【映画の料理作ってみたら vol.3】長年思い続けた『フライド・グリーン・トマト』、 食べてみたら○○かった!?

コラム

  • twitter
  • facebook
  • はてなブログ
  • google+
  • LINEで送る

FD_02_01_150630

夏にぴったりグリーン・トマト

文=金田裕美子

フライド・グリーン・トマト。さわやかで、何となく異国情緒を感じさせる響き。夏にぴったりな感じのメニューです。

これは映画『フライド・グリーン・トマト』に登場するホイッスル・ストップ・カフェの名物料理。アメリカ南部ではよく知られた料理なんだそう。映画を見て以来ずっと食べてみたいと思っていたのですが、お店でそのようなメニューを見かけたことがない。そこで自分で作ってみることにしました。これだけだとサイドメニューのみ、という感じなので、ついでに何か南部料理のメインディッシュにも挑戦してみたいと思います。フライド・グリーン・トマト(長いので以下FGTとします)というからには、要するにグリーン・トマトを揚げればいいんでしょ、という当初の甘い目論見は見事に外れ、このあと完成までには思いもよらない苦難の道が待ち受けていたのでした。

EFB49B MARY-LOUISE PARKER MARY STUART MASTERSON JESSICA TANDY & KATHY BATES FRIED GREEN TOMATOES AT THE WHISTLE STOP CAFE (1991)

『フライド・グリーン・トマト』前列左からキャシー・ベイツ、ジェシカ・タンディ、後列左からメアリー=ルイーズ・パーカー、メアリー・スチュアート・マスターソン

(c)AF archive / AlamyModel

映画『フライド・グリーン・トマト』は、アラバマ州に住む中年の主婦、エヴリン(キャシー・ベイツ)が夫と共に老人ホームを訪ねるところから始まります。エヴリンは夫が叔母を見舞っているあいだにホームに住む老女ニニー(ジェシカ・タンディ)に話しかけられ、彼女がかつて住んでいた町、ホイッスル・ストップの昔話を聞かされることに。はじめはちょっと迷惑そうなエヴリンですが、その町でカフェを経営していた2人の女性――酒場での大騒ぎや悪戯が大好きで破天荒なイジー(メアリー・スチュアート・マスターソン)と暴力亭主から逃れてきた心優しく淑やかなルース(メアリー・ルイーズ・パーカー)――の話に魅了され、次第に話の続きが聞きたくて老人ホームに通うようになります。映画は、2人のオスカー女優、ベイツとタンディの掛け合いがコミカルな現代のシーンと、ニニーの語る1930年代南部の田舎町の何とも牧歌的なシーンが交互に展開していきます。

連載始まって間もないのに 大変なことになってしまいました!

FGTが最初に登場するのはもちろんカフェのシーンです。でもこれが、料理が苦手なイジーが作った黒こげの失敗作。味見したルースは、正直に「まずい」。それを聞いたイジーがふざけてルースの顔に水をひっかけたことから「フードファイト」が始まります。ブラックベリーやらチョコレートクリームやら小麦粉やらをぶつけ合い、ドロドロになった2人は息もできないくらいに大笑い。楽しいシーンですが、まったく調理の参考にはなりません。

FD_02_03_150630

映画の舞台になったカフェからは笑い声が聞こえてきそう

まともなFGTも出てきます。エヴリンが教わったレシピ通りに作って綺麗な箱に入れ、ニニーに持ってきてくれるのです。このFGTはクッキーみたいにサクッとしていて美味しそう。でも水分の多いトマトを揚げてあんなにサクサクになるものでしょうか。ここは実際に確かめてみるしかありません。

ファニー・フラッグによる原作小説の巻末には、作中に登場するメニューのレシピが載っています。また、映画の大ヒットを受けて「オリジナル・ホイッスル・ストップ・カフェ・クックブック」なるレシピ本も発売されました。それによると、FGTの材料は、グリーン・トマト、塩、こしょう、トウモロコシ粉、ベーコンの脂。さり気なく書いてありますが、だいたいグリーン・トマトって何? 熟す前のトマトなのか、それとも赤くならない種類のトマトなのか。

