【映画の料理作ってみたら vol.2】 真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

コラム

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文=金田裕美子

外国映画ではよく見かけるけれど、ニッポンに住む私たちの日常ではめったに食べることがないもの、ロブスター。彼らの特徴はなんといってもあの巨大なハサミです(伊勢海老を含む大きな海老の総称としてこの言葉が使われることもあるようですが)。その挟む力は人間の指さえ切断できるくらい強く、性格も凶暴なんだとか。そんな恐ろしい生物なのに、茹でると真っ赤になって、いかにも「ごちそう!」という雰囲気になるから不思議です。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

ハサミは固定されているものの、よく見ると発泡スチロールの内側がえぐれてます。コワイよー。

ロブスターが登場する映画といえば、真っ先に思い浮かぶのが『アニー・ホール』。ウディ・アレン扮するコメディアン、アルヴィが、ダイアン・キートン扮する歌手志望の恋人アニーとロブスターを料理しようとしてとんでもない修羅場に発展します。買ってきたロブスターが紙袋から脱走してキッチンの床を這いまわり、アルヴィは「警察に電話しろ!」などと叫びながらオールまで持ち出してきてロブスターと大格闘。アニーは手でひょいとロブスターを捕まえるものの、「生きているものを熱湯に入れるなんてできない!」とこれまた大騒ぎ。キャーキャー言いながらカメラでアルヴィの雄姿(?)を撮りまくります。このドタバタ・シーン、ダイアン・キートンはおそらく演技ではなく、素で大爆笑しているのでチェックしてみて!

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

『アニー・ホール』のダイアン・キートンとウディ・アレン

と、ここでよく見ると、床を這っているロブスターは5尾。さらに冷蔵庫の後ろにも1尾隠れているらしいので、計6尾いることになります。ということは1人3尾ずつ食べようとしていたのでしょうか。いくら殻を外すとはいえ、このサイズのロブスターは身もかなりなボリュームです。余計なお世話ですが、いくらなんでも1人3尾は多い。でもきっと、ビーチハウスでのデートに舞い上がった2人がたくさん買い込んでしまったのでしょう。何とも可愛いカップル。でもこのあと、いろいろあって2人は別れてしまいます。アニーを諦め切れないアルヴィは、「心を癒すには新しい恋人を作るしかない」という助言に従って別の女性をビーチハウスに連れて来ます。ここでまたもやロブスターが脱走、ドタバタ再現か――と思われますが、今度の彼女は「たかがロブスター相手に大の大人が何やってるの?」とツレない。アニーとの楽しかった日々を嫌でも思い出す結果になってしまいます。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

『アニー・ホール』 ブルーレイ発売中 1905円+税
発売元:20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント
(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『アニー・ホール』作品詳細

高級食材ロブスターは
心躍るごちそう

アルヴィが女性と付き合う度に食べさせようとしたように、どうやらロブスターはここぞというデートに使う「勝負ディナー」のようです。トム・ハンクスとダリル・ハンナ主演の『スプラッシュ』にもそんなシーンがありました。青果会社を営むアラン(ハンクス)は、海で溺れそうになった時に助けてくれた謎の美女、マディソン(ハンナ)にニューヨークで再会。彼女は実は人魚なのですが、そうとは知らないアランは彼女にプロポーズすべく高級レストランに連れて行きます。そこで運ばれてきたロブスターに目を輝かせたマディソンは、いきなり殻ごとバリバリ食べ始めて周囲の人々を凍りつかせます。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

『フラッシュダンス』にもロブスターが勝負ディナーとして登場します。一流ダンサーになることを夢見るアレックス(ジェニファー・ビールス)は、夜はバーで酔客相手に踊り、昼間は溶接工として働く毎日。彼女が住んでいるのはかつて鉄鋼業で栄えた町、ピッツバーグという設定です。そんな彼女をボスである鉄工所の社長、ニック(マイケル・ヌーリー)がデートに誘います。「貧しかった子どもの頃はこんなレストランで食事をするのが夢だった」とニックが語る高級レストランで、アレックスが食べているのが、出ました、ロブスター。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

ジェニファー・ビールスがロブスターで誘惑
『フラッシュダンス』 DVD発売中 1429円+税
発売元:パラマウント ジャパン
(C)1983 Paramount Pictures. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 

『フラッシュダンス』作品詳細

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』には、怪しげな証券取引で億万長者になったジョーダン(レオナルド・ディカプリオ)がFBI捜査官に「お前ら貧乏人はこんなもの食えないだろう」とクルーザーに用意してあったロブスターを投げつけるシーンがあります。ロブスターはかつて、ニューイングランド地方の貧しい人や囚人の食べる物だったそうですが、生けす付の船で生きたまま運べるようになってから大人気になりました。今ではすぐ近くのロングアイランドなどで豊富に獲れるニューヨークでも、ロブスターは高級食材。アレックスの住む内陸の町ピッツバーグではさらに心躍るごちそうなのかもしれません。内陸の田舎町を舞台にした『ギルバート・グレイプ』でも、大型スーパーの目玉商品が巨大水槽に入ったメイン産の活ロブスターでした。こんなに素敵なものを売っている素敵なお店、というアピールなのでしょう。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

