ジョニー・デップが「受賞したくない」理由とは? とことんマイペースな世界一のスター

コラム

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文=ロサンゼルス在住ライター 町田雪

『ブラック・スキャンダル』
第72回ベネチア国際映画祭のワールドプレミアに登場したジョニー・デップ
©MAXPPP

“スター不在”と言われて久しいハリウッドにおいて、正真正銘の世界的スターであり続けるジョニー・デップ。少し前までは、世界的なヒットを稼げる四天王スターとして、トム・クルーズ、ブラッド・ピット、ウィル・スミスと並べて語られることが多かったものの、その安定性においてジョニーの存在感は抜きんでている。2016年1月30日に日本公開される『ブラック・スキャンダル』では、南ボストン史上もっとも悪名高いギャングを演じ、アカデミー賞ノミネートも有力視されている。そんなジョニーの魅力と現在に迫ってみたい。

まず始めに、ジョニーの何がスゴイって、彼には、上記3人にあるような“旬”がない。純粋無垢で物悲しい人造人間を演じた『シザーハンズ』から、葛藤する家族を支える長男役で見るものの心を打った『ギルバート・グレイプ』、愉快で奇怪なチョコレート工場主を演じて老若男女を虜にした『チャーリーとチョコレート工場』、『エド・ウッド』 『スリーピー・ホロウ』『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』『アリス・イン・ワンダーランド』などの盟友ティム・バートン監督作まで、コンスタントに七変化を続け、いつも新鮮なサプライズを与えてくれる。いくつかのラブストーリーものではコケることもあり、興行成績やアワードなどでの評価はまちまちだが、そんなことには振り回されないマイペースな作品選びとキャラ入魂ぶり。それでいて、『パイレーツ・オブ・カリビアン』というモンスター級のフランチャイズに主演し続け、もはや“海賊”といえば、ジョニーの顔しか浮かばないほどの現象を起こしている。俳優になるべくして生まれた人とは彼のこと。波乱万丈の幼少期を過ごした生い立ちもあるのか、どんな役を演じても、独特の物悲しさと浮世離れした表情がたまらない魅力でもある。

そんなジョニーの俳優としてのキャリア起点となったのが、ホラーの達人、故ウェス・クレイヴン監督による『エルム街の悪夢』(1984)。奇しくも『ブラック・スキャンダル』“のプレミア前に亡くなったクレイヴン監督とのエピソードを、ジョニーはこう語る。「それまではミュージシャンだったから、演技経験はほとんどなかったんだ。オーディションの際には、監督の娘と台詞合わせをしたが、監督は娘の言葉を鵜呑みにして、何の根拠もなしに僕を起用した。このクレイジーな世界に僕を引き入れた娘と、無名の僕を起用した挑戦好きなウェスのことは忘れないよ」。ちなみに、この『エルム街の悪夢』のオーディションにジョニーを誘ったのが、あのニコラス・ケイジという裏話もある。

『ブラック・スキャンダル』
9月18日から全米公開された『ブラック・スキャンダル』。日本では、2016年1月30日(土)より全国ロードショー
©2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., CCP BLACK MASS FILM HOLDINGS, LLC, RATPAC ENTERTAINMENT, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

そして今話題の『ブラック・スキャンダル』でジョニーが演じたのは、脅しもゆすりも躊躇なし、仲間も女子も、自分の害だと思う者は即座に消すという、悪名高い犯罪者のジェイムズ・“ホワイティ”・バルジャー。これが、相当に怖い。禿げ上がった頭に、でんとしたたたずまい、青い目のコンタクトレンズという見かけもあるが、その声と話し方、滲み出る雰囲気が怖い。冒頭、バーのテーブルに置いてある無料のナッツをこねくり回しながら食べているギャング仲間に対し、「不衛生きわまりない」となじる場面があるのだが、もうその一瞬だけで震え上がってしまうのだ。ただし、ジョニーは“悪魔”を演じたのではないと断言。彼らしい役へのアプローチを語る。「朝起きてヒゲを剃って、歯を磨きながら、“俺は悪魔だ”なんて言う人間は存在しない。バルジャーはカトリック教徒で、アイルランドの伝統と忠誠心を持った男だった。ただ、自分が知る唯一の方法で出世しただけで、(犯罪は)彼らにとっての言語にすぎない。問題は、彼がどうしてそこにたどり着いたかってことだよ」。事件や問題が起きたときに、様々な根拠を探ろうとせず、人間に善悪、優劣、正異の線引きをしがちな社会に向けた、ジョニーらしいメッセージともとれる。

『ブラック・スキャンダル』
実際のジェイムズ・“ホワイティ”・バルジャーの指名手配書
©2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., CCP BLACK MASS FILM HOLDINGS, LLC, RATPAC ENTERTAINMENT, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

そんなジョニーは私生活でもマイペース。長年、事実婚のパートナーであったヴァネッサ・パラディと別れ、2015年にアンバー・ハードと結婚(2人は2011年の『ラム・ダイアリー』で共演)。ヴァネッサとジョニーの神秘的な魅力を存分に受け継いだ愛娘のリリー・ローズとは、今夏、日本でも公開されたセイウチ人間ホラー『Mr.タスク』と、その続編“Yoga Hosers”での共演が話題となった(この『Mr.タスク』でのジョニーのカメオ出演も必見)。アンバーはバイセクシュアルであることを公表しているが、リリーも先日、LGBTQI(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer/Questioning, and Intersex)のキャンペーンに参加することで、ひとつのセクシュアリティにとらわれない自分の立ち位置をカミングアウトした。いわゆるハリウッド・セレブ道から一線を引くアンバー、シャネルのミューズでもあり、自身の道を力強く歩くリリーと、芯を持った女性を輝かせるのも、ジョニーのなせる技なのかもしれない。

『ブラック・スキャンダル』
『ブラック・スキャンダル』のロンドン・プレミアに出席したアンバー・ハードとジョニー・デップ
©Landmark / PR Photos

『ブラック・スキャンダル』が9月のトロント映画祭のプレミアとなって以来、この演技をジョニーのキャリアのなかで最高のものと評する声は多い。これから始まるオスカーに向けた賞レースを賑わすことにもなるだろう。が、当のジョニーはノミネートにも受賞にも興味なしの様子。賞レースというからには競争がつきものだが、「僕は誰とも競っていない。自分がしたい、できることをしているだけ」なのだから。そして、受賞などしてしまって、ステージでスピーチするのも嫌らしい。確かに以前、プレゼンターとしてステージに現れたジョニーは、ぎこちなく浮きまくり、初オーディションに臨む 若者のようだった。世界一の大スターでありながら、どこまでもマイペースでプロフェッショナル。同じ時代に生まれてよかったと心から思う、俳優の1人である。

『ブラック・スキャンダル』
『ブラック・スキャンダル』(原題:Black Mass)  2016年1月30日(土)
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., CCP BLACK MASS FILM HOLDINGS, LLC, RATPAC ENTERTAINMENT, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)