【シネマなアレコレ vol.2 愛されジュエリー】女子にはいつだって、愛とプライドとジュエリーがなくちゃ!

コラム

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文=石村加奈

愛を積むひと

ふぞろいな真珠のネックレスが胸元を飾ったとき、本作『愛を積むひと』(6月20日公開予定)のヒロイン・良子(樋口可南子)の顔が華やかにほころんだ。真珠の贈り主は、そんな良子の肩にそっと手を置いて、やさしく微笑む夫の篤史(佐藤浩市)。誠実な夫の愛を受けてきた女性のプライドが、宝石に負けぬほど輝く、印象的なシーンだ。長年、不器用な夫を支えて無理を重ねた結果、重い心臓病を患った良子だが、たしかに彼女は幸せだったのだろう。

いつの時代も、不器用な男性とは、愛する女性にジュエリーを贈ることで、想いの深さを伝えようとするもの。 例えばハリウッド女優からモナコ公妃へと華麗な転身を遂げ、映画よりもドラマチックなシンデレラ・ストーリーを歩んだ、グレース・ケリー。結婚の際、レーニエ3世から、10.47カラットのダイヤモンド・リングをはじめ、あまたのカルティエのハイジュエリーが贈られたエピソードは、時を超えた今もなお、世の女性たちの憧れだ。そんなケリーの半生を描いた映画『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』(14)には、モナコ公国の同意のもと、カルティエの協力で完璧に複製された、エレガントなジュエリーが登場。女優らしいアイデアで、夫を窮地から救おうと奮闘するタフなヒロインに艶を添えた。

『愛を積むひと』の真珠のネックレスも、ささやかだが、主人公夫婦の歴史が積み重なった、世界にひとつだけの光輝を誇る。毎年良子の誕生日に、篤史は一粒の真珠を贈り続けてきた。景気の良い年も悪い年も、その年を表すように、色も形も、大きさもそれぞれ異なる真珠は、30年という年月が重なって、ようやく1本のネックレスになった。前述シーンの、目がくぎ付けになるほどの良子の美しさは、30年分の篤史の信頼と愛に抱かれた喜びによるものだ。このかけがえのないネックレスを作ったのは、銀座に本店を構えるジュエリーブランドのミキモト。本作の脚本に感銘し、映画では初めてオリジナルデザインから手がけた。現在、ミキモトでは真珠のパーツ販売はしていないが、監督のイメージを具現化すべく、真珠の粒一つひとつの吟味と選定を重ね、3カ月の時間を経て、完成に至った逸品だ。

「愛を積むひと」

(C)2015「愛を積むひと」製作委員会

またこのネックレスは、エドワード・ムーニー・Jr.が書いた原作小説「石を積むひと」と本作を結ぶ重要なアイテムでもある。長年連れ添った夫婦が、第2の人生をどう過ごしていくのか・・・。 普遍的なテーマで、老夫婦の人生を愛おしくつづったアメリカ小説を、日本映画で再現するという試みの本作。映画化にあたって、主人公夫婦の年齢を、原作の70代の設定から、定年後の人生設計をリアルに描き始める50代後半にスイッチするなど、いくつか変更することで、いまを生きる私たちに、より寄り添った物語となっているが、作品の礎となる「大切なものを失っても、傷ついた心は取り戻すことができる」という思いは一致している。原作同様、悲しみにくれる夫のもとへ次々と届く亡き妻からの手紙とともに、真珠のネックレスはその象徴である。そして、それらに込められた良子の想いは、閉ざされた篤史の心を溶かす。やがて勘当していた娘の聡子(北川景子)と和解するときにも、村の人々との交流にも。真珠のネックレスをたどっていけば、篤史の新しい世界へとつながっていくのだ。

ネックレスが物語の鍵を握る映画と言えば、心の中でずっと煌めきを失わない、まさに宝石のような恋を描いた『タイタニック』(97)もロマンチックな作品だ。フィアンセのキャル(ビリー・ゼイン)から贈られたときには、ヒロイン・ローズ(ケイト・ウィンスレット)にとって「重たいだけ」のブルー・ダイヤモンドのネックレスが、物語が進むにつれ、キャルの“愛のしるし”から、運命の人・ジャック(レオナルド・ディカプリオ)との永遠の愛の象徴へと変わってゆくロマンスは、何度観てもため息がこぼれる。

逆に、ジュエリーが悲しみの扉を開けてしまうこともある!? ウディ・アレン監督の『恋のロンドン狂騒曲』(10)では、作中でダイヤよりセクシーとされる、真珠のイヤリングが、ナオミ・ワッツ扮するヒロインのサリーに、密かに好意を寄せていた上司(アントニオ・バンデラス)と親友(アンナ・フリエル)との不倫関係を気づかせるきっかけとなる。ほかにも、香水を贈りたい老人とカルティエのブレスレットをねだる若い女のすれ違いや、不機嫌な妻をさらに怒らせる、ピアスに関する夫のひと言など、複雑な恋愛模様をひもとく、巧みなジュエリー・ネタが随所に散りばめられている。時には宝石の光に導かれて、映画の世界に魅了されてみてはいかが?

「愛を積むひと」

(C)2015「愛を積むひと」製作委員会

『愛を積むひと』
2015年6月20日(土)全国ロードショー
配給:アスミック・エース/松竹
原作:「石を積むひと」エドワード・ムーニー・Jr.(小学館文庫刊)
監督:朝原雄三
脚本:朝原雄三、福田卓郎
出演:佐藤浩市、樋口可南子、北川景子、野村周平、杉咲花、吉田羊、柄本明

記事制作 : Avanti Press