海外からはるばるいらしたお2人

そんな高級食材を、アレックスは味わうというより悪用(?)します。身を小さくむしっては上目使いで意味ありげにしゃぶったり、指を舐めたり。しまいにはテーブルの下で足を伸ばしてニックにちょっかいを出すなど、かなり露骨にモーションをかけます。『スプラッシュ』のワイルドなマディソンとはえらい違いです。勝負ディナーのつもりがまんまと返り討ちにあうニック。それでも下品に見えないのは、演じるジェニファーの可憐さゆえでしょうか。

さらに、1910年代から40年代にかけて活躍した女優、ファニー・ブライスの半生を描くミュージカル『ファニー・ガール』でも、二枚目のギャンブラー、ニック(オマー・シャリフ)がファニー(バーブラ・ストライサンド)にロブスターを食べさせます。その前の晩は高級レストランの個室でゴージャス・ディナー、今日は掘立小屋みたいなおんぼろ食堂でロブスター。美味しいものを知り尽くしているのだろう粋なニックに、ファニーはメロメロになってしまいます。こちらは勝負ディナー、大成功。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

『ファニー・ガール』 ブルーレイ発売中 2381円+税
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

『ファニー・ガール』作品詳細

英語で「ロブスター」
フランス語では「オマール」

さて。わたくし、別に勝負の必要に迫られているわけではありませんが、いっちょロブスター料理に挑戦してみたいと思います。・・・と張り切ってはみたものの、そもそもロブスター、どこで手に入るのかがわかりません。その辺の魚屋さんでももちろん見たことはなく、結局ネットに頼ることにしました。ロブスターといえばメイン州産が有名ですが、流通しているのはカナダ・アメリカの東海岸またはヨーロッパ沿岸産のものが主流らしい。「ロブスター」と「オマール」は単に英語とフランス語の呼び名の違いのようです。ちなみに彼らはやたらと長生きで、2008年にカナダ沿岸で捕獲された9.1キロの巨大ロブスター(ジョージと名前までついている)の推定年齢はなんと140歳! 樹か、君は。日本でいうと戊辰戦争が終わった頃に生まれた老ジョージは、ニューヨークのシーフードレストランに買われ、最終的には海に戻してもらったそうです。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

ロブスター漁用のカゴが積み上がった漁港
photo by chowey / PIXTA

我が家にやって来たのは、約600グラムのロブやん2尾。堂々たる体躯で、発砲スチロールの箱の中を窮屈そうにゴソゴソ動いています。あの恐ろしいハサミはゴムバンドで固定されており、指を失う危険性はなさそうです。ロブスターの調理法にはクリーム系のソースをのせて焼いたテルミドールなどもありますが、映画に出てくるのは大抵、そのまま茹でる、蒸す、焼くなどシンプルに調理されたもの。今回は『アニー・ホール』の2人にならって茹でることにしました。大きめの鍋にお湯を沸かして多目に塩を入れ、いざ、投入!

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

わたくし、こういうことは割と平気な人間だと思っておりましたが、元気にハサミ振り上げるロブやんたちを熱湯に放り込むのは結構勇気がいります。アニーの狼狽が初めて理解できた気持ちです。『ジュリー&ジュリア』でも、フランス料理のレシピ本に載っている料理をすべて再現しようとする作家志望のジュリー(エイミー・アダムス)が、ロブスターを鍋に入れる際に散々ためらっていました。ジュリーが意を決して鍋に投入し蓋をすると蓋がばーんと飛ぶ、という演出はちょっとやりすぎかと思いますが、実際にロブやんたちは熱湯の中でもしばらく動いておりました。ごめんねごめんねごめんね。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

茹でると真っ赤な「ごちそう!」
となる狂暴な生物ロブスター

茹で時間は大きさによりますが、今回は10分ほど。身がかたくなるので茹ですぎは禁物です。きっかり10分、引きあげてみると、投入時の罪悪感はどこへやら、真っ赤に茹であがったロブやんたちの美しい姿に俄然テンションがあがります。なるほど、この昂揚感が「勝負ディナー」の秘密だったのね。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

凶暴な生物から今やごちそうに変身したロブやんたち。レストランなどでは、お皿にでんと置かれて溶かしバターが添えられることが多いようです。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

食べる際にはまず爪(火が通るとなぜかハサミでなくこう呼びたくなります)と頭をはずします。おー、味噌たっぷり。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

次にテールの内側の薄い皮をハサミでじょきじょき切って身を取り出します。爪は殻割り器などを使うと便利です。バターをレンジでチンして溶かし、レモンをぎゅっと絞ります。もうひとつ、みじん切りのにんにくとパセリを加えたガーリック・バターソースも作りました。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

ロブスター・サンド 

今回は「料理」というほどの作業ではなかったような気がするので、いま日本でも話題のロブスター・サンドも作ってみます。と言っても、ロブスターの身を刻んで先ほどのソースで和え、パンに挟むだけ。さあこれで完成です! どこまで勝負できるかは分かりませんが(なんの?)、豪快にかぶりついてみましょう。

真っ赤なロブスター料理は ここぞというときの勝負ディナー 『アニー・ホール』『フラッシュダンス』

材料
 活ロブスター
 水
 塩
〈バターソース〉
 バター
 レモン
〈ガーリック・バターソース〉
 バター
 ニンニク
 パセリ
〈ロブスター・サンド〉
 上記+ホットドッグ用パン

映画っぽい気分を盛り上げる小道具
 紙袋
 記念撮影用カメラ
 オール(取扱い注意)

映画っぽい気分を盛り上げる大道具
 ビーチハウス
 クルーザー

記事制作 : Avanti Press

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