フィリップ・シーモア・ホフマン
2012年、第69回ヴェネチア国際映画祭で『ザ・マスター』のプレミアに出席したフィリップ・シーモア・ホフマン
Nebinger Frederic/ABACA/Newscom/Zeta Image

文=皆川ちか

ぽっちゃり、かつイケてるメンを発掘・検証・分析しようという趣旨の当コラム。なにしろ、ぽちゃならいい、というわけではない。イケてりゃいい、というわけでもない。私たちが求めているのは、ぽっちゃり&イケてるメンだ。

ゆえに、世界最高レベルでイケてるメン認定されている、ジョニデもブラピも福山も、残念ながらこのジャンルにおいては予選落ち確定。ディカプリオは今後の健闘に期待。そう、ぽっちゃりイケメン界はいわば、苛烈なシノギを削りあっている漢たちの梁山泊なのだ。

今回とり上げるのは、フィリップ・シーモア・ホフマン御大!

ご存じのように、彼は2014年2月2日に亡くなった。享年46。魅力的なメンが数多くいるぽちゃメン界のなかでも、フィリップの立ち位置は別格だった。宝石にたとえるならダイヤモンド、スタンドにたとえるならスタープラチナ。つまり、唯一無二の星だった。

彼が初めて注目されたのは、アル・パチーノが第65回アカデミー賞主演男優賞を受賞した『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(92)だろう。当時25歳にして男子高校生役という設定にも、きついものがあったが、主人公の好青年チャーリー(クリス・オドネル)を裏切る“ゲス山ゲス男”を、寸詰まりの体型とドヤ顔という己がビジュアルを最大限に活かし、清々しいほど憎々しげに快演。

それから大作映画の引き締めポジション的脇役をこなす数年間を過ごした後、1997年、ポール・トーマス・アンダーソン監督との初コラボ『ブギーナイツ』に出演。以後、フィリップとアンダーソン監督との蜜月期がはじまる。

『ブギーナイツ』の憧れのポルノ男優に報われない恋心を抱く映画クルー。『マグノリア』(99)の心優しい看護士青年。『パンチドランク・ラブ』(02)の押し出しはいいものの実はヘタレなテレフォンセックス・サービスの元締め。そして極めつけは『ザ・マスター』(12)の新興宗教の教祖役。健気な同性愛者から宗教のカリスマまで、硬軟も陰陽も自在に表現できる演技力に加えて、その説得力ある体格の使い方を、アンダーソン監督との仕事によってフィリップは会得していった。優しい役柄のときは、抱擁力を前面に押し出して。危険な役柄のときは、威圧感を存分に醸し出して。

フィリップの代表作として挙げるファンも多い『あの頃ペニー・レインと』(00)では、「ロックミュージシャンはイケてる。でも、ロックについて書いたり語ったりしている俺たちはイケてないんだぞ」と、駆け出しの音楽ライター少年に厳しくも温かく教え諭すインドア音楽評論家を、自らの腹をさすりながら演じていた。

主演作『カポーティ』(05)では、アンファン・テリブル(恐るべき子ども)な文壇の寵児から、次第にビザール(奇怪)な作家へと変貌していくトルーマン・カポーティを、中性的な立ち居振る舞い、表情、仕草、しゃべり方、そしてふくよかにしてどこか幼児性を思わせる身体つきによって鮮やかに体現。この作品で彼は第78回アカデミー賞主演男優賞を受賞し、ぽちゃメン界の歴史を塗り替えた。

続く『その土曜日、7時58分』(07)では、美熟女マリサ・トメイとあられもなくリアルなセックスシーン(フィリップのゆれる下腹がセクシー!)を披露し、『脳内ニューヨーク』(08)では、得意とする悩めるインテリを安定の好演。『ダウト~あるカトリック学校で~』(08)では、性的虐待を疑われる神父に扮し、胡散くさくも開放的にも見え、同時にそのどちらにも見えない、限りなくグレーゾーンな役どころを絶妙なさじ加減で妙演していた。

まだ46歳。その死は早すぎる。悔やまれる。

『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』
フィリップ・シーモア・ホフマン
『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』
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フィリップの死後も出演作は公開されてきたけれど、正真正銘最後の作品となったのが『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』(15)だ。

独裁国家パネムを舞台に開催されるサバイバル・コンテスト“ハンガー・ゲーム”に参加し、革命のシンボルへとなってゆく少女、カットネス・エバディーン(ジェニファー・ローレンス)。彼女を取り巻く人間関係と、ゲームから革命、そして戦争へと発展していく文明社会を俯瞰の視点で描いたこのシリーズで、フィリップは“ハンガー・ゲーム”の元ゲームメイカーにして、パネムを裏切り反乱軍の参謀となったプルターク・ヘブンズビーに扮している。

本作における、思慮深いとも、用心深いともとれるフィリップの内省的な佇まいは、激しい物語に落ち着きを与えてくれる。そして上下ともにカーキ色の作業着が体型の愛らしさを強調し、大人の男性の知性と色気、それでいてキュートな姿かたち。それらは映画における役どころと相俟って謎めいた印象を見るものに刻みつける。さらにジュリアン・ムーア、ウディ・ハレルソンとの名優3ショットは、映画ファンにはもう眼福ものだ。

フィリップの功績は偉大にして絶大だった。映画におけるぽちゃメンという種族を、“イケメンの添えもの(ないし引き立て役)”から“主役を張れる存在感”へと引き上げ、肥満=コメディリリーフという従来のぽちゃメンイメージを打ち砕き、さまざまなぽちゃメン像を開拓していった。まさに彼こそ完全無欠のぽちゃメンだったのだ。

過去形で彼のことを語るのは悲しくて仕方がない。それでも語りたい。語ることをやめたくない。そして、彼の最後の姿を、しっかりと目に焼きつけたい。

ぽっちゃりイケメン一本釣り釣果

『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』
Photo Credit Murray Close/TM&©2015 LIONS GATE FILMS INC.ALL RIGHTS RESERVED.

『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』
11月20日 全国ロードショー※全世界同時公開
監督:フランシス・ローレンス
原作:スーザン・コリンズ著「ハンガー・ゲーム3 マネシカケスの少女」(KADOKAWA刊)
出演:ジェニファー・ローレンス、ジョシュ・ハッチャーソン、リアム・ヘムズワース、ジュリアン・ムーア、サム・クラフリン、フィリップ・シーモア・ホフマン、ドナルド・サザーランド
配給:KADOKAWA
TM&©2015 LIONS GATE FILMS INC.ALL RIGHTS RESERVED.
http://www.hungergames.jp/