【映画の料理作ってみたらvol.8】憧れだったハイジのとろーりチーズに挑戦してみた

コラム

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文=金田裕美子


死ぬほど憧れた「ハイジが食べていたとろーりとろけるチーズ」

子どものころに憧れた食べ物はなに? まわりにちょっとアンケートをとってみたところ、『ONE PIECE』でルフィが食べていた骨付き肉、ぐりとぐらのカステラなどとともに最も人気が高かったのが、「ハイジが食べていたとろーりとろけるチーズ」。私も幼少の折、あのチーズと木製のお椀に入ったヤギのミルクに激しく憧れました。よっしゃ、今回はこれに挑戦しちゃおうと思います。


ハイジはアルプスの山小屋に住むおじいさんと暮らすことになります

スイスの作家、ヨハンナ・スピリが1880年に発表した小説『アルプスの少女ハイジ』。日本では圧倒的に70年代に製作されたアニメーション・シリーズで有名ですが、1937年にシャーリー・テンプルがハイジを演じたアメリカ映画『ハイデイ』をはじめ、本国スイスやイギリスほかの国々で何度も映像化されています。別の作者による続編小説やテレビ映画なども多数存在しており、なんとチャーリー・シーンがヤギ飼いのペーターを演じる、ちょっと笑ってしまいそうな続編まであります。新しいところでは、『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツがおじいさんを演じた2015年公開のスイス/ドイツ合作映画。元気いっぱいの自然児ハイジは、社会の常識にとらわれないけど、誰の心にもちゃんと響く素直さを持っていて、いまも世界中で愛され続けているキャラクターなのです。

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屋根裏に作ったハイジの干し草のベッドにも憧れました

両親を亡くし叔母さんと暮らしていたハイジは、アルムの山小屋に住むおじいさんのもとに預けられることになります。山に着いた日、おじいさんが食事に出してくれるのが、ヤギのミルクと、火であぶってとろーりととけたチーズのせた黒パン。ハイジはミルクを一気に飲み干し、「美味しい! こんな美味しいミルクは初めて」と叫びます。そしてチーズののった黒パンをかじると、チーズがびよーんと伸びます。うおー、美味しそう! 普段は食が進まない病弱なクララも、山では「これまでに食べたどんなごちそうより美味しい」とミルクやチーズをおかわりしてバクバク食べていました。アルムの大自然より何より、幼い私の心をとらえたのはこれらの食事シーンでありました。

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三重県桑名市長島町駒江にある「なばなの里」で、2016年5月8日(日)まで開催中の「なばなの里イルミネーション」
今年のメイン会場イルミネーションはなんと「アルプスの少女ハイジ」!
アルプスの大自然を背景にハイジとペーターが遊んでいる構図です
©ZUIYO 「アルプスの少女ハイジ」公式ホームページ http://www.heidi.ne.jp

これを再現するのに必要なのは、当然ヤギのミルクととろけるチーズ。しかしヤギのミルクなんてどこで入手すればよいのでしょうか。調べてみると、北海道から沖縄にかけて、いくつかヤギを飼育しミルクを販売しているところがあるようです。そのうちのひとつ、京都のやぎ農園からミルクを取り寄せました。ヤギの乳を搾るのはヤギが子どもを産む春先から秋頃まで。シーズンの最後に辛うじて間に合いました。


ハイジが可愛がっていた雪ちゃんみたいな子ヤギさん

そしてチーズです。あのとろーりとろけるチーズは、ラクレットと呼ばれるものらしい。「ラクレット」はフランス語で「削る」を意味する「ラクル」からきているそうで、チーズの断面を火で炙ってやわらかくなったところを削って食べることからこの名がついたそうです。これはチーズの名前でもありますが、料理の名前でもあります。とろりととかしてじゃがいもなどに絡めて食べるラクレットは、チーズフォンデュと並ぶスイスの代表的な料理。私の姉などは、スイスを旅行した際、ラクレットのあまりの美味しさに2晩続けて同じレストランに通ってしまったそうです。


こちらはフランス産のラクレット

ラクレットはチーズ専門店などで比較的簡単に手に入ります。スイス産、フランス産、北海道産のもの、スライスしてパックされたものなどがあり、今回はフランス産のものをケーキのようにカットしてもらいました。

と、ここで疑問が。ラクレットは牛乳で作られているのではないか。おじいさんが飼っているのはヤギ。じゃあ、あれは買ってきたものなのでしょうか。おじいさんは山で木工製品やヤギの乳でチーズを作り、それらを町で売って必要なものを買っています。ヤギは牛や羊と比べて山の厳しい環境にも強いんだそうです。山のふもとには牛がいるので、おじいさんはそこから買ってきているのかも……などと思いつつ最近すっかり癖になった「チーズ専門店ラクレット・チェック」をしていたら「おっ!」、発見してしまいました。ヤギの乳で作ったラクレット! チーズ屋さんも「今回初めて入った」と言っていましたが、あるんですね、ヤギ乳のラクレットも羊乳のラクレットも。

チーズをのせる黒パンも用意し、いざハイジ! おじいさんは家の中の炉で薪を燃やし、金串に刺したチーズを炙ります。私は炭火でやってみることにしました。

とろーりチーズをとかせばいいだけ……
おわっ意外と難しい! 教えておじいさん!

