ブルボンヌの新作映画批評 第8回『ホワイト・ゴッド』

コラム

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白い神様・人間に裏切られた
犬という弱者たちの逆襲!

ホワイト・ゴッド

動物が人間を襲う映画、と言えばヒッチコックの『鳥』をはじめ、昔からホラーの1ジャンルではありますよね。でもこの作品はもう少し複雑。多感な少女リリの成長物語でもあるし、身勝手な人間とそれに翻弄されるペットの社会問題提起でもあるし、虐げられた少数者の怒りを描く風刺でもありました。

日本も、子ども(14歳以下の人口)よりも多くの数の犬が、家族として愛されているペット大国。アタシの家は猫ちゃん2匹ですが、性的少数者のカップルにとっても、子どものように二人をつなぐ「かすがい」になっている愛すべき存在です。が、同時に毎年13万頭近くの犬猫が殺処分されているという過酷な現実もあり。実はタイトル『ホワイト・ゴッド』は犬目線から見た人間のことなんですって。育て導いてくれていたはずの神様・人間に捨てられ殺されていく犬たち。不条理系の『鳥』などと違って、その怒りには明確な背景と根拠があるのね。監督がインタビューで「社会の顔に向かって鏡を掲げるべき」と語る通り、報道などで事実としては知っているのに、どこかで気づかぬふりをしていた彼らの悲しみを、「逆襲」というスリラーの形で突き付けられる、ショッキングな問題提起。犬が好きな皆さんには目を背けたくなるシーンも多いけれど、だからこそようやく「神様のひどい仕打ち」に気づかされるのかもしれません。

ホワイト・ゴッド

そして、その弱者たちの逆襲の構図が、人間と犬だけでなく、多数派と少数者、権力者と民衆にも重なるという、社会派目線の監督からのメッセージ。被害者こそが加害者でもある難しさに考えさせられます。あんなにひどい目にあったワンちゃんたちだからこそ、逆襲シーンでは応援したくもなっちゃう。だけど、そのただの通行人はそこまでヒドいことしたわけじゃないわ、やめてあげてー!てな具合に、どっちの味方につけばいいのか分からなくなるのよね。そして、そこをスッキリさせるためなのか、分かりやすい悪人たち数名を、順に「必殺!仕事犬」ばりに血祭りあげていったりもするんですけど、そうなると正直ツッコミ度が増していくという困った面もありました。

ホワイト・ゴッド

ちなみに主人公と犬の関係については、藤子・F・不二雄大先生の『エスパー魔美』に収録されている『サマー・ドッグ』がそっくりです。親の都合で大好きな犬と引き裂かれる飼い主の子ども、凶暴化し群れを引き連れ人間を襲う犬、そして飼い主との再会、という流れがほぼ同じ。70年代後半から描かれていたことを考えると、あらためて藤子先生の先見の明に驚いちゃう。そしてこの回は、子どもと犬の絆以上に、最高のハートイケメンキャラ・高畑さんの愛にも感動させられる名作になっているので、『ホワイト・ゴッド』と合わせてぜひ鑑賞していただきたいの!

ホワイト・ゴッド

コミックモチーフといえば、身勝手な人間の行いを引き金に始まる犬たちの暴走は、王蟲のようでもあるし、トランペットを吹く主人公は蟲笛を吹くナウシカのようでもあります。もちろんヨーロッパらしく、タイトルの「神」に始まって、犬の収容所前にあるモーゼの十戒を思い出す水たまりなど、キリスト教圏のメタファーも多いのですが、日本のコミック文化も大きく影響しているのかもね。要素がてんこ盛りな分、こういう裏読みをさせてくれる楽しみもあり。

社会風刺が詰まったシリアスさの分だけ、後半のスリラー編のツッコミどころ満載なB級感も浮き立ってしまう残念さはありました。が、伝えられるべき「ある視点」は意義深いし、別物と割り切れば、犬たちの逆襲シーンも純粋に動物パニックとして迫力ある映像が楽しめますよ。

『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』

新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
配給:シンカ
2014(C)Proton Cinema, Pola Pandora, Chimney
レイティング:PG12


  • burukimono

ブルボンヌ
女装パフォーマー/ライター

新宿二丁目にある『Campy! bar』をプロデュースしている他、『はみだし しゃべくりラジオ キックス』(山梨放送YBSラジオ)金曜メインパーソナリティ、『ハートネットTV』『週刊ニュース深読み』(共にNHK)、BSスカパー『チャンネル生回転TV ALLザップ』などに出演。大学特別講義の講師、企業内LGBTに関するセミナーMCも務める。


記事制作 : ブルボンヌ

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