【ニャンともわんダフルシネマ vol.3】止められにゃいの! 私はにゃんこストーカー

コラム

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文=島崎奈央

◆にゃんこジャンル:谷中のにゃんこ(多数ご出演!)

(C)2009 浅生ハルミン/『私は猫ストーカー』製作委員会

◆にゃんこジャンル:谷中のにゃんこ(多数ご出演!)

 猫に対する自分の言動について、ああ、これ、人間に置き換えたらアウトだな、と思うことが、しばしばある。 たとえば、自分の家の猫に唯一無二の愛情を注ぐと同時に、世の中の猫をすべからく愛していることについて。「猫だったらどの子もかわいい、触りたい。うちの子は特別だが、それとこれとは別のもの」。これが異性についての発言だったら、結構ひどい。「男(女)だったら誰でもいい、触りたい。うちの人は特別だが、それとこれとは別のもの」。高尚だった博愛の心が、にわかにおかしくなってくる。 道で会った猫におやつをあげる行為。これも人間相手にやってはだめだろう。すぐさま近隣の小学校でPTA招集会議が開かれる。知らない子の写真を無断で撮る、あまつさえPCの壁紙にするなんていうのは、最高にまずい。「道でかわいい子を見かけるとね、あとを追いかけて、こっそり写真撮るのが趣味なんです」。お縄は必至、社会的に死んでしまう。 でもおそらく、見知らぬ猫への声かけやつきまとい行為を常習しているのは私だけではないはず。きっと多くの愛猫家がそうだ。そんな人たちから絶大な共感を集めそうな映画を紹介したい。その名も「私は猫ストーカー」(09)。タイトルからして、“呼ばれた”感がありはしないか。

「私は猫ストーカー」

(C)2009 浅生ハルミン/『私は猫ストーカー』製作委員会

 主人公のハルは妙齢の女子。イラストレーターの仕事をほそぼそ続けるため東京に暮らし、あまり忙しそうではない古本屋でバイトをし、その近所の古びたアパートに住む。趣味は、町中で見かけた猫を追いかけること。休日は明け方に起きて、日がな一日猫を求めて町をさまよい、猫が通りかかれば跡をつけ、道端にたたずんでいればにじり寄って、素知らぬ顔で距離を詰める。触ることができれば最高だが、見守るだけでも構わない。動向を観察し、カメラで撮影し、家に帰ってイラストにする。それが彼女の日常。

「私は猫ストーカー」

(C)2009 浅生ハルミン/『私は猫ストーカー』製作委員会

 そんな彼女が編み出したストーキングの極意が、劇中で数々開陳される。まずは「なるべく低い姿勢で近づく」。「瞬きを多くして時々目を逸らし、敵意がないことをわかってもらう」。そして極めつきは「猫の鼻先に人差し指をそっと近づける」。多くの猫好きが思うに違いない、この人差し指戦法を知っているあたり、ハル、あなたなかなかやるわね、と。猫に親しんだことのない人には意外な知識かもしれないが、猫というのは人差し指を差し出されると、ついフンフン嗅いでしまうという可愛い習性を持った動物なのだ。「猫が脚に額をこすりつけ、電柱扱い」をしてくれたら、関門突破は近い。ようやくナデナデのチャンスがやってくる。「そんなに簡単に触らせてくれませんよ」と猫初心者を諌めるハルの言葉通り、猫へのストーキング行為は一朝一夕に可能なものではない。忍耐を忍耐と思わぬ猫愛と日々の研鑽の賜物なのだ。

「私は猫ストーカー」

 劇中に登場する猫、ざっと40匹(数えました)。キジトラ、ハチワレ、白猫、黒猫、白黒のブチ、三毛、茶トラにいたっては短毛も長毛も。雑種猫の見本帳みたいに、たくさんの猫さまが拝める。目的ありげに塀のうえを早歩きするする子、自転車や人の往来のままある道でおもむろに無言の立ち話をする仲良したち、建物と建物の奥まったところで影と化す一匹、近所の猫婆さんにご飯をもらう集団・・・・・。細道と猫はよく似合う。ロケ地の谷根千に暮らす本物の(?)野良猫、あるいは散歩猫のごくごく自然な姿と表情が捉えられている。どの子も人に媚びず、本人(本猫)がそこにいたいからいる、といった風情なのがよい。 映画はもちろん、猫へのストーキング行為を散漫に撮っただけのものではない。ささやかながら奥深いドラマが展開する。 かつて一緒に暮らしていたハルの元恋人が、もうじき結婚すると知らせてよこす。猫の動向を調べて歩くハルのまえに、ハルの動向を気にする青年が現れる。古本屋の看板猫が消え、緩衝剤の役割を担っていた愛猫がいなくなったことで、店主夫婦は、自分たちの間のしこりに向き合わざるを得なくなる。描かれるのは、人と人の距離感みたいなもの。猫みたいに、違う世界に住むもの相手だったら、むしろいっそ楽だ。

 原作は、イラストレーターの浅生ハルミンが、自身の猫ストーキング行為を綴った同名エッセイ。ハルの周りで展開するドラマは映画ならではの脚色だが、劇中に登場するハルのイラストや猫マップは浅生本人の手によるものだ。彼女が歌詞を手がけた主題歌も必聴とお薦めしたい。自身がストーカーであることを明るく高らかに歌い上げる、ある意味シュールな一曲で、聴いているうちにあなたも私も猫ストーカー、という共感する気持ちが強く湧いてくる(のは私だけでしょうか)。エンドクレジットは、そんな主題歌と浅生のイラストが堪能できる作りなので、最後までしっかり鑑賞してほしい。

DVD「私は猫ストーカー」

「私は猫ストーカー」 DVD好評発売中!
¥3,990(税込)
特典映像:メイキング、インタビュー、浅生ハルミンの猫ストーカー指南、劇場予告編、フォトギャラリー、オーディオ・コメンタリー
発売元:ワコー、マクザム、天空

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)