酒が好き! 肉が好き! 伝統と革命が食欲を刺激する!

コラム

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『一献の系譜』『ステーキ・レボリューション』

文=皆川ちか

光があれば闇があり、男がいたら女がいて、伝統があれば革命がある。

この世はたいてい対極的なもの同士が対となっていて、また、互いに異なるからこそ互いの良さを引き出している。

酒と肉。

食欲の秋を味わい尽くすのに、これほどあからさまな組み合わせもないであろう最強にして最高のコンビ、酒と肉(2度目)。

それだけに、生み出す側の努力と情熱も半端ではない。

先に掲げた、伝統と革命。それらの言葉を体現するかのように、酒と肉にすべてを懸ける人びと、そして饗される究極の一品を探求するドキュメンタリー映画が今秋、公開される。

酒造りは伝統文化である! 『一献の系譜』

『一献の系譜』
『一献の系譜』
(C)2015 映画一献の系譜製作上映委員会

先日放送終了した、NHK朝の連続テレビ小説「まれ」の舞台としても注目された、石川県能登半島。日本海に囲まれ、人と自然が共存する風習や独自の文化、農業システムが高く評価されて、国連食糧農業機関(FAO)より、世界農業遺産にも認定されている。

そんな能登が誇る名物は数あれど、能登流と称され、日本四大杜氏のひとつに数えられる「能登杜氏」たちを追ったのが、『一献の系譜』だ。

杜氏とは、酒を造る職人のこと、つまり日本酒のプロフェッショナルを指す。南部、越後、丹波に並ぶ名酒の作り手として知られる能登杜氏のなかでも、とりわけ別格的な存在が、ずばり「能登杜氏四天王」である。

その名も・・・“人を醸す”男、中三郎! “吠える先人”三盃幸一! “愛に生きたカリスマ”波瀬正吉! そしてラスボス(?)は、“日本酒の神”農口尚彦!

えーっと・・・リングネームではございません。

映画では、四天王が自ら選んだ跡継ぎに能登杜氏の技術と知恵を叩き込む様子が、ときに苛烈に、ときにユーモラスに描かれる。

『一献の系譜』
四天王全員から薫陶を受けた現役2トップ。坂口幸夫さん(左写真)と家修さん(右写真の左)
『一献の系譜』(C)2015 映画一献の系譜製作上映委員会

彼らに選ばれし者たちは、四天王全員から薫陶を受けた現役2トップをはじめ、40年かけた跡継ぎ探しの末に見込まれた者。後継者に選ばれ、突如、杜氏へと転身した者。“日本酒の神”の愛弟子である、初の女性能登杜氏。

これら地域に根差した伝統を守ろうとする人びとがいる一方で、能登の酒を思えばこそ、杜氏の技術をマニュアル化すべしという理念を抱く酒造メーカーも現れる。劇映画以上に強烈なキャラクターたちと、先の読めないストーリー、そして能登のお酒のシズル感がもう辛抱たまらん。

雪白色の米と麹がふつふつと、ゆっくりと醸されて、まろやかな酒へと変化していくまでの“じらし”と、それゆえの完成形の美しさ美味しさは芸術の域といえるだろう。

なぜ伝統を守るのか?

この問いに対する答えが、登場する数々の能登の美酒のなかに、あるような気がする。

 

今こそステーキに革命を! 『ステーキ・レボリューション』

『ステーキ・レボリューション』
『ステーキ・レボリューション』
(C)2014 LA FERME PRODUCTIONS SAS et C.PRODUCTIONS

フランス人映画監督で、ステーキが大好きなフランク・リビエラは考えた。

「なぜフランスの牛肉は、他国の牛肉とは別もののように思えるのだろう?」

フランスといえば美食の国の代名詞だ。そんなフランスの牛肉は、もちろん世界一の牛肉である、と長年思い込んでいたが、どうやら違うらしい。

旨い肉とは何を意味するのか? 味か? 満足感か? 多幸感か? そもそも国によって旨い肉の捉え方は異なっているらしい。たとえば日本では、やわらかい霜降り肉が最高級とされているが、フランスでは脂の少ない赤身肉こそ美味とみなされている。

世界でいちばん美味しいステーキを、自分の足と舌で探そう! そんな衝動に駆り立てられたリビエラは全世界20カ国、200以上のステーキハウスを行脚して、肉のプロフェッショナルたちと出会う。

二度焼きが特徴のNYの老舗ステーキ店「ピーター・ルーガー」の女性オーナー。米に合う“おかず”として発展した日本の肉料理について語る老舗の店員や、その結晶ともいえる和牛の育て方を説く畜産農家。その和牛を独自に飼育して、スウェーデンに和牛レボリューションをもたらした、物理博士の顔も持つカリスマ飼育家。ちなみにこの方、『007』の悪役のような存在感を放っていて、ステーキだけにとってもステキだ。

『ステーキ・レボリューション』
『ステーキ・レボリューション』
(C)2014 LA FERME PRODUCTIONS SAS et C.PRODUCTIONS

飼育家、精肉店、料理人・・・立場こそ違えども、肉を愛する気持ちは同じ。世界各国、色いろな場所、いろいろな視点から肉に携わっている人々と出会い、リビエラは気づく。

旨いステーキは、幸せな牛からしか生まれないということに。

幸せな牛とは、手間ひまをかけて世話をされ、良質の牧草を与えられ、愛され、慈しまれてきた牛だ。旅の終盤、リビエラは、そんな牛を育てている飼育家たちを訪ねる。

ひとりは、男性社会であるフランスの畜産業界で、牧草による牛の飼育を広めていこうと奮闘する若き女性飼育家。いまひとりは、スペインで1頭の牛につき10年以上もの歳月をかけて育てているという伝説の飼育家。

彼の育てた15歳(!)の牛を使ったステーキは、劇中で発表される“美味しいステーキ・ベスト10”にランクインされているが、若ければ若いほどいいとされる牛肉界の常識を、根本から覆す。その革命的なお肉の味やいかに?

伝統の酒と、革命の肉。今の季節にふさわしい、食欲を刺激する最強にして最高の2本だけれど、最後に1つ、いや、2つだけ忠告させてほしい。けっして空腹時には見ないこと。そして、美味しい酒と肉のお店を予約してから鑑賞すると、さらに映画が楽しめること。

以上の点を踏まえた上で・・・心ゆくまでご堪能ください。

『一献の系譜』

『一献の系譜』
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
監督:石井かほり
ナレーション:篠原ともえ
配給:グリクリエイツ
公式サイト:http://ikkon-movie.com
(C)2015 映画一献の系譜製作上映委員会

『ステーキ・レボリューション』

『ステーキ・レボリューション』
10月17日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA/109シネマズ二子玉川/大阪ステーションシティシネマほかで全国順次公開
監督:フランク・リビエラ
案内人:イブ=マリ・ル=ブルドネック
配給:ピクチャーズデプト
公式サイト:http://steakrevolution.jp
(C)2014 LA FERME PRODUCTIONS SAS et C.PRODUCTIONS

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)