きっと水面下で動いてるはず! 芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!

コラム

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文=高村尚

第153回芥川龍之介賞を受賞し、現在19刷で累計発行部数229万部となった又吉直樹さん初の本格的小説『火花』。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
沖縄国際映画祭ビーチステージで行われたKYORAKU PRESENTSミュージックスペシャルに参加した又吉直樹さん
(c)2015 沖縄国際映画祭/よしもとラフ&ピース

まず、最初に『火花』を掲載した『文學界』2月号を創刊(1933年)以来初の大増刷に導きました。そして3月11日の単行本発売日には重版を決め、6月19日には純文学の新人作家を対象にした芥川賞の候補となり、約1カ月後の7月16日に受賞! 8月7日発売の芥川賞受賞2作を掲載した『文藝春秋』9月特別号も増刷させ、累計発行部数105万3000部とする快進撃中です。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
破竹の勢いで重版を重ねる単行本『火花』

まずは、お笑いコンビ「ピース」の又吉が、押しも押されもしない作家・又吉直樹になるまで、そして彼が受賞した芥川賞のことを、少しおさらいしてみましょう。

お笑いコンビ「ピース」の又吉が
作家・又吉直樹になるまで

2000年頃から芸人として活動を始めた又吉さんは、2003年に綾部祐二さんとピースを結成。芸人として活動する傍ら、本好きが高じてコラムや書評などの執筆も開始。不思議なところでは、お笑い系でも書評系でもない、キネマ旬報社刊の演劇雑誌『アクチュール(acteur)』と、同社WEBサイトでも連載を持っています。このWEB連載のコラムは、『火花』ともリンクする世界観を持っているので、小説を読んだ後はさらに楽しめるはず。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
又吉直樹(ピース)の名言コラムWEB
「確かにお前は大器晩成やけど!!」

初期の段階で又吉さんの才能を見出したのは『マンスリーよしもとPLUS』編集長の森山裕之さん、そしてそれを小説家として開花させたのは『文學界』編集部の浅井茉莉子さんという、2人の編集者でした。当時、文芸誌『別冊文藝春秋』編集部に在籍していた浅井さんは、又吉さんがプライベートで参加していた2011年の文学同人誌即売イベント「文学フリマ」で出会い、彼の作品を読破。そして、その才能に感嘆し、「小説を書きませんか?」と口説き続けたのだとか。2012年、ついに又吉さんは『別冊 文藝春秋』5月号掲載の短編『そろそろ帰ろかな』で小説デビュー。浅井さんの異動先『文學界』で、長編小説を結実させ、足かけ5年の成果を『火花』で実らせました。

芥川賞受賞については、吉本興業との予定調和的展開という記事も目にしますが、そんなプロジェクトじゃないことは、小説を読めば一目瞭然。ノーマークの才能をたまたま連携プレーのように育てたということにすぎないんだそうです。だいたい『別冊文藝春秋』が愛読書という芸人さんはかなり珍しい存在のはず。同誌を編集していた浅井さんには、かなりのインパクトだったのではないでしょうか。

「小説って、ルールはないしこれほど自由でおもしろい表現はない」ということを西加奈子の『サラバ!』から、「風景と感情が深く結び付いている」ことを古井由吉の『杳子』から、「正面から真っ直ぐ作品を書く」ということを中村文則の著書から、「哀愁と狂気性とお笑いとが小説の中に同居」させることを町田康の著書から教わった、と又吉さんは『文藝春秋』9月号に掲載の受賞インタビューで語っています。本とは、「自分の中に新しい感覚をぶちこんでくるような」ものだそうで、刺激的なんだそうです。あー、その気持ち、わかります。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
『サラバ(上下)』(小学館・1600円+税)
『古井由吉自撰作品1 杳子・妻隠/行隠れ/聖』(河出書房新社・2600円+税)

知っておいて損はない芥川龍之介賞のこと

芥川龍之介賞についても復習しておきましょう。芥川賞は、直木三十五賞創設と同じ1935年に菊池寛が制定した、新進作家に贈る文学賞で、直木賞が大衆文芸作品なのに対し、芥川賞は純文学作品を対象としています。高校時代から芥川龍之介に傾倒していた太宰治は、義弟であり、太宰の妻と姦通事件を起こす画家の小館善四郎への手紙に「僕、芥川賞らしい」と書くほど、この第一回芥川賞を受賞する気満々でした。しかし、太宰は落選。その後、選考委員の川端康成を「刺す」と脅したり、佐藤春夫に受賞を懇願する手紙を送ったりしますが、無冠に終わっています。ご存知のように無冠の文豪は少なくありません。受賞には才能に加え、運およびタイミングも必要なんですね。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
『人間失格』(角川文庫・286円+税)

ちなみに又吉さんは、太宰治の大ファン。「この人、なんでこんな笑かすのがうまいんやろ」と、前述のインタビューで太宰の短編を激賞しています。「僕は『ふざけますよ』って宣言してふざけるのではなく、まじめに書いているのに終わってみたらこいつが一番狂っている、と思わすのが好きです。その点、むちゃくちゃ太宰の影響を受けてますね」。いま太宰の本がすごく売れているとしたら、この影響だと思います。時間を経て、掘り起こしがある純文学。面白いですね。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
芥川賞を受賞した羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』と、『火花』、そして選評と受賞者インタビューが読め、芥川龍之介追悼號まで同梱されている『文藝春秋』9月号特装版は超お得!