FD_02_04_150630

左の2つが桃太郎、右の縞模様が入っているのがグリーン・ゼブラ

謎の「グリーン・トマト」を求めてデパ地下の野菜売り場や高級スーパー、トマト専門店(!)を巡り、2種類ゲットしてきました。ひとつは、熟しても赤くならず、やや黄色っぽくなる程度の「グリーン・ゼブラ」という品種。「ゼブラ」というだけあって、明るい緑の上にちょっと濃い緑の縞模様が入っています。もうひとつは、本来赤く熟してから食べる「桃太郎」という品種を青い状態のときに収穫したもの。まず生で食べてみると、グリーン・ゼブラは普通の酸味のあるトマトの緑バージョンという感じ。サラダでもいけそうです。桃太郎の方は、通常種のまわりにある透明のぷるぷるの部分がほとんどなく、固くガリガリしています。そして酸っぱい。青臭い。トマトとは別物、という印象です。これが揚げると変わるのでしょうか。

FD_02_05_150630

ジョージア州ジュリエットで営業中のホイッスル・ストップ・カフェ

調べてみると、もともとこの料理は、夏が過ぎても青いままのトマトを霜が降りる前に収穫し、それをなんとか美味しく食べるために考え出されたものだそうです。ということは、グリーン・ゼブラよりも熟す前の桃太郎の方が近いということになります。もうひとつわかったのは、映画の公開後、アラバマ州をはじめとする南部のレストランやカフェがこぞってFGTを出すようになり、以前からアメリカ各地で食べられていたにもかかわらず「南部のソウルフード」という認識がすっかり定着してしまった、という事実。映画のパワー、恐るべしです。ちなみにカフェのシーンの撮影に使われたジョージア州ジュリエットにある元食料品店は、現在は映画と同じ名のホイッスル・ストップ・カフェとして営業中。もちろん名物料理はFGTです。

FD_02_06_150630

グリーン・トマトは輪切りにします

原作者のフラッグさんには悪いですが、彼女のレシピ通りにトマトにただトウモロコシの粉をつけて揚げただけで映画のようにサクサクになるとはとても思えません。だいたい粉がそんなにくっつかない。ここはもうひとつ紹介されている「フライド・グリーン・トマトのミルク・グレイヴィ添え」のレシピと組み合わせて作ってみます。

FD_02_07_150630

小麦粉、溶き卵、コーングリッツとパン粉でお化粧したグリーン・トマト

6ミリ程度に輪切りにしたトマトに塩、こしょうして小麦粉をつけ、溶き卵にくぐらせ、コーングリッツ(ひき割りトウモロコシ)をまんべんなくつけます。コーングリッツでなくパン粉でもOK。レシピでは「ベーコンの脂」で揚げるとなっていますが、そのようなものはないので、熱したフライパンに油を1センチほどひき、ベーコンを入れて充分に風味を出してから取りだします。そこへ先ほどのトマトを並べて入れ、こんがり黄金色になるまで揚げます。

FD_02_08_150630

ベーコンを揚げて風味を出した油でトマトの輪切りをジュ!

さあ、あのガリガリ君は華麗なる変身を遂げたのでしょうか。早速食べてみましょう。サクッ。ガリッ。うっ・・・酸っぱい。渋い。青臭い。ルースの一言が頭をよぎります。「まずい」。イジーのように黒こげにしたわけでもなく、ちゃんとサクサクに揚がっているのに、です。

FD_02_09_150630

サクサクに挙がっていて見た目はすごくおいしそうなんです!

大変なことになりました。映画の料理作ってみたら、「まずかった」。こんな結論になってしまっていいのでしょうか。何とかおいしくならないものか。何かソース的なものをつけてみるとか、ベーコンをのせて揚げてみるとか。あせりながら再度挑戦、次のトマトを輪切りにします。あれ? 今度は透明のぷるぷるが先ほどのトマトより多い。こちらのほうがやや熟しているようです。これを先ほどと同じように揚げてみます。

DSC_0522

あら、おいしい。でもこれって技術じゃなくてトマトの力!?

どれどれ。あ。甘酸っぱい。おいしい。アンズや梅のようなさわやかさです。同じグリーン・トマトでも、ある程度熟していないとおいしくないようです。諦めなくてよかった。でも先ほどの2つのトマト、切る前の見た目はまったく変わりませんでした。どうやらおいしいFGTを食べるためにはトマト熟成度の見極めが必要、ということのようです。思ったよりもずっと難しい料理なのでした。

ここまでですでに疲労困憊していたのですが、初志貫徹。南部のメインディッシュを作りたいと思います。有名な南部料理といえば、何といってもフライドチキンです。わざわざサザン・フライドチキンと呼ばれたりもします。1960年代のミシシッピ州を舞台にジャーナリスト志望の若い白人女性と黒人メイドたちとの関係を描く『ヘルプ~心がつなぐストーリー』にも、料理自慢のメイドの得意料理として登場していました。