まず火をおこします。しばらくすると真っ赤ないい火に。すかさずラクレットの塊に金串を刺し、火にかざします。目指すは原作にあるように、「焼けてバターのようにやわらかくなったチーズ」。


端のほうがとけて落ちるばかり

……が、チーズの断面にうまく均等に火が当たりません。火に近い端の一部だけがぶにーんととけだし、とけた部分が下に落ちてしまいます。「塊のとけた部分を削る作戦」失敗。次はおじいさんのようにチーズをもう少し小さく切り、全体をとかす作戦です。でもこれ、アニメーションのように全体がとろとろになったら絶対にすべって火の中に落ちると思うのです。それともラクレットには何か一本芯の通った、「落ちない」という決意のようなものが備わっているのでしょうか。火にかざしてみます。じわーり。とろーり。おわーーっ、落ちるっ。やっぱりダメじゃん! 金串を2本使って安定させようと試みましたが、ヘタな皿回しみたいな状態になるばかり。どうしたらあんなふうにチーズ全体をとかせるの? 教えて! おじいさん。


薄めに切ってみたら全体的にとけてきましたが、今にも落ちそう……

本場スイスやフランスには、家庭用のラクレット・グリルやラクレット・オーブンなるホットプレートのようなものがあり、薄切りにしたラクレットをこれでとかしてパンやじゃがいもにかけて楽しんでいるようです。関西におけるタコ焼き器みたいなイメージでしょうか。


なんとか黒パンにのせることに成功。うーん美味しそう!

専用のものがなくても、ラクレットを薄く切ってフライパンにのせ、弱火にかければ全体がとろーりととけてきます。これをパンやじゃがいもにのせるのが一番簡単。わざわざ炭をおこして火の中に落としてる私って一体……。でも、苦労してとろとろにしたチーズ&黒パンは絶品で、思わず「♪ヨ~レ ロ~レ ロヒホ~」とスキップしたくなったのでした。


こちらはじゃがいもにのせたラクレット

そしてヤギのミルク。ヤギには「臭い」というイメージがあります。実際に私もヤギ臭いミルクを飲んだことがありますが、取り寄せたミルクはほとんどヤギ臭さがなく、甘くないミルキーみたい。温めて木のお椀で飲んでみると、ハイジじゃなくても「美味しい!」と叫びたくなります。以前山形で飲んだヤギのミルクも全くヤギ臭がせず、「これ本当にヤギですか?」と2度も聞いてしまったほどでした。その時、何が違うのか尋ねてみたら、「与えている餌です」とのお答え。ほおー、食べ物でそんなに変わるものなんですね。

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左は京都府のるり渓やぎ農園から来たヤギミルク。羊のミルクも発見したので買ってみました。ラムやマトンのあの羊独特の香りがします

ヤギのミルクをせっかく入手したのに、ただ飲むだけではもったいない。ということで、このコラム恒例の無謀な行動に出ました。なんと、ヤギのチーズを作ってみようというのです!

飲むだけじゃもったいない!
ヤギのチーズを作ってみよう

最も簡単に作れるチーズは、カッテージチーズやインド料理のパニールのように、温めたミルクにレモン果汁や酢など酸性のものを加えて凝乳(カード)と乳清(ホエー)に分離させ、カードの水分を切ったフレッシュチーズ。酸味があってさっぱりとした味わいです。しかし私が目指すのは、少しでもハイジとおじいさんの食べているものに近づけること。ちょっとだけ本格的に作ってみようと思うのです。

ハイジがすっかり山の生活に慣れた秋、いつものようにペーターとヤギと一緒に山に行こうとするハイジを、おじいさんは「冬の強い風が吹き始めて危ないから」と引きとめ、「そのかわりチーズの作りかたを教えてあげよう」と言います。そしてハイジは大鍋に入ったヤギのミルクをかき混ぜる役を任されます。あんな大鍋を使うほどの量はないけれど、私もヤギミルクのチーズ作りに挑戦です。


まずはボウルにヤギミルクを入れ、ヨーグルトを加えます

ミルク以外にチーズ作りに必要なのは、ミルクを凝固させる「レンネット」というもの。インターネットのレンタルサービスみたいな名前ですが、これは牛やヤギの胃で作られる凝乳作用のある酵素だそうで、私は粉末のものを通販で購入しました。


がんばって32度に保ちます

さてチーズ作りに挑戦。ヤギのミルク1リットルを32度に温め、ヨーグルトを大さじ2加えて静かにかき混ぜます。これを32度に保ったまま1時間。簡単に書いちゃいましたが、一定の温度に保つって結構大変なことです。ヨーグルトメーカーなどを使えば放っておいても一定の温度に保ってくれますが、持っていない私はミルクの入ったボウルを湯せんにかけ、つきっきりで温度が下がりそうになったら温め……という作業を繰り返しました。この温度設定は、本によって35度だったり40度だったりまちまちなので、もしかするとそこまで神経質にならなくていいのかもしれません。第一、山小屋のおじいさんがそこまで細かく温度調節をしていたとは思えません。


レンネット注入!

