「下町ロケット」
「下町ロケット」©TBS

文=木俣 冬

10月から放送されている日曜劇場「下町ロケット」(TBS系)が人気だ。

視聴率は、第1話16.1%、第2話17.8%、第3話18.6%、第4話17.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)、第4話までの平均では17.17%と、この10月開始の連続ドラマのなかでは断トツ。

原作はベストセラー作家・池井戸潤の直木賞受賞作。精密機械製造業・佃製作所を営む佃航平(阿部寛)が、幾度も困難に見舞われながら、社員たちと一丸となって研究開発した部品をロケットに搭載する夢を追う姿を描くサクセスストーリー。

池井戸潤「下町ロケット」(小学館文庫・720円+税)
池井戸潤「下町ロケット」
(小学館文庫・720円+税)

中小企業・佃製作所の道を阻むのは、大企業・帝国重工。佃製作所が持つ特許を虎視眈々と狙う帝国重工に対して、佃はひたむきに部品の研究を第一に考え立ち向かう。

佃が掲げたスローガン「技術、誠実、世界品質」は、誠実に技術研鑽を積む(それも繊細な手作業にこだわる)ことで世界に通用する高レベルの品をつくりあげること。お金を儲けることとのせめぎ合いのなかで、この理想を貫き続ける航平と佃製作所の誠実な社員たちの姿には、毎回胸が熱くなる。

例えば、11月8日(日)放送の第4話は、帝国重工の部品供給テストを受ける話だった。帝国重工の社員たちの上目線を浴びながら、佃たちは自分たちの信念を貫こうとする。

痛快なのは、部品チェックのとき担当者がドヤ顔で60点をつけると、それは別の会社のものだった場面。バカにされたと怒る担当者だが、逆に佃にその目利きを讃えられ、ぐうの音も出ない。そんな佃の技術に魅入られる若い帝国重工の社員も現れる。プライドがプライドを刺激し、自社のために策を弄する人たちの魂をもくすぐっていく。正義や誠実は報われるという、徹底的に弱者に希望をもたらすストーリー展開には引きつけられてやまない。

主人公・佃は、夢ばかり追っていると娘には嫌われている。かつて宇宙科学開発機構の研究員だったがそこでは挫折。仕方なく父の会社を継いで、会社で夢の部品をつくり続けていた。研究所に戻らないかという話をもちかけられるが、艱難辛苦をともに乗り越えてきた社員たちとこのまま夢を叶えたいと話を断るところも泣かせる。

金にもの言わせる大企業の人たちに零細企業とバカにされながらも、なにくそと立ち向かっていく。一難去ってまた一難、彼らには次々と難題が待ち構えていて、ついつい続きを見たくなってしまう仕掛けだ。

果てしない敗者復活戦を魅力的に見せるのが、輪郭線のくっきりした芝居をする俳優たち。理系で理想主義の佃を演じる阿部寛、技術開発部部長の山崎を演じる安田顕、実直な経理部長・殿村には噺家・立川談春、そのほかミュージカル俳優の山崎育三郎、お笑い芸人の今野浩喜らが名を連ねる。さらに敵の帝国重工も、杉良太郎、吉川晃司、新井浩文、木下ほうかと多彩だ。10月からはじまった原作小説「下町ロケット2 ガウディ計画」が描かれるドラマ後半には、今田耕司、小泉孝太郎、世良公則が控えている。

池井戸潤「下町ロケット2 ガウディ計画」(小学館・1,500円+税)
池井戸潤「下町ロケット2 ガウディ計画」
(小学館・1,500円+税)

登場人物たちは皆、誠実、狡猾、苦悩、奮起、野望……様々な感情を、視聴者が見間違えることなく的確に表現する。佃の社員は皆、ネームプレートをつけているから、名前も覚えやすい。

なかでも注目は安田顕。大泉洋の所属する「TEAM NACS」の一員だ。安田は、このドラマでは、ひげはやや濃いめ、髪が時々寝癖みたいにハネていることもあって、研究以外にはいっさい構わない感じがパッと見ただけで伝わってくる。安田は以前、「ドラマ24『アオイホノオ』」(テレビ東京系)というドラマで、「エヴァンゲリオン」シリーズをつくった庵野秀明をモデルにした役を演じていた。あの特徴あるクリエイターをモデルにした役なんてなかなか難しいところだが(背格好も違うし)、アニメや特撮をつくるためにほかのすべてをかなぐり捨てる求道者のような精神性の表現が、モデルに近かった演技巧者の安田。今回も、彼の細やかな演技に眼が離せない。

このように、小劇場系の俳優、ミュージカル俳優、噺家、お笑い芸人……とこれでもかと個性的な顔立ちの俳優が集まっているのは、大ヒットしたドラマ「半沢直樹」(TBS系)の手法を踏襲しているが、今回、興味深いのは、メインの俳優のほかに工場で働く人たちがものすごくたくさん出ていること。工場内でも会議室でも、メインの俳優の後ろには必ず、彼らと同じように働く人たちがいて、これがまたドラマに厚みをもたらしている。人間がいっぱいいるだけで大作感があるし、主人公がたくさんの人たちに支えられ共に歩んでいるリアリティが出てくるし、視聴者は知らず知らず、群衆のなかに自分を見つけ、ますますドラマに感情移入していく。ドラマのヒットはこういう細やかなところにもあるのではないだろうか。

さらに面白いのは、基本、生真面目な佃が、時々「なんだこりゃ」とか「よし!」とかちょっとしたギャグみたいなことを言い出すことだ。阿部寛の独特なとぼけた感じが、ともすれば固いイメージに収まってしまう佃、およびドラマ自体を親しみやすいものにしている。

まっすぐ夢を追う人のいいリーダーとその部下たちのドラマを、佃製作所の一員のような気持ちで応援していきたい。