『杉原千畝 スギハラチウネ』唐沢寿明 インタビュー

インタビュー

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ジョークが通じる日本が好き

『杉原千畝 スギハラチウネ』唐沢寿明インタビュー

激動の時代、日本政府の意向に逆らってビザを発給し、6,000人のユダヤ人を救った日本人外交官・杉原千畝。彼のドラマチックな半生を映画化した本作に、主演・唐沢寿明のどんな思いが詰まっているのか。

映画『杉原千畝 スギハラチウネ』は12月5日より全国東宝系にて公開

多くの人に知ってほしい

Q:実在の偉人である千畝さんを演じることについて、どう感じられましたか?

日本では千畝さんはあまり知られていません。僕も、最初に話をいただいたときは、ビザを発給した人がいたことは知っていたけど、名前までは知らなかった。少しでも多くの人に千畝さんを知ってほしいと思いましたね。ただ、資料を見てもどういう意図でビザを書いた(発給した)のかはよくわからない。非常に優れた「インテリジェンス・オフィサー」で、つまりスパイのような活動もしていたから、周りの人に自分のことを話さなかったんじゃないかな。ビザを書いた(発給した)ことで、家族もゲシュタポから狙われていたし、外務省、ひいては国に背いたわけですから、職を失う覚悟もあったはず。よっぽどの決意が彼の中にあったんだと思います。でも、理由は誰も知らないし、わからない。そこは、それをそのまま大切にして演じました。素のご本人は、寡黙(かもく)だけど、意外と人間味のあるチャーミングな方だったみたいです。

Q:妻の幸子さんも、演じられた小雪さんも、すてきな女性でした。

幸子さんあっての千畝さんだったと思います。職を失うかもしれないし、小さい子供もいるのに、「私は大丈夫」って言える人はなかなかいないでしょう。いつの時代もパートナーの存在は非常に大きいと思います。小雪はね、もう長い付き合いですけど、今回の演技はいままでで一番良かったと僕は思います。

『杉原千畝 スギハラチウネ』唐沢寿明インタビュー

その土地の空気感が大切

Q:千畝さんの赴任地リトアニアの隣国・ポーランドで、2か月間の長期ロケが行われましたが、撮影現場はどんな様子でしたか?

僕はずっと行ったきりでした。とても寒かったので、風邪をひかないように気を付けましたね。食べるものは、現場のケータリングを含めてどれも美味しかったですが、中でもジュレックってスープが一番美味しかったです。あとは、寝る前にドラマ「24 TWENTY FOUR」を見て、ストレス解消をしていました。ペシュ役のボリス(・シッツ)がとにかく陽気な男でね、彼は「レッツダンス!」って変な踊りをしたり、ゲームをやったり、常にしゃべっていました。ポーランドの男性俳優はみんな子供みたいにはしゃいでいて、監督によく「静かに!」と怒られていました。(笑)

Q:チェリン・グラック監督とは『太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-』でご一緒でしたよね。

あのときはユニットが違うからほとんど話は出来なかったんです。僕は監督が初監督した映画『サイドウェイズ』が面白くて、才能ある監督だなって思いました。本人はアクティブでしたけど、演出は非常に淡白でクールで、そこが彼の作品の魅力です。日本の映画はどうしても感情表現が過剰になりがち。たとえばこの作品だと、ビザの書き過ぎで「手が動かない!」と痛がる千畝、それを心配する奥さんに「大丈夫、まだやれる!」と涙ながらに答える、とかね(笑)。主人公がラストに号泣する、お涙ちょうだいの演出が多い気がするんですよね。だけど、物語がダメならやっぱりダメな映画なんです。中途半端に情に訴える演出は潔く切ったほうが伝わることもあると思います。

Q:お芝居としては、抑えるほうが難しいのでは?

難しいです。何もしないのが実は一番難しい。過剰な芝居で演技派と呼ばれる場合もありますが、そのほうが演じる側としては簡単。本当にそういう人がいるのでは、と思わせる“普通の役”のほうが大変なんです。やっぱり、その土地や場所の空気感に馴染むことが大切です。その意味でも、ポーランドロケは意味があったんじゃないかな。いまは下手したら、全部グリーンバックで合成出来てしまいますが、やっぱりどこか原始的なところがないとダメなんだと思います。

『杉原千畝 スギハラチウネ』唐沢寿明インタビュー

不思議な感覚を味わえる映画

Q:この映画を体験して、改めて感じられたことや得たものはありますか?

僕は日本が好きなんだと思いました。ご飯は美味しいし、ジョークを言っても理解してもらえるし(笑)。ただ、工業製品やファッションとか他にも、すごく優秀な才能がたくさんあるんだから、もっと日本人は誇りを持ったほうがいい。おごり高ぶったり媚びたりする必要はないけど、もっと堂々とプライドを持つべきです。そうして、世界の中の日本人だって意識を持つ。この映画を観ると、単純に良いことをしてあげるとかいうレベルではなく、もう少しちゃんと自分自身に向き合って、考えることができると思います。そうすれば、その先にある、戦争って何か、ユダヤ人って何か、千畝さんがどんなにすごいことをしたのか、興味を持ったことを改めて自分で調べることもできると思います。

Q:深みのある映画になりましたね。

いつも思うことだけど、最後に決めるのは観客。いくら作り手が「こんなに大変でした」って言っても、それは観る人には関係ないと思う。ただ、この映画はいままであまりお目に掛かったことのない世界観です。監督の感性だと思いますが、日本映画であって日本映画でないような不思議な感覚を味わうだけでも、観る価値はあると思う。もちろん、千畝さんに興味が湧いた人も、ぜひ観てください。

取材・文: 早川あゆみ 写真:杉映貴子

記事制作 : シネマトゥデイ(外部サイト)