【ニャンともわんダフルシネマ vol.7】今度は主演!? あの人気にゃんこが本格的映画デビューにゃん!!

コラム

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文=島崎奈央

今度は主演女優にゃん!

©2015「先生と迷い猫」製作委員会

 人間界ではしばしば「自由と孤独は表裏一体」などと言われる。けれど、猫、ことに野良猫を見ていると、彼はそんなジレンマはまったく感じていないように思える。野良の猫にとって、世界は気ままであることがすべて。昼寝も散歩も日向ぼっこも、ときに仲良しさんが一緒のこともあるけれど、基本は一匹ですなるもの。独りであることは本望で、さびしさとは無縁のようである。

 映画『先生と迷い猫』は、そんな自由な生き物の野良猫と、一方、孤独を絵に描いたような独居老人の物語である。

 イッセー尾形扮する、妻を亡くして間もない老人は、町の人から「校長先生」と呼ばれる通り、小学校の校長まで勤めあげた元教育者。本当は決して悪い人間ではないのだが、いかにも堅物、難人物といった風情で、周囲になじまず理解もされず、妻を亡くすと同時に社会とのリンクをも失ってしまった孤独な人間である。

 先生の独り住まいには、毎日、一匹の猫がやってくる。亡き妻が「ミイ」と名づけて生前かわいがっていた野良の三毛猫だ。ミイの姿は、元気だった頃の妻を思い出させる。愛妻家だった先生にとって、妻の記憶は蓋をしておきたい辛いもの。先生はミイを邪険にするようになる。

今度は主演女優にゃん!

©2015「先生と迷い猫」製作委員会

 そんなある日、ミイがふっつりとこなくなる。来なくなったら来なくなったで、不在が気になりだした先生はミイを探し始める。ほうぼう歩くうち、町の人たちもまたそれぞれに、ミイと関係を持っていたことがわかってくる。あるときはタマコ、あるときはソラ、またあるときはちひろ。一匹オオカミ(否、一匹野良ネコ)と思われていたミイは、実はさまざまな愛称で呼ばれ、何人もの人間に愛された猫だった。

 ミイをかわいがっていた町の人を巻き込んでの捜索がはじまる。先生と周囲との間に交流が生まれる。亡くなった妻の代わりに、行方不明中のミイが橋渡し役となって、先生と社会とを結びつけていく。映画は、実話をベースにしている。原作はノンフィクション「迷子のミーちゃん~地域猫と商店街再生のものがたり~」。埼玉県のある町で、一匹の迷い猫探しをきっかけとして地域の人々が結びついていったさまを綴るルポルタージュである。

 本作を見ていると、つくづく、猫にとって「自然」な人生とはなにか、「幸せ」な人生とはなにか、それを提供できる社会とはどのようなものか、と考えさせられる。空調管理の行き届いたマンションの一室で、三食昼寝つきで暮らせば幸せなのか。好きに生きながらも、食いっぱぐれや交通事故の危険に身をさらすのは不幸なことなのか。「地域猫」の定義も近年変わった。むかしのそれは、イコール「街の人と適当にうまくやりながら、好きに生きて好きに繁殖し、いやでも応でもなく時期が来ると死んでいく野良猫」のことだった。けれど、今では「街の人と適当にうまくやる」ことが難しい。猫がトイレを済ますことができる土地はなく、住人からの糞害の訴えは多い。猫エイズを減らし、保健所で殺処分される個体を減らすために、野良猫を保護して去勢避妊をし、「地域猫」として面倒を見るべきだという意見もある。

今度は主演女優にゃん!

©2015「先生と迷い猫」製作委員会

 管理すれば猫の本望が見失われるし、野放しにすれば過酷な人生を送る猫が増える。では徹底して「地域猫化」を行えば、野良猫という存在も、野良猫が生きていた文化も、世界から消えてなくなってしまうだろう。自由で気ままを好む猫の幸せを、一体どうしたら守れるか。野良猫が生きていけない社会自体は、このままでいいのか。「野良猫を無責任にかわいがるだけではダメ」と本作が問題を提起する傍らで、見る者の思いはさらに千々に乱れる。

 映画は伊豆で撮影された。せせらぎの美しい川べり、緑濃い草むら、のどかな町角、夜明けの港。伊豆の町を、ミイが我が者顔で練り歩く。つぶらな瞳に小柄な体躯、胸とお腹は真っ白という、理想的に美しい三毛猫。座った姿を正面から見ると前足が揃わず、しこを踏んだ力士の姿に見えるのも、愛嬌を添えているようでよろしい(私はこころ密かにこの体型の猫を「どすこいタイプ」と称して偏愛している)。ミイ役を演じているのは、ドロップというタレント猫。NHK連続テレビドラマ小説「あまちゃん」に登場する、ヒロインの祖母の飼い猫と言えば、思い当たる方も多いだろう。伊豆の港で、朝日を浴びてまばゆく輝くドロップの白い胸毛。やっぱり猫は外にいるのが美しい、と改めて思うのだけれど、はて、皆さんの感想やいかに。

今度は主演女優にゃん!

©2015「先生と迷い猫」製作委員会

『先生と迷い猫』
10月10日(土)より、全国ロードショー
監督:深川栄洋
脚本:小林弘利
原案:「迷子のミーちゃん~地域猫と商店街再生のものがたり~」木附千晶(扶桑社・刊)
出演:イッセー尾形
染谷将太 北乃きい ピエール瀧 嶋田久作 佐々木すみ江 カンニング竹山 久保田紗友 / もたいまさこ / 岸本加世子
ドロップ(三毛猫)
配給:クロックワークス
©2015「先生と迷い猫」製作委員会

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)