【シネマなアレコレ vol.5】とっておきの夏旅に出たいアナタに。ミア・ワシコウスカとリース・ウィザースプーンが歩いたスペシャル旅

コラム

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文=松本典子

『奇跡の2000マイル』

『奇跡の2000マイル』
(C)2013 SEE-SAW (TRACKS) HOLDINGS PTY LIMITED, A.P. FACILITIES PTY LIMITED, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, SCREEN NSW AND ADELAIDE FILM FESTIVAL

さて夏休み、旅したいアナタはどんなプランを立てるでしょうか? 注目の観光地やパワースポットを目指したり、ラグジュアリーリゾートでまったりしたり、行き当たりばったりでドライブ旅に出てみたり。旧知の友を訪ねるというテもあるでしょう。けれども、旅慣れるほどに「行ってみたい!」と心躍るデスティネーションは減ってしまって、どこ行けばいい? と迷い出したアナタならば、これからご紹介する“超弩級なスペシャル旅”にインスパイアされるかもしれません。

なぜだかこの夏、女性の一人旅を描いた作品が立て続けに公開されます。どちらも力強くて、美しい作品。もちろん面白い。何より、そんじょそこらのひとり旅ロードムービーではありませんから。『奇跡の2000マイル』と『わたしに会うまでの1600キロ』、タイトルにあるとてつもない距離をひとりで! 歩いて! 旅する話。センチメンタルな自分探し・・・なんて吹き飛んでしまう大自然が舞台であり、何を隠そう(誰も隠してないけれど)ノンフィクション。主人公のおふたりはその経験を本にまとめ、揃ってベストセラー作家に転身されているというから原作の出来も保証済み。何より、実在の女性が旅した記録でもあるだけに、「今までとは違うスペシャルな旅をしてみたいのに・・・」と不完全燃焼になりつつあった旅達者にとっての半ば現実的な示唆になるやもしれません。

『奇跡の2000マイル』

『奇跡の2000マイル』
(C)2013 SEE-SAW (TRACKS) HOLDINGS PTY LIMITED, A.P. FACILITIES PTY LIMITED, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, SCREEN NSW AND ADELAIDE FILM FESTIVAL

厳しさにキレたり、押し倒したり
『奇跡の2000マイル』

1970年代、西オーストラリアに広がる砂漠を195日かけて横断する20代半ばのロビン・デヴィッドソンを描いたのは『奇跡の2000マイル』。都会での生活に何か物足りなさを感じていた彼女は、オーストラリア中央部のアリス・スプリングスにやって来ます。かつてアフリカの砂漠を旅したという父親の影響もあるのか、ここから砂漠を横断してインド洋に面した西海岸まで歩いて目指すことを思いついてしまったから。とはいえ、ミア・ワシコウスカ演じるロビンはごく普通の女性。意志の強そうな眼差しこそあれど、ことさらに鍛えてもいませんし。住人たちは「物好きだね。・・・けれど、ホントに行くわけ?」と少なからず懐疑的だったに違いありません。

それでも、旅の準備は意外と(?)計画的な形で進められていきました。食料や水をどう運ぶか? ラクダでしょ、というわけで、観光客相手のラクダ牧場に住み込みで働くことに。ここでラクダの扱いを覚えながら8ヵ月間住み込みで働く。報酬として、最後にラクダを譲り受けるという寸法です。そこで多少の紆余曲折はあったものの3頭のラクダ(後からその内、1頭が赤ちゃんを出産!)を獲得し、「ナショナル ジオグラフィック」誌からの資金援助もしっかりと取りつけていよいよ出発へ。当然ながら過酷なサバイバル旅が予想されるわけですが、愛犬ディギティや生まれたばかりの赤ちゃんラクダも一緒というのが何だか微笑ましくもあり。70年代当時のことですから高機能アウトドアウエアに身を包んでという頼もしい格好でもありません。

『奇跡の2000マイル』

『奇跡の2000マイル』
(C)2013 SEE-SAW (TRACKS) HOLDINGS PTY LIMITED, A.P. FACILITIES PTY LIMITED, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, SCREEN NSW AND ADELAIDE FILM FESTIVAL

195日間の旅ではもちろん、さまざまなことに遭遇します。「ナショナル ジオグラフィック」誌が差し向けたカメラマン、リック(アダム・ドライバー)はおしゃべりで何だか煩わしいし、エアーズロックがある国立公園では噂を聞きつけた観光客に“Camel Lady!”と追いかけられる。とんでもない勢いの砂塵にキレそうになったり、野生のラクダをライフルで撃退したり。人恋しさが頂点に達したタイミングで撮影のために合流してきたリックを自分から押し倒したり(生存欲求的本能=性欲がロマンティックを凌駕していた模様)。

乾ききった世界を歩く旅の途中、先住民族アボリジニのミスター・エディとのやり取りはしっとりと浸みいるエピソードです。女性が立ち入ることは禁じられている聖地の案内人を買って出てくれたエディですが、英語は話せない。それでも、同行するうちにふたりは何となく打ち解けていく・・・そんな体験は旅人の誰もが少しは持ち合わせているわけで、我々も自分に照らし合わせながらふたりを見守ってしまうわけです。聖地を抜けてエディとも別れ、ほぼ誰にも会うことがない2ヵ月間へ。ひとり旅ですから当然セリフはほぼありません。しかし、歩き続ける中での回想や厳しくも美しい風景、ディギティやラクダたちとのやり取りなどを観ていると飽きません。歩くだけの旅の醍醐味を、ほんの少しとはいえ垣間みられる約2時間です。