『火花』映画化を追う前に
芥川賞と映画の密な関係を知ろう

出版界をにぎわす今年一番の事件である『火花』の快進撃。きっと映画化の話も進んでいるはずと取材を進めてみました。

もともと芥川賞と映画ってかなり親密なんですよね。1935年の第1回芥川賞受賞作『蒼氓』(石川達三)は1937年に映画化され、キネマ旬報ベスト・テン2位となっていますし、1953年には1937年に第5回芥川賞を受賞した尾崎一雄の著書数冊をベースに、若く貧しい作家が妻に支えられながら芥川賞を取るまでを描いた『もぐら横丁』(清水宏監督、佐野周二主演)が撮影されました。堀田善衛の第26回『広場の孤独』(佐分利信監督・主演)、五味康祐の第28回『喪神(映画題『必殺無双剣』)』など次々と映画化され、当時、企画が枯渇気味だった映画界の救世主となっていたようです。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
『もぐら横丁』。貧乏作家・緒方のモデルは芥川賞作家・尾崎一雄。舞台は下落合。清水宏監督、主演は佐野周二、島崎雪子
(C)国際放映

1950年代には、丸山誠治監督ら映画人から「文壇に芥川賞がある如く、映画界においても広く在野の隠れた才能を発掘する脚本家のための登龍門を設ける必要がある」という声が上がり、そんなこともあってか、1974年にプロデューサー、城戸四郎の理念を基に新人脚本家育成目的の城戸賞が創設されました。

映画化作品で一番の話題は、なんといっても1955年に第34回の賞を受賞した『太陽の季節』です。受賞前に映画化権を獲得した日活が製作。評論家は「薄っぺら」と酷評するも、毎回映画館の扉が閉まらないほどの大ヒットとなったとか。観客の8割が23歳までの若者だったそうです。若者の支持が高かった芥川賞映画に、東映のグループ会長・岡田裕介さんが俳優時代に主演した第61回の『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫)があったことも付け加えておきます。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
次々と映画化された芥川賞受賞作品

第39回『飼育』(大江健三郎)、第44回『忍ぶ川』(三浦哲郎)は名作映画としても知られています。最近でも第114回『豚の報い』(又吉栄喜)、第116回『家族シネマ』(柳美里)、第119回『ゲルマニウムの夜』(花村萬月)、第130回『蛇にピアス』(金原ひとみ)、第144回『苦役列車』(西村賢太)、第146回『共喰い』(田中慎弥)などが映画化され、話題になりました。

変わり種は、受賞者自身がメガホンを取り、映画化した第75回『限りなく透明に近いブルー』(村上龍)、第77回『エーゲ海に捧ぐ』(池田満寿夫)。第127回『パーク・ライフ』以外の自著が続々映画化される中、自ら処女作『Water』のメガホンを取った吉田修一や、第138回芥川賞を受賞した『乳と卵』の川上未映子の女優デビュー(『パンドラの匣』)などもあげておきたいと思います。

そして『火花』映画化とキャスティングは!?

さて肝心の『火花』です。おおっ! 動きが見えます。まだ映画化決定の発表もされておらず、候補も最終ではないのでうかつなことは言えませんが、監督候補として大物の名もあがっているようです。楽しみです。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
第153回芥川龍之介賞受賞作『火花』(文藝春秋・1200円+税)

正式発表があり次第、またお知らせします! それにしても、又吉直樹さん自身を投影したような人物・徳永と、彼が慕う4歳年上の破天荒な先輩芸人・神谷は誰がいいと思いますか? 徳永はどうしても又吉さんの顔が浮かんでしまいますが、そこを封じて考えてみると、嵐の二宮和也さんなんかいいんじゃないでしょうか! 神谷先輩には綾野剛さんはどうですか? 妄想は誰にも止められません。二人ならブロマンスなバディ関係を見せてくれそうです。

さてそんなときに、芥川賞受賞作の映画化ではありませんが、 又吉さん“主演”短編映画『海酒』が、松山市でクランクアップしたニュースが飛び込んできました。原作は、愛媛県出身のショートショート作家・田丸雅智さん、製作は映画製作集団カーニットエービー。潮の香りがするミステリアスなバーで頼んだ「海酒という夢のようなお酒をテーマにした心温まる物語」だそうです。現在、国内外の映画祭出品に向けて準備中。世界に名だたる映画祭にももちろんトライする予定で、一般公開は未定。

芥川賞を受賞した又吉直樹『火花』の映画化を追え!
『海酒』
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21日(金)はいよいよ芥川賞の受賞式です。そこではまたどんな話題が飛び出すやら!

『海酒』
監督:吉岡建 脚本:アベマサヒト 原作:田丸雅智『海酒』 プロデューサー:中臺孝樹、小宮誠 助監督:佐川秀人 撮影監督:中島唱太 照明:河原啓太 美術:奥村美香理 ヘアメイク:松崎未帆 AP:長谷川こうじ PR:尾上玲円奈
メインスポンサー:株式会社翔栄ウエルネス
出演:又吉直樹、ミッキー・カーチス 配給:未定

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)