夏一番のサプライズ・ヒット! あのギャングスタ・グループの伝記映画とは?『ストレイト・アウタ・コンプトン』

コラム

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夏一番のサプライズ・ヒット
全米の夏を震撼させている“Straight Outta Compton”

米西海岸を代表するヒップホップ・グループ「N.W.A.」の伝記映画“Straight Outta Compton”が驚くべきヒットとなっている。1986年、ロサンゼルス地区で最も危険なエリアといわれるコンプトンで結成されたN.W.A.には、後にラッパー&俳優として活躍するアイスキューブ、ヒップホップ界の名プロデューサーとなるドクター・ドレー、プロデューサー&実業家のイージー・Eらが所属。映画タイトルにもなっている「ストレイト・アウッタ・コンプトン」を始め、数々のヒット曲&アルバムを生み出し、ギャングスタ・ラップといわれるジャンルを確立した。

映画のなかでは、警察による人種差別、ギャングの脅威、麻薬紛争などにまみれたコンプトンの日常、理不尽な権力への怒りや反抗を音楽に込めたメンバーたちの絆と別れ、そして彼らの声が全米の若者を熱狂させる様子が描かれている。

製作予算は2900万ドル、紆余曲折を経て、ようやく完成した製作陣入魂の作品。8月14日の公開初週末には、同月公開のR指定映画としては過去最高の興行収入6020万ドルを記録し、2週目前半の時点で1億ドル興収に手が届きそうな勢いだ。ともに約1億2500万ドルの製作費をかけた注目作の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』と『アントマン』が、それぞれ5550万ドル、5720万ドルの公開週末興収であったことを考えると、圧倒的な利益率である。

同作の製作・配給を手がけたユニバーサル・ピクチャーズは、2002年にラッパーのエミネムの伝記映画『8マイル』を全世界で2億4290万ドルのヒットに導いた実績を持つ。ちなみに、N.W.A.の主力メンバーであるドクター・ドレーは、エミネムの楽曲やアルバムのプロデューサーとしても知られており、“Straight Outta Compton”のエンドロールにもエミネムの姿がチラリと登場する。

娯楽大作やフランチャイズ作品、ファミリー映画に溢れる夏の米映画興行のなかで、生々しい音楽伝記ドラマが異例の大ヒットとなった背景には、いくつか理由がある。

「夏公開の映画のイメージは、過去10年間、動かざる山のように定着しているため、あえてこの時期にこのような作品を公開することは挑戦でもあった。それでも、若者たちはその挑戦に反応したのです」と語るのは、同作プロデューサーのビル・ストラウスだ。『ジュラシック・ワールド』や『アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン』といった初夏公開の大作がファンタジー世界への現実逃避作品だとすれば、“Straight Outta Compton”は、今自分たちが生きる社会に根差したリアリティ作品。多くの映画ファン、特に若者たちは、地に足の着いたメッセージ性の強い作品に飢えていたのかもしれない。

今、米国に充満している人種差別の理不尽さと警察権力への不信感も、同作のテーマにマッチしている。80年代後半から90年代が舞台となっており、作品内でも91年のロドニー・キング事件(スピード違反を犯した黒人男性のキングを、複数の白人警官らが車から引きずりおろし、激しい暴行を加えた事件)、92年のロス暴動(前述の警官らに無罪判決が下ったことにより、アフリカ系アメリカ人コミュニティをはじめとする民衆が起こした暴動)の模様が映し出されているが、そのムードは20年たった今でも、根強く残る。

昨年夏に、ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人青年マイケル・ブラウンさんが白人警官によって射殺された事件を含め、警察権力による黒人の若者への理不尽な対応は後を絶たない。映画のなかでも、夜に自宅前を歩いていただけで、レコーディング・スタジオから外に出ただけで、痴話げんかをしただけで……手錠をかけられ、床に伏すことを強要され、荒々しい身体検査と侮辱的な発言を受けるメンバーの姿がたびたび描かれる。暴力で抵抗したい気持ちを必死で抑える彼らは、その反骨精神を歌詞に込め、新たなラップを生み出すのだ。

強いメッセージを受け止めながら、メンバーが繰り広げるラップに体を動かさずにはいられない。頭と心と体をフル回転させてくれるパワフルな1本として、まだまだ全米の夏を席巻しそうだ。

LA記者:町田雪

(C) 2015 UNIVERSAL STUDIOS

記事制作 : The WOWOW Times(外部サイト)