文=川井英司

両国国技館9月場所

ひと雨ごとに秋の気配が深まり始める9月。13日初日を迎えた大相撲秋場所は横綱・白鵬が左ひざのけがにより3日目から休場と予想外の展開に。優勝の行方はいかに・・・

今更ながら、相撲がブームだ。テレビのバラエティ番組には人気力士たちが出演し、ときには彼らの素顔に迫る特集番組が組まれる。新たなムック本や書籍が刊行され、相撲をこよなく愛する女性を指す“スージョ”なる新たな流行語も生まれた。直近の相撲ブームと言えば、若乃花&貴乃花の兄弟横綱を中心としたいわゆる“若貴フィーバー”の頃だから、およそ15年ぶりだ。

暴力沙汰や野球賭博、八百長事件と問題がたて続けに表面化し、NHK大相撲中継の放送が自粛されるなど、世間の冷たい視線に晒されてからまだ何年も経っていない印象があることを考えると見事な人気のV字回復ぶりだ。少し前はイス席だけでなく、桝席にも空席が目立つ状況だった場内は、昨年末から連日の「満員御礼」が続いている。

両国国技館
両国国技館

そんな盛況ぶりの要因のひとつは、「いま話題の相撲とやらを、一度生で観てみたい」という新しいファンの増加だ。ただ、「いざ観戦に」と思っても相撲のチケットは決して安くない。両国国技館の場合、4人用の桝席で38,000円~46,800円、2階のイス席でも1人あたり3,800円~8,500円かかる(僅かだが当日発売の自由席=2,200円もある)。幕内の取組が始まる午後4時ごろからだと2時間ほどしか観戦できないが、早起きして午前中から観れば、夕方までまる一日楽しめる。そう思えば決して高くないだろう。序ノ口の取組は朝8時半ごろ始まるのだ。まだガラガラの場内でゆったり土俵を眺めていれば、力士だけでなく行司や呼出など裏方さんにも目が留まり、興味を持つかもしれない。そうしながら次第に相撲が好きになり、詳しくなっていく。これこそが正しいハマり方だと思う。

取組はもちろん力士の個性が作り出した現在の相撲人気

ここ数年、相撲人気の回復に努めてきた日本相撲協会は、新たなファン獲得のために腐心している。年6回の本場所では、ちゃんこのサービスをはじめ、着物や浴衣で来場すれば特典がもらえる「和装Day」、「人気親方と記念撮影付チケット」の発売など、趣向を凝らした企画を実施し、いずれも好評を得ているという。

相撲ファン表紙
「相撲ファン」vol.02

ライトなファンから一歩進み、すでに相撲の魅力に取り付かれた人たち、なかでも“相撲女子”=スージョと言われる女性たちが増えているのも最近の傾向。今年1月に創刊された「相撲ファン」によれば、スージョとは「仕事や勉強に一生懸命な時間を大切にしながらも、こよなく愛する相撲のため多大な情熱や時間をかける女性たち。日常の中に“自分らしく”相撲を取り入れた素敵なライフスタイルを確立している」と定義されるのだとか。お目当ての力士にカメラを向け、拍手や声援を贈る。その中心はやはり容姿端麗な力士たちだ。なかでも「お姫様だっこ」や永谷園のCMでおなじみの遠藤や、角界一カラオケが上手いと言われる勢はイケメン力士と紹介されることが多く、ひときわ声援が多い。だが人気力士はまだまだたくさんいる。ユニークなブログで人気急上昇のベテラン力士・安美錦や久しぶりの日本人横綱にと期待される大関・稀勢の里、一気に大関まで駆け上がってきた気鋭のモンゴル人力士・照ノ富士、Twitterをきっかけに「可愛すぎる力士」として“千代丸たん”の愛称で呼ばれる千代丸、バラエティ番組に引っ張りだこで、その軽妙なトークが魅力の豊ノ島など。さらに十両や幕下上位には将来を期待される個性的な若手がワンサカ。そういった力士にツバをつけ、早い時間から会場に足を運び応援する熱心な“スージョ”は、今や普遍的な光景だ。おっと、忘れてはいけない。いちばん多くの声援を集めるのは、もちろん実力ナンバーワンの横綱・白鵬で間違いない。

色とりどりのまわしを付けた力士は、それぞれが際立つ個性の持ち主。自分のご贔屓を見つけて応援するのが醍醐味だ。自分と同じ都道府県出身の力士を応援するのもいい。土俵入りの際と取組の前には、必ず出身地がアナウンスされる。相撲は数あるスポーツの中で、もっともファンの郷土愛を喚起させるものかもしれない。

本場所だけでなく、巡業も相撲に触れるチャンスだ。むしろ力士とファンとの距離は、巡業の方が近い。力士がみなリラックスして楽しんでいる地方巡業では、記念撮影やサインをもらうチャンスも多い。最近では相撲と新しい文化との融合の一環として、ニコニコ動画とタイアップした「超会議場所」(幕張メッセ)や、8月末に開催された「丸の内JPタワー」での「KITTE場所」など、これまでは考えられなかった形態の巡業が人気を呼んでいる。

力士らがリズムに乗って歌って踊る
『どす恋 ミュージカル』

国技であり、かつ神事でもある相撲に、伝統を重んじるのみではなく融通性が出てきた」――そんな趨勢のなか、なんと相撲とダンスが合体した史上初、前代未聞の相撲ミュージカル・ドラマ、『どす恋 ミュージカル』が話題となっている。

