【シネマなアレコレ vol.7】 戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

コラム

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 文=松本典子

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

『この国の空』
(C)2015「この国の空」製作委員会

毎年8月が近づくと「戦争」を見つめ直す機会が増えるわけですが、今年はことさらにその機会が増えている気がしませんか? 安全保障関連法案に関する与党協議が本格化した春頃から気持ちをざわつかせていた人も少なくないでしょうし、衆議院本会議であっけなく可決された7月半ば前後からは不安を募らせている人もいるでしょう。いつもなら8月に入ってから目にすることの多かった「戦争」という文字が早くもチラつく2015年上半期なわけです。

映画においても、70年前の太平洋戦争の空気感を、さまざまな作り手がさまざまな切り取り方でスクリーンに映し出しています。戦争を批判すると言ったって、生まれた頃には影も形も無かった我々多数にとってはピンと来にくい。そんな当然かつ自明の状況をきちんと踏まえた上で、戦時とはどんなだったかを肌で感じさせてくれる作品をいくつか選んでみましたので、駆け足でご紹介。

二階堂ふみに清純と発情が見え隠れ!?
庶民の日常を描く『この国の空』

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

二階堂ふみ、長谷川博己主演作『この国の空』
(C)2015「この国の空」製作委員会

戦闘シーンはおろか軍人すらも出て来ない。終戦前夜の東京郊外で空襲に怯えながらも日々を暮らす母娘と、数少ない男手としてあてにされる隣家の男をていねいに、静かに(けれども、ときにねっとりと)描いているのが『この国の空』。谷崎潤一郎賞を受賞した高井有一の同名小説を映画化しているのですが、飢えに苦しむほどではない(おそらくは大多数だった?)庶民の生活がここにあります。

とにもかくにも、19歳の主人公・里子を演じる二階堂ふみが・・・色っぽいです。いえ、作品の中でどんどんと色っぽくなっていく。ある意味、それは戦争があろうが無かろうが起こる変化なのかもしれませんが、色恋沙汰などおおっぴらにしにくい“ご時世”において、よりスリリングであると言えるかもしれません。当時の娘さんとはこんなだったろうなと素直に思わせてくれる里子のていねいな口調や立ち居振る舞いは、いろんな意味で新鮮でもあるでしょう。一方で、清純すぎない、少女と女の狭間にいる19歳の心持ち――本能からの率直な発情っぷりも含めて――には、どこか時代を超えた普遍性があるのかな、とも。

彼女の火照った視線の先にいる隣家の男は長谷川博己が適度にヤラしい感じに演じていて、その誠実すぎない加減がとてもいい(笑)。軍隊に取られることなく、妻子は疎開させてある意味自由、夜の雨音に紛れてバイオリンを奏でたくもなる――現代ならば愛すべき趣味なのに当時であれば非国民的――今だってそこここに居そうな人物です。本気とフリの境界線を行ったり来たりするような、ふたりの関係はミステリアスであり、身近です。

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

『この国の空』
(C)2015「この国の空」製作委員会

飢えてしまうほどではない。家も仕事も、かろうじての日常生活もあるにはある。けれど、どうにも息苦しい。先行きも見えてこない。そんな中、ねっとりしているのは里子と男の関係だけではありません。里子の母(工藤夕貴)のふたりに対する態度はさり気なく奇妙だし(分からないでもないが・・・苦笑)、横浜の自宅を焼け出されてきた姉(里子の伯母、富田靖子)の遠慮がちな無頓着が神経に触りながらも身内ならばこその同情も併せ持つ、そんなミクスチャーがとても、とても興味深い。これこそが、庶民における戦時の空気感の表れであるかのような。

さて、終戦とともに物語は終わりますが、隣家に妻子が帰還することで「私の戦争が始まる」と里子自身は感じ取ります。その表情の艶やかさ、スクリーンで見届けてほしい。里子が朗読する、同い年で終戦を迎えた詩人・茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」がこれほど沁み入るラストショットもなかなかない気がしています。

父の遺産を注ぎ込んででも撮りたかった
大自然の美しさと人間の卑小さ『野火』

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

塚本晋也監督作品『野火』
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

戦地しか出て来ない。でも派手な攻防戦ではなく、もっと停滞したどうしようもない死線を描いてみせたのが『野火』です。大岡昇平がフィリピンの密林での戦争体験を元に描いた同名小説が原作で、市川崑による映画化(1959年)から半世紀以上も経った今、塚本晋也が新たに映画化したものです。

敗戦色濃い日本軍の一兵卒・田村は肺病のために部隊を追われて野戦病院行きを命令されます。ところが野戦病院でも入院を拒否され、さらに病院は爆撃で炎上してしまう。わずかばかりの芋と銃だけを拠りどころに熱帯雨林を彷徨うしかなくなった男の話・・・となれば、ツラすぎて観られないと目を伏せる人がいるかもしれません。高校生で『野火』に出会って以来数十年を経てようやく映画化にこぎ着けた(父の遺産を製作費に充ててまで!)という塚本監督ですら「観賞直後はぐったりするかもしれません。2、3日後に涌き上るものがあると思いますが」と太鼓判(?)を押すほど。それほどに力強い作品です。

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

『野火』
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

多くの戦争映画が銃撃戦などをドラマティカルに描く中で、この作品に登場するのは、銃撃や熱病、栄養失調などで生死の境を彷徨うほかない兵士たちです。その描写には確かに容赦がありませんが、「私が前線に送られたなら、負傷して取り残されたら・・・」と想像をせずにはいられません。一生懸命助け合おうとする兵士もいれば、要領よく立振舞う兵士もいる。惨憺たる状況の中であっても、一般社会とあまり変わらない部分もあるわけです。