1時間たつと、目には見えませんが乳酸菌が増殖しているらしいです。ここに塩水20ccにレンネット耳かき1杯分を溶かしたものを加え、ゆっくり混ぜます。そういえば、アニメーションにもおじいさんがチーズ作りの最中にミルクに何か液体を加える描写がありました。あれはおそらくレンネットです。加えて15分ほどするとあら不思議、ミルクが固まってきます。


左上から時計回りに、固まってきました!⇒切れ目を入れるとこんな感じに分離してきます
ざるにあけて水切り⇒水分が切れたら、これだけになってしまいました

ミルクに酸を加えた時のようなもろもろ状態ではなく、なめらか杏仁豆腐という感じ。1時間ほどおいたのち、固まったミルクにナイフで1センチ角くらいの切れ目を入れます。すると、凝乳(カード)と乳清(ホエー)が分離してきます。これをざるにあけてさらに水を切ります。そのまま一晩置いておけば、かなり水分が抜けています。布に包んで絞り、さらに水分を抜けばヤギミルクのフレッシュチーズの出来上がりです! これまたまったくクセのない、ミルキーなチーズになりました。分離した乳清は飲んでも美味しいし、シチューなどの料理にも使えます。

1リットルのミルクからできるチーズはせいぜい200~250グラムくらい。おじいさんは大鍋でミルクを温め、直径30センチくらいの型にはめて塊を作り、棚の上にのせて熟成させていました。熟成させるためには温度や湿度の徹底した管理が必要です。ここから先は、ちょっと素人の私には難しい。それに、ほんのちょっとしかできなかったので、熟成させる間もなく一瞬で食べ終えてしまいました。それでも初めてにしては上出来で大満足。ちなみにもっとハードなタイプのチーズ、例えばパルミジャーノ・レッジャーノは、あの大きな塊を1つ作るのになんと500リットルもの牛乳が使われているそうです。


一晩おいて、チーズらしくなりました

ラクレットと黒パン、ヤギのフレッシュチーズ、そして温かいヤギのミルク。ハイジの山の食事セットの完成です。


白パンも加えてハイジ・セットの完成です!

憧れのごはんを前にした私は、うれしくてすっかり調子にのって、ちょっと1杯飲みたくなってしまいました。ラクレットに合うのは辛口の白ワイン。せっかくならスイスのワインを飲みたい。ところがスイスで作られるワインのほとんどは国内で消費されてしまい、あまり輸出されないんだそうです。確かに見たことがありませんでしたが、執念で探し当てました。スイス南西部ヴァレー州産の白ワイン、シャスラー。炭火の熱で芯から温まった身体に、この微発泡のフレッシュな白ワインはきりっと美味しゅうございました。ハイジ、クララ、大人になったらいっしょに乾杯しよう!


やっぱり大人はこれがないと

《とろーりとろけるハイジのチーズ&ヤギミルク》
 ラクレット
 黒パン
 温めたヤギのミルク
《ヤギミルクのフレッシュチーズ》
 ヤギミルク
 ヨーグルト
 レンネット
 塩
 ※ミルクを一定温度に保つための温度計
《映画っぽい気分を盛り上げる小道具》
 木のお椀
 山小屋
 わらで作ったベッド
 屋外のテーブル
 ヨーゼフみたいなセントバーナード
 ヤギ

「なばなの里 イルミネーション」
◆開催期間:2015年10月24日(土)~2016 年 5月8日(日)
◆開催場所:なばなの里全体で開催
◆点灯時間:17時頃(日没時間等により変動有り)~21時
◆営業時間9時~ 21時<平日及び、元旦と2/11>(H27.12/24,25,28,29,30、H28.3/1~5/8を除く) 9時~ 22時 <土・日・休日、H27.12/24,25,28,29,30、H28.3/1~5/8>(但し、元旦・2/11は除く)
◆料金:入村時に「なばなクーポン」2,100円分の購入が必要(小学生以上/なばなの里内で使える金券1,000円分付)
◆特典<12/1~2/29 期間限定> 14:00 までに入口ゲートにて上記クーポンをご購入の上、ご入場された方にベゴニアガーデン入館をサービス(当日のみ有効/通常時のベゴニアガーデンの入館料1000円)
◆アクセス:三重県桑名市長島町駒江漆畑270番地 TEL0594-41-0787(お問合せ窓口)
WEBサイト:http://www.nagashima-onsen.co.jp
公共交通機関/近鉄名古屋線 近鉄長島駅より 「なばなの里」行き直通バスにて約10分(桑名便は期間中運休) ※週末やシーズンは混雑致します。平日のご来場と近鉄長島駅から直通バスのご利用をおすすめいたします。 お車/伊勢湾岸自動車道「湾岸長島ICより約10 分 ※特定日はナガシマリゾート大駐車場より無料送迎バスを運行(無料パーク&無料バスライド)を実施。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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