荒んでる生活よ、さよなら!
『わたしに会うまでの1600キロ』

「歩くことは考えること」。いろんな人がこの言葉を発しています(探検家・写真家の石川直樹さんとか)。最近は“歩禅”などという言葉もときどき目にするようになりました。ただただ歩くことで思考は巡る、それが日々の散歩程度であったとしても。ましてや彼女たちの歩いた長さとなれば・・・。『奇跡の2000マイル』のロビンは考えるために歩いたわけではなさそうですが、歩いていれば誰もがそうであるようにさまざまなことを思い出し、考えるわけです。『わたしに会うまでの1600キロ』のシェリルは、ロビンよりも「考えたい」気持ちをより強い動機として旅に出たのかもしれません。アメリカ合衆国の西海岸を縦走するいくつもの山脈や山地をつなぐ長距離自然歩道、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)。全長約4000キロのうちの1600キロを94日間かけて歩いたのがシェリル・ストレイド、リース・ウィザースプーンが演じています。

『わたしに会うまでの1600キロ』

『わたしに会うまでの1600キロ』
(C)2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

ある程度の時間をかけて旅を準備したロビンと比べると、1995年のアメリカを歩くシェリルのそれはほぼゼロ。どうやら荒んでいたらしい生活から突如思い立ち、アウトドアショップで思いつくままのギアを買い込んで出発地点へ辿り着きます。小柄なリースよりも大きくて重いんじゃないか? と思える詰め込みすぎのバックパックをようやく背負ってトレイルへ。そんな彼女ですから、トレイル入口のチェックポストに置いてあるノートに意気揚々と「勇気が君を拒んだら、その上を行け エミリー・ディキンソンとシェリル・ストレイド」と書き込んだ数時間後には来たことを後悔している始末です。どうですか? 衝動的な旅。そんな点だけ見れば親近感を秘かに抱いた方、いらっしゃるのではないでしょうか。

シェリルは、携帯コンロの燃料を間違えて購入したことに2日目になって気づきます。戻ることもできず、冷たい食事が続いた8日目に農夫のトラックに便乗。「うちに来いよ」と言われて警戒するものの空腹と疲労には抗えず、結局はとても温かくもてなしてもらえるというありがちながらも微笑ましい顛末に。ようやく辿り着いた宿泊所ではアドバイスに従って荷物の断捨離を決行。トレッキングシューズのサイズが合わず早々に足を痛めていましたが、宿泊所で奨められてメーカーに電話、「次のポイントに新品を無料で届ける」との驚愕的親切な回答に感激と安堵が訪れもします。

『わたしに会うまでの1600キロ』

『わたしに会うまでの1600キロ』
(C)2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

とにかく初心者らしい失敗や克服を繰り返しながら歩く日々、その折々でふと思い出すのは愛していたのに離婚した夫のこと、その原因となった荒んだ生活、そして何よりも自分を誇りに思ってくれていた母親の死についての記憶でした。歩くという淡々かつ延々と続けられる行為の合間にふと、忘れたい過去を思い出してしまう。それでも歩き続ける、歩き続けるしかないシェリルが、その心にこびりついてしまっていた垢を少しずつ落としていく様を私たちは見守ることになるのです。記憶というものは突然呼び覚まされる。ときにはデジャヴュ的な、ときには大して関わりがないようなエピソードすらきっかけにして。

『わたしに会うまでの1600キロ』

『わたしに会うまでの1600キロ』
(C)2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

西オーストラリアの砂漠、北米の名だたる山脈に沿うトレイル。大自然の中、半径数キロ以上にも渡って自分以外は誰もいないという場所を歩く、歩く、歩く・・・。その興奮、寂しさ、感動、苦難、達成感はもちろん行ってみなければ味わえないスペシャルなものでしょう。ここまでの旅にはなかなか縁がないかも・・・とはうっすら思いつつも、今を脱ぎ捨てて旅に出たくなる衝動や、思わぬきっかけで記憶がひも解かれるという経験、そして「歩く」というありふれた行動が私たちとシェリル、そしてロビンを多少なりとも結びつける。ズタボロになりながらゴールへと歩く彼女たちを快く応援したくなるのです。さらには、女性たちはそんな活力を芽生えさせつつあるタイミングにあるのかも? などと考えながら。ええ、あわよくば実践だって・・・ご健闘を祈りますとも!

『奇跡の2000マイル』
監督:ジョン・カラン
原作:ロビン・デヴィッドソン
出演:ミア・ワシコウスカ、アダム・ドライバー
写真提供:リック・スモーラン
配給:ブロードメディア・スタジオ

7月18日より有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
公式サイト: kisekino2000mile.com

『奇跡の2000マイル』作品詳細

『わたしに会うまでの1600キロ』
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
原作:シェリル・ストレイド
出演:リース・ウィザースプーン、ローラ・ダーン
配給:20世紀フォックス映画

8月28日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
公式サイト: foxmovies-jp.com/1600kilo/

『わたしに会うまでの1600キロ』作品詳細

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)