FD_02_11_150630

『ヘルプ~心がつなぐストーリー』

デジタル配信中

(c)DreamWorks II Distribution Co.,LLC

『ヘルプ~心がつなぐストーリー』作品詳細

チキンなの? ビーフなの? 謎が謎呼ぶ不思議なステーキ

とはいえ、フライドチキンは南部だけでなく、今や全米どころか世界中で愛されている料理。『ブルース・ブラザース』の兄弟の方割れジェイク(ジョン・ベルーシ)はシカゴのソウルフード・レストランで「フライドチキン4つとコーク」を注文するし(それが定番オーダーらしい)、『リトル・ミス・サンシャイン』ではニューメキシコ州アルバカーキに住むフーヴァー家の夕食の席で、テーブルに置かれたテイクアウトのフライドチキンを見たおじいちゃん(アラン・アーキン)が「またチキンか! 毎晩毎晩ファ**ン・チキンばかりだ!」と怒り出します。フラドチキンは一般的すぎて「南部特有」の感じがしない。では南部特有の料理で何かないでしょうか。なまずのフライ? ガンボ?

FD_02_12_150630

アメリカ南部のソウルフード。これにホワイトソースをかけていただきます。

食べたことはないけれど、ずっと気になっていた料理がありました。「チキン・フライド・ステーキ」。この名前からは想像できませんが、なんとこれ、牛肉の料理なのです。何でも「フライドチキンみたいな衣をつけて揚げたステーキだから」ということらしい。まぎらわしいのでカントリー・フライド・ステーキという別名もあります。揚げた特大ステーキにホワイトソースをたっぷり、サイドには山盛りのマッシュポテト、というのが定番。うーん、こってりした揚げものにさらにホワイトソースをかけるって、どうなんでしょう。これ1皿で1日のカロリー摂取基準を軽くオーバーしそうです。さらに恐ろしいことに、これに目玉焼きなどをつけて朝食としていただくのもあちらではポピュラーなんだそうです。アメリカの成人の3分の2は肥満または過体重というデータがありますが、その中でも南部は特に肥満率が高い。こんな超絶カロリーのものを朝から食べているからでしょうか。

FD_02_13_150630

ファニー・フラッグ著「オリジナル・ホイッスル・ストップ・カフェ・クックブック」

この料理、フラッグの「オリジナル・ホイッスル・ストップ・カフェ・クックブック」にも紹介されています。オクラホマ州では公式な「州の食べ物」に認定されており、テキサス州では10月26日を「テキサス・チキン・フライド・ステーキ・デイ」と定めてチキン・フライド・ステーキ・フェスティバルまで開催しているらしい。「テキサス人にとってこれは単なる料理じゃない、宗教だ」という人もいるくらい愛されている割に、南部以外ではあまり食べられることがない局地的メニュー。それどころか一般的には「南部のヘンな料理」として扱われているようで、映画でも「注文は・・・フライドチキンとステーキ、それからチキン・フライド・ステーキ」(『テネイシャスD/ 運命のピックをさがせ!』)、「煮豆をそんなに何度もくちゃくちゃ噛まないでくれ、チキン・フライド・ステーキじゃないんだから」(『バーニー/みんなが愛した殺人者』)などと、ギャグとして登場することが多い。

FD_02_14_150630

『テネイシャスD 運命のピックをさがせ! プレミアム・エディション』 DVD発売中

【価格】3800円+税

【発売・販売元】NBC ユニバーサル・エンターテイメント

『バーニー みんなが愛した殺人者』

DVD発売中

【価格】3800円+税

【発売・販売元】トランスフォーマー

『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』作品詳細

『バーニー みんなが愛した殺人者』作品詳細

実際にチキン・フライド・ステーキ(CFS)が登場する映画を皆様にご紹介しようと探してみたのですが、これが見つかりません。テキサスの寂れた町を舞台にした名作『ラスト・ショー』に「ステーキをチキンフライにしてくれ」というベン・ジョンソンのセリフがあったり、ジェフ・ブリッジスがカントリー歌手を演じてアカデミー主演男優賞を受賞した『クレイジー・ハート』の脚本に「チキン・フライド・ステーキをつつく」という描写はあるのに、なぜか実物が映画には登場しないのです。

