【映画の料理作ってみたら vol.4】『千と千尋』のフルコース メインはぶにーんとのびる謎の食べ物

コラム

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文=金田裕美子/Avanti Press

スタジオジブリの映画には美味しそうなものがたくさん出てきます。ジブリの第1回制作作品『天空の城ラピュタ』でパズーとシータが食べる目玉焼きのせトーストから、『となりのトトロ』でさつきが作るお弁当、『崖の上のポニョ』でお母さんが作ってくれるハム入りインスタントラーメン、『想い出のマーニー』で杏奈とおばさんが摘む瑞々しいトマトまで、「そうそう、あの映画にはあれが出てきた」とすぐに思い出せる人も多いのではないでしょうか。

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『千と千尋の神隠し』(c)2001 二馬力・GNDDTM
【価格】4700円(税抜)
【発売元】ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

中でも「ごちそう」がこれでもか、と登場するのが『千と千尋の神隠し』。八百万(やおよろず)の神様たちが疲れを癒しにやってくる湯屋で、次々とごちそうが運ばれていきます。でも私が身を乗り出したのは映画の冒頭、不思議の町に迷い込んだ千尋の一家が発見する食堂のシーン。いい匂いにつられたお父さんとお母さんが店に入っていって、大皿に盛られた料理の数々を勝手にお皿に取ってすごい勢いで食べ始めます。鶏の丸焼き、角煮、春巻き、魚の丸揚げ・・・。そして何と言っても圧巻は、お父さんがじゅるんとひと呑みにする、水風船みたいにぷにぷにした謎の食べ物。何じゃありゃ。今回はその「何じゃありゃ」を作ってみようと思います。何だかわからないものを作ろうという、かなり無謀な挑戦です。

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お父さんがじゅるんとひと飲みにするのは、こんな感じのものです

あのぷにぷにが何かは、映画を作った人が一番よくご存じのはずです。それなら聞くのが一番確実、という短絡的思考に基づいて、あつかましくもスタジオジブリに問い合わせてみました。すると・・・「アニメーションの世界なので感覚で描かれているものが多く、食べ物の名前をはっきり申し上げることはできません。でもコンテには『肉汁したたる食べ物を大口で食べている』と書かれていますね」というお答え(ご丁寧にありがとうございました!)。肉系の食べ物ということは判明したものの、結局何なのかはわかりませんでした。

水風船みたいにぷにぷにした謎の食べ物
「何じゃありゃ」を探せ!

それなら自分で謎の物体の正体を暴くしかありません(だから正体なんかないんだってば)。まずDVDの映像を停止させてじっくり見てみます。ヤツはかなりの水分を含んでおり、箸で挟むとぼよーんと垂れ下がります。表面にはうっすらと玉ねぎのような縦線が走り、鶏の手羽みたいな突起もあります。じっくり見て思ったのは、うーん、やっぱり、何じゃこりゃ。

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違うとは知りつつ玉ねぎを柔らかく煮てみました。意外と近い?

私が知っている物体の中で最もこれに近いのは、「氷のう」。熱が出た時に頭を冷やすアレです。今でも吊り下げ式のものは売られているのでしょうか。それはいいとして、氷のうは何できているのか。最近はほとんどラテックスやビニール製ですが、かつては牛や豚、馬などの膀胱で作られていたそうです。ほう。モツの仲間と思えば、食材に近くなくもありません。そういえば羊のモツや野菜を刻み、胃袋に詰めて茹でた(または蒸した)スコットランドの名物料理、ハギスはちょうどあんな形と大きさです。あれはハギス? でもハギスにはあの水っぽいじゅるんという感じがありません。それに、ほかの大皿料理はみんな中華風なのに、ひとつだけスコットランド料理というのもちょっと変です。

食堂がある不思議の町は、有楽町や新橋のガード下の飲み屋街がイメージされているそうです。でもあの階段といい赤い提灯といい、私は台湾の人気観光地、九份を思い出しました。九份は、日本統治終了後の激動の時代を背景にした壮大なドラマ『悲情城市』の舞台にもなった、古い街並みの残る美しい町です。さらに、台北から車で1時間ほどのところにある温泉街、烏来(ウーライ)の奥の鳥来瀑布あたりもレトロな建物や坂が多く、不思議の町を思わせます。かつてあの町で、日が暮れると同時にどんどん店が閉まり、ひと気がなくなり、タクシーもいなくなるという恐ろしい体験をしましたが、異界に取り残された千尋も同じような心細い思いをしたに違いありません。

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『悲情城市』(C)ERA INTERNATIONAL LTD.1989
【価格】4800円(税抜) 【発売元】IMAGICA TV 【販売元】紀伊國屋書店

スタジオジブリは台湾の町を参考にしたとは多分一言も言っていませんが、勝手にあの食堂は台湾料理の店ということに決定。台湾料理や中華料理の本を借りてきて、あのぷにぷにに似たメニューを探してみます。ところが牛の胃などモツ使った料理は大抵細かくカットされていて、袋状のものは発見できませんでした。

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台湾の九份。雰囲気なんとなく似ていますね

しかし。私と同じく「あのぷにぷには何だ」と疑問を持った人は大勢いたらしく、熱心な人々のディープなリサーチによって、ファンの間では「あれは台湾料理の肉圓(バーワン)であろう」という一応の結論が出されていたのであります。このことは、なんと台湾のTVBS新聞でも報じられていました。『千と千尋~』の公開以降、日本ではあの食べ物が肉圓だということになっており、「食べたら豚になるんじゃないか」などと言い出す人もいる、というのです(ちなみに映画の台湾版タイトルは『神隱少女』)。

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台湾料理の肉圓(バーワン)

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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