『どす恋
『どす恋 ミュージカル』 前代未聞の相撲ミュージカル!
©BeeTV

映像配信サービス「dTV」で独占配信中のこのオリジナルドラマは、台湾の実力派シンガー、リン・ユーチュン(ハイトーンの泣きボイスとおかっぱ頭がトレードマーク)が主人公のぽっちゃり男子を演じている。日本の大学に留学したものの、太っていることでイジメに遭っていた留学生が、相撲部に誘われて入部し、自分の居場所を見つけていく、という筋書きだ。

『どす恋
台湾の実力派アーティスト、リン・ユーチュンや『SR サイタマノラッパー』に主演した駒木根隆介の体当たりダンスが圧巻!
©BeeTV

演出と脚本を手掛けたのは、『太秦ライムライト』でチャンバラ時代劇と撮影所で働く人たちを愛情たっぷりに描いた落合賢監督。少年時代に祖父の影響で相撲を好きになり、千代の富士が大好きだったという氏は、横綱の“ウルフスペシャル(左からの上手投げ)”が決まると歓喜し、断髪式では涙を流したという生粋の相撲好きだ。相撲とミュージカルの合体は意外な取り合わせのように見えるが、「音楽を聴くこと、カラオケで歌ってストレス発散することが好きな力士がたくさんいると聞き、彼らがリズムに乗って歌って踊る光景を想像したら、これはおもしろい映画になる」と思ったのがきっかけだとか。企画に賛同してくれるプロデューサーを見つけるのには、5年の歳月を要したそうだが。

『どす恋
『どす恋 ミュージカル』
©BeeTV

撮影では、落合監督の母校である法政の大学相撲部の協力を得た。部員役のキャストは実際の相撲部員に混じり、一緒に稽古したとのこと。もちろん監督もまわしを締めて稽古に参加、「自分の貧弱さと力士の強健さを思い知らされました」と苦笑する。

見どころはリン・ユーチュンがカバーして歌っているTRFのヒット曲「EZ DO DANCE」に合わせて、巨漢たちが脂肪を震わせながらの軽やか(?)なダンス。アップテンポかつ駆け足的な展開で約25分、一気に見せて完結するが、「できればシリーズ化して、ミュージカル連続ドラマのような形にしたいと構想を練っているところ」と監督。将来的には『どす恋ミュージカル~ザ・ムービー~』へ、という夢も膨らむ。

『どす恋
相撲の映画を作りたいと様々な相撲部屋を取材・リサーチしたと語る落合賢監督。
相撲女子について聞いたところ「個人的には相撲女子と相撲デートにちょっと憧れます。桝席でダブルデートしながら、相撲トークで盛り上がるってのも楽しそうですね。」

相撲人気がこのまま安定したものになれば、相撲を題材にした映画が作られることを期待したいものだが、落合監督は「スポーツ、格闘技のなかでも、相撲の映画を成立させるのは格段に難しいだろう」と冷静だ。ただ単に太っている、ぽっちゃりしているだけではダメということは、大相撲(プロの相撲)を観たことがある人なら当然、認知していること。力士としての肉体が完成された関取(十両以上の地位の力士)ともなると、その多くは筋肉の鎧を纏ったような身体をしているのだ。ゆえに力士を演じられる俳優を見つけるのは困難、というのが最大の理由。それでも、「世界でも稀に見るユニークな相撲を題材とした作品を作れるように努力していきたい」と、監督の夢は尽きない。

永遠に変わることのない伝統に敬意を払い、様式美を重んじる一方で、時代とともに変化する新しい文化との融合も広い心で歓迎しながら楽しんでいきたいもの。それに違和感がなくなったとき、相撲は一過性のブームではなく、国民的な娯楽として定着するのではないだろうか。

『どす恋
©BeeTV

『どす恋 ミュージカル』 (全1話・約25分) dTV独占配信中!
脚本・監督:落合賢
出演:リン・ユーチュン、駒木根隆介、ぎたろー、王 メイコ、竹内友哉、向里憂香、 カシューナッツ(ゆんぼだんぷ)、渡辺 哲
主題歌:EZ DO DANCE(『どす恋 ミュージカル』Ver.)
振付:パパイヤ鈴木
主題歌:GENERATIONS from EXILE TRIBE 『ALL FOR YOU』
『どす恋 ミュージカル』公式サイト

『どす恋
落合賢監督

落合賢プロフィール
1983年5月31日生まれ。12歳から映画作りを始め、日本の高校を卒業後に渡米。南カリフォルニア大学(USC)の映画製作学科に入学。大学卒業後はアメリカ映画協会付属大学院(AFI)の映画監督科に進学し、卒業制作の『ハーフケニス』では、全米監督協会(DGA)から日本人として初めて審査員特別賞を受賞した。2011年にロサンゼルスに映像制作会社、フォトシンスエンターテイメントを設立し、映画、テレビ、CMなど幅広いジャンルの映像を監督している。2012年、梶原一騎原作、辻なおき作画のアニメ『タイガーマスク』の実写版をウエンツ瑛士主演で長編デビュー。2014年、斬られ役として知られる福本清三を主演にした『太秦ライムライト』が公開され、モントリオールのファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞と主演男優賞をW受賞するなど国外からも高い評価を得た。