けれどね。今、実際に戦争が起こったとしても戦闘スタイルは当時とは全く違うわけでこんな彷徨は無いかも? と言い聞かせてもみるわけです。が、例えばリリー・フランキーがあまりにも自然に演じ(ているように見え)る兵士の面倒見の良さと狡猾さを見るだに、「形を変えてあり得る状況・・・かも」と思わずにいられない。ならば、その後、兵士たちはどう振る舞うのか、振る舞わざるを得ないのか・・・スクリーンで目撃してほしいところです。

「美しいフィリピンの大自然の中で、人間が卑小で醜い争いをしている。その対比を映像化したかった」「感じ方は自由。しかし、戦争体験者の肉声を反映させた本作からいろいろなことを感じてほしい」という塚本監督の渾身の作。シンプルな作りは予算の問題もあるのでしょうが、ぜい肉を削ぎ落して真正面からテーマに切り込む塚本演出ならではという気もします。後々まで考えたくなる要素に満ちた作品で、とにかく鮮烈な衝撃を受けることは間違いありません。

戦争を終わらせる難しさ、その徒労
『日本のいちばん長い日』

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

原田眞人が監督・脚本を手掛け、役所広司、本木雅弘、山﨑努、堤真一、松坂桃季など演技派俳優が総出演した『日本のいちばん長い日』
(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

同じ軍人といえども最前線の一兵卒とは全く違う立場と状況、すなわち天皇を頂点とした軍上層部と内閣にとっての戦争を描いた作品も紹介しておきましょう。彼らがどのようにして戦争を終わりにしたか。『日本のいちばん長い日』は、降伏を決定した8月14日からポツダム宣言受諾を知らせる玉音放送までの約24時間を描いた半藤一利によるノンフィクション小説の映画化です。

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

『日本のいちばん長い日』で畑中少佐役を演じた松坂桃李
(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

損耗率30%に達したら戦闘不能として降伏する、という近代戦のセオリーを無視した戦いで悲惨な敗れ方をした上に、陸軍のファナティックな将校たち(少佐役の松坂桃李、目がイッちゃってる!? 熱演です)が事態をややこしくしたという可能性もあるわけですが、ともかく戦争を始めるのは意外に簡単であるけれど、終えるというのはことごとく大変なことである。そして、決してハッピーエンドであるとばかりは言えない(庶民である我々が施政者の心情にそう簡単に寄り添えるわけではありませんが)。そんな事実に改めて気づかせてくれる大作です。

ドキュメンタリーで今を、未来を考える
辺野古基地、反対も賛成も。『戦場ぬ止み』

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

三上智恵監督によるドキュメンタリー映画『戦場ぬ止み』
(C)2015『戦場ぬ止み』製作委員会

70年前にコテンパンにやられる形で敗れた戦争。安全保障関連法案が参議院本会議でも可決したら? そこから万が一とはいえ戦争に近づいたなら? そう考えたとき、リアルに浮かび上がるのは沖縄の基地問題です。あそこから自衛隊の軍用機が戦地へと飛び立つ可能性が高い、とされているから。『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』は、辺野古への基地建設を巡って反対する人たち、賛成する人たち、黙認する人たちにフォーカスしたドキュメンタリー映画です。賛成と反対だけでは割り切れない地元の人たちの姿、問題の複雑さが見えてくる。そこには過去の戦渦はいまだに、そして未来への危惧も厳然と存在しており、沖縄に背負わせてしまっている「戦争」を考える上でもぜひオススメしたい作品です。

戦争から遠ざかるためにも観てみたい戦争映画

『戦場ぬ止み』
(C)2015『戦場ぬ止み』製作委員会

映画はエンタテインメント。学ぶために観るもんじゃありませんけれど、今、あなたが生きている社会や環境、感情と何かしら共鳴するものがあったなら、それはそれでよし。絶対的な正義や悪? そんなにきっぱり白黒ハッキリしたものが存在するとも思えません。どの作品に対しても「これが唯一無二の視点」だなんて思い込むことなく、それでもこの夏、あなたの「戦争」への考え方に何かしら新たな発見があれば・・・そんなところです。

『この国の空』
監督・脚本:荒井晴彦
原作:高井有一
出演:二階堂ふみ、長谷川博己、工藤夕貴、富田靖子
配給:ファントム・フィルム

8月8日よりテアトル新宿、丸の内TOEI、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
公式サイト: kuni-sora.com

『この国の空』作品詳細

『野火』
監督:塚本晋也
原作:大岡昇平
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作
配給:海獣シアター

7月25日よりユーロスペース、立川シネマシティほか全国順次ロードショー
公式サイト: nobi-movie.com

『野火』作品詳細

『日本のいちばん長い日』
監督・脚本:原田眞人
原作:半藤一利
出演:役所広司、木本雅弘、松坂桃李、堤真一、山崎努
配給:アスミック・エース、松竹

8月8日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト: nihon-ichi.jp

『日本のいちばん長い日』作品詳細

『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』
監督:三上智恵
ナレーション:Cocco
配給:東風
配給:アスミック・エース、松竹

ポレポレ東中野、第七藝術劇場ほか全国順次公開中
公式サイト: ikusaba.com

『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』作品詳細

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)