FD_02_15_150630

『ラスト・ショー』

スペシャルプライスで12月2日リリース

【発売・販売元】ハピネット

(C)1971 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ラスト・ショー』作品詳細

でも絶対あるに違いない。ここは誰か知っていそうな人の力を借りましょう。とはいえその「誰か」とは誰か。

考えた末、テキサス・フィルム・コミッション(映画撮影の誘致や製作支援をする団体)に問い合わせてみました。「CFS発祥の地と見込んでお願いがあります。日本の人々にぜひ紹介したいので、CFSが登場する映画があったら教えて下さい」。しばらく返事がこなかったので諦めかけていたら、1週間後にコミッションのAliという人からメールが来ました。「リサーチしてみましたが、残念ながら見つかりませんでした。代わりに私たちのオフィスがあるオースティンの有名店、The Broken SpokeのCFSの作り方を紹介したビデオのURLを送ります」。ああ、なんという親切。これが有名な「サザン・ホスピタリティ(南部のおもてなし)」というものなのでしょうか。映画は見つからなかったけれど、ちょっと嬉しくなったのでした。

映画にないなら私が作ってやる、と意気込んで(このコラムのタイトルに則さない強引な展開でスミマセン)ネットでレシピを探してみると、これがもう「うちのが一番」とばかりにありとあらゆる作り方がゴマンと紹介されています。衣に使うのも小麦粉だったりパン粉だったりコーンミールだったり砕いたクラッカーだったり。まあここは、最もスタンダードと思われるレシピを採用してみます。

FD_02_16_150630

脂の少ない赤身肉を食べることこそステーキの醍醐味ですね

まず用意するのはステーキ用牛肉。なるべく脂の少ない赤身を選びます。アメリカでは「キューブ・ステーキ」という表面に細かい切れ目を入れて柔らかくしたステーキ肉が売られていますが(そんなに固いのか)、日本では見たことがないので、肉たたきで親のかたきのようにばんばん叩いて平たく伸ばします。ここに塩、こしょう。

FD_02_17_150630

叩くとこんな感じになります。もう少し叩いてもよかったかも

小麦粉に塩とこしょうのほか、チリペッパーやガーリックパウダー、オニオンパウダー、パプリカ、オレガノなど、好みのスパイスを加えてよく混ぜます。ステーキ肉にこの粉をまぶし、溶き卵に牛乳(あればバターミルク)を加えた液にくぐらせ、もう一度小麦粉をまんべんなくつけます。フライパンに油を1センチくらい入れて熱くなったらこのステーキを投入。両面をこんがりと揚げて取り出します。

FD_02_18_150630

衣の着いたステーキをフライパンでこんがり揚げます

次は上にかけるホワイトソースです。ほとんどのレシピではステーキを揚げた油を少し取っておいて使うとされていますが、揚げかすも入っている揚げ油をソースに使うのはちょっと抵抗があるので、一般的なホワイトソースと同様、バターを使います。鍋にバターを溶かしてベーコンのみじん切りを炒め、少量の小麦粉をふり入れて粉っぽさがなくなるまでよく炒めます。そこに牛乳を少しずつ加え、ヘラでダマにならないよう気を付けながらかき混ぜ、好みのとろみに仕上げます。塩、こしょうで味を調えればソースの出来上がり。

FD_02_19_150630

ホワイトソースをかけたチキン・フライド・ステーキ

お皿に付け合わせのマッシュポテトと揚げたステーキをのせ、ホワイトソースをかければチキン・フライド・ステーキの完成です! これにフライド・グリーン・トマトを添えれば、もう南部気分満点。イジーとルース、そしてカフェのお客さんたちも、こんな組み合わせを楽しんでいたのはないでしょうか。まあ、正直に申し上げますと、ニッポン人の私はダブル揚げものwithホワイトソースを、朝から完食する南部人の域に達することはできそうにありません(どちらもおいしいことはおいしいんですが)。テキサスのAliには、「自分で作ってみました!」とお礼ともどもCFSの写真を送っておきました。

DSC_0540

フライド・グリーン・トマトとチキン・フライド・ステーキ

recipe
〈フライド・グリーン・トマト〉
材料
グリーン・トマト(緑の品種ではなく、赤くなる品種の熟していないもの)
小麦粉

コーングリッツ(パン粉でも)

こしょう
ベーコン
揚げ油

〈チキン・フライド・ステーキ〉
材料
・牛肉(ステーキ用の赤身)
・衣
小麦粉

こしょう
好みのスパイス(チリペッパー、ガーリックパウダー、オニオンパウダー、パプリカ、オレガノなど)

牛乳(あればバターミルク)
・ソース
バター
ベーコン
小麦粉
牛乳
・つけあわせのマッシュポテト

映画っぽい気分を盛り上げる小道具
30年代っぽい衣装
フードファイトのためのグラスに入った水、チョコレートクリーム、小麦粉、ベリー類、トマトなど

 

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

シリーズ