最年長“ボンドウーマン”に学ぶ熟女の魅力

コラム

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モニカ・ベルッチ
『007 スペクター』のUKプレミアに出席したモニカ・ベルッチ
SPECTRE © 2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

文=ロサンゼルス在住ライター 石橋朋子

ジェームズ・ボンドといえば、世界中の絶世の美女との逢瀬が付き物。車や腕時計、スーツに至るまで、身に付ける物すべてでダンディズムと美を追求するボンドらしく、各国の美女を代表する「ボンドガール」たちも彼の格を上げ、スクリーンに華やかさを加える。だが、そんなシリーズ最新作『007 スペクター』のボンドガールがこれまでと一味違っていることに、世界中が注目している。シリーズ史上最年長となる50歳のボンドガールが登場したからだ。

ボンドガールに起用されたのは、豊満な肉体と凜とした整った顔立ちで、強さと官能と知性という、時に共存し難い要素を併せ持つ稀なイタリア女性、モニカ・ベルッチ。かつて、ソフィア・ローレンやアニタ・エクバーグら、イタリア国民が愛した、官能と品格を兼ね備える女優たちを踏襲する存在だ。

モニカ・ベルッチ
『007 スペクター』
SPECTRE © 2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

モデル出身のベルッチは、女優としてのデビューは25歳。新人の頃にフランシス・フォード・コッポラの『ドラキュラ』(92)に出演しているのだから、下積みで苦労したわけではない。順風満帆で銀幕に登場した時、すでに大人の女性として完成されていたベルッチの美貌は、全世界の映画ファンの話題をさらった。『アパートメント』(96)と『ドーベルマン』(97)で、セクシー・アクション・スターとして人気だったヴァンサン・カッセルと共演し、その後、結婚。大スターカップルの誕生となった。

ジュゼッペ・トルナトーレ監督作で、アカデミー賞2部門にノミネートされた 『マレーナ』(00)はベルッチにとっても出世作となった。美しくも物静かな戦争未亡人が世の中の冷酷さと理不尽さに耐え忍ぶ姿は、日本人の心にしっくりはまり、当時、同世代の女性たちの憧れとなる一方、おじさま方の心をわしづかみにした。だが、おじさま方の胸の高鳴りが最高潮に達したのは、『ダニエラという女』(05)でベルッチが娼婦を演じた時だ。宝クジに当たった男に身請けされた娼婦役のベルッチは、洋服を着ていても想像に難くない肉体美を堂々とさらけ出した。ファンはその見事な脱ぎっぷりに圧倒されるとともに、イタリア女性の肝っ玉の大きさを痛感した。

モニカ・ベルッチ
ロンドンで行なわれた『007 スペクター』のフォトコールでのモニカ・ベルッチ
SPECTRE © 2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

そんな彼女が50歳になってボンドガールに起用された。出演依頼を受け取った時は本人も驚き、「(前作『007 スカイフォール』で亡くなった)ボンドの司令官M(80歳のジュディ・デンチが演じていた)の後任の役かと思った(笑)」と告白しているほどだ。米「エンタテインメント・ウィークリー」誌によると、ベルッチの起用について『007 スペクター』のサム・メンデス監督は、適齢期の美女がお相手というこれまでのマンネリを打破したかったという。

前作までのシリーズ23作品に登場した全ボンドガールの数は75人。歴代ボンドガールたちは、一部(『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』のソフィー・マルソーや『007 ダイ・アナザー・デイ』のハル・ベリーら数名)を除いて起用された時点では無名の女優が多い。大抜擢を足がかりに女優としてのキャリアを築くというサクセスストーリーが定番だ。例えばロザムンド・パイク(『007 ダイ・アナザー・デイ』)や、オルガ・キュリレンコ、ジェマ・アータートン(共に『007 慰めの報酬』)らがその典型。

こういった従来のボンドガールのイメージを逆手に、ベルッチ自身は自分を「ボンドガール」ではなく、「ボンドウーマン」だと言う。「私はガールという歳ではないわ。ガールというには成熟しすぎている。ボンドレディかボンドウーマンよ」。この言葉には、成熟した大人の女性の自信がみなぎっている。これからキャリアを積む女優ではなく、すでに確立された女優のクールな上から目線、とでも言うべきか。

モニカ・ベルッチ
『007 スペクター』のUKプレミアのモニカ・ベルッチ(右)ともう一人のボンドガール、レア・セドゥ
SPECTRE © 2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

長い間ハリウッドには、40歳を超えると突然仕事が減る、という差別的要素に不満を訴える女優らの声がある。魅力的な女性=若くて美しい、という、男性の欲望が作り上げた無意味な若さへの崇拝に、人間として成熟した女優たちはフラストレーションを抱えて闘っている。

「世の中は男性のもの」と、ベルッチは「イベント・マガジン」誌のインタビューで話す。「でも、30歳の男性が50歳の女性と付き合うことに何の問題がある?」と問いかける。「セクシーさとは、エネルギーと魂から出てくるもの。肉体年齢ではないわ。心とイマジネーションの中にあるのであって、体に宿るものではない」。完璧と言える肉体を持つベルッチが言うからこそ、この言葉は説得力がある。彼女は、すべてを分かっていながら、媚びることなく、受けて立つ。究極の「男の世界」を描く007シリーズの中で、このような包容力のある女性の魅力に目が向けられるということは、現実世界でも女性の年齢への価値観が変化していることを象徴しているのかもしれない。

かくて、本作のメインのボンドガール、レア・セドゥの影が薄くなるほどの熟女論が白熱する『007』。ベルッチのような絶世の美女にはなれずとも、年齢を重ねるごとにエネルギーと魂が輝き、成熟した魅力をにじませる女性を目指したいと思うのであった。

モニカ・ベルッチ

『007 スペクター』
11月27日(金)、28日(土)、29日(日)先行公開
12月4日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
SPECTRE © 2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)