフリンジ、デニムならばベルボトムなど70年代ファッションはヒッピーでハッピー。人は欠けているモノを求めてしまう? と考えるとちょっと切ない気分にもなりますが、いえいえ、単純にそのかわいらしさ、ラフで自由な気分を満喫すればいいのです。春もたけなわになりつつある今日この頃なのですから。
その前に観ておくことオススメしたいのが、70年代ファッションをまとった登場人物が次から次へと登場する『インヒアレント・ヴァイス』。着こなしの参考になるのはもちろんインテリアや音楽も含めて、ヒッピー、サーファー、マリファナ、神秘主義、ロック、コミューン・・・などをキーワードとしたあの時代の空気感をたっぷりと浴びることができる作品です。

LAにあるゴルディーダ・ビーチのボロアパートに居を構える主人公ドック(ホアキン・フェニックス)はサンダル履きで歩き回っているヒッピー風情の探偵で、元恋人シャスタ(キャサリン・ウォーターストン)からある依頼を受けたことにより陰謀に巻き込まれます。不動産王ミッキーの愛人となっていたシャスタに「妻と彼女の愛人がミッキーの財産を狙っている。ミッキーを守ってほしい」と告げられたのです。
そんなシャスタが身につけているワンピース、早くもカワイイ!とはしゃがずにはおれません。クロシェ編み(かぎ針編み)のニットドレスは清楚に整えられたヘアスタイルとともに品格を漂わせ、それでいて超ミニ丈ゆえの健康的なセクシーさも兼ね備えていて。“ビキニにTシャツを羽織っただけ”の彼女しか知らなかったドックとしては、その見違える変身ぶりに戸惑いが5割増。ワケあり美女に未練たっぷりの男が翻弄されるという古典的な図式がこれから始まる? という印象的なシーン&ファッション、見逃せません。

『インヒアレント・ヴァイス』

(C)2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC,AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

手がかりを求めてドックが訪れたのは、造成中の広大な住宅予定地にポツンと建てられた怪しげな風俗店。ファッション目線で言わせていただくなら、従業員であるジェイド(ホン・チャウ)のアジアンなドレスやメイクはきわどくも実にキュートで! これまた目が離せません。ビーズののれんや壁に描かれたエロかわいい女体ペインティングも抜かり無し。いかがわしさと茶目っ気がミックスされたどこかフレンドリーなセンスに感心していたら、ドックは何者かに殴られて気を失い、目覚めたときにはボディガード殺害の容疑を掛けられて・・・。
記者を装ったドックが潜り込んだトパンガ(今もヒッピー&スピリチュアルに人気なLA郊外の町)の一軒家には、これまた血中ヒッピー濃度がいかにも高そうな若者たちが誰彼かまわず入り浸り。ゆえにペイズリーやフラワープリント、フォークロアな刺繍もどっさり。古びた屋敷の調度と相性抜群な彼らのコーディネート、瞬き厳禁でご堪能あれ。そうそう、対照的な大富豪ミッキーの邸宅では彼の妻がまとっている水着も必見(というか忘れられない)。70年代の別の顔を見せてくれて鮮烈、LAの伝説的なデザイナールディ・ガーンライヒっぽいグラマラスさをお楽しみに。

ドックが探し出そうとするミッキーがややこしい男で(ユダヤ人なのにナチズムを好み、さらに白人暴走族集団をボディガードに雇うって!?)、そんな彼の領域に足を踏み入れたわけですから、案の定ドックは次々と不可解なことにぶち当たり、ヘロイン密売組織にまで首を突っ込むけれど、その都度(マリファナのせいなのか、性格なのか)のらりくらりしながら対処していきます。彼の場合は若き日のニール・ヤングを参考にしたというファッションもさることながら、オフビート感溢れる行動こそがオシャレといえるかもしれません。

『インヒアレント・ヴァイス』

(C)2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC,AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

ドックの右往左往を見守りながら、やがて見えてくる結末は(ストーリーのネタバレは避けますが)それこそが“インヒアレント・ヴァイス(Inherent Vice)”つまり“もともと内在している欠陥”なのでした。もはや60年代的な理想主義を貫けなくなった70年代アメリカ社会のほころび、そもそも人間が隠し持っている弱さなどといった欠陥。これらをサラリとあぶり出しはするもののことさらに糾弾するでもない。それが現代文学の世界最高峰のひとりとも言われる原作者トマス・ピンチョンの卓抜した視点であり、ややこしくも魅力的なこの作品をみごとに映像化してみせた監督ポール・トーマス・アンダーソンの演出力でもあります。まあ、小難しいことは置いておきましょう。誰しも避けられない欠陥を持っているとするなら、せめて刺繍入りチュニックや小花柄のワンピースくらいは楽しんで。

『インヒアレント・ヴァイス』

(C)2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC,AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
原作:トマス・ピンチョン「LAヴァイス」
衣装:マーク・ブリッジス
美術:デイヴィッド・クランク
音楽:ジョニー・グリーンウッド

ヒューマントラストシネマ渋谷、
シネ・リーブル梅田ほか全国公開中
公式サイト:www.inherent-vice.jp

記事制作 : Avanti Press