【映画の料理作ってみたらvol.9】高倉健も吉永小百合も原節子も食べたお汁粉に挑戦!

コラム

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文=金田裕美子

甘く温かいものが恋しい季節。普段は甘いものをあまり食べない私も、冬になるとこれだけは食べたい!と思うものがあります。それはお汁粉。以前真冬の京都を訪れた際、あまりの寒さと空腹にフラフラになっている時に、幻のように現れた下鴨神社のお茶屋さんでいただいたお汁粉の上品な甘さと温かさにノックアウトされて以来のことです。あの時の、五臓六腑どころか細胞のひとつひとつにまでしみわたる、天にものぼるような美味しさ! 山田洋次監督の『母と暮せば』を見ていたら、「お汁粉を作りましょう」という台詞が出てきました。よしっ、寒いし、今回はお汁粉を作ってみようと思います。

お汁粉とぜんざい、どこが違うの? 『母と暮せば』の場合

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©2015「母と暮せば」製作委員会

『母と暮せば』は、戦争が終わって3年目の夏、助産婦をしている伸子(吉永小百合)のもとに長崎の原爆で死んだ息子・浩二(二宮和也)の亡霊が現れ……というお話。2人は、子どもの頃の思い出や浩二の恋人だった町子(黒木華)のことなど、それぞれの思いを伝え合います。町子は浩二の死後も伸子のことを気にかけ、しょっちゅう家に立ち寄っては卵を届けたり一緒にご飯を食べていったりします。その町子がある日持ってくるのが小豆。伸子は「わあっ」と顔をほころばせ、「お砂糖を手に入れてお汁粉を作りましょう」と言います。実際に作るところも食べるところも出てきませんが、2人のはしゃぎようにこちらも「お汁粉食べたいっ」と思ってしまいました。映画に出てこないなら私が自分で作っちゃいます。
……と威勢よく宣言してみたものの、私はお汁粉というものを作ったことがありません。子どもの頃、たまに母が作ってくれたお汁粉を食べましたが、下鴨神社の上品なこしあんのお汁粉と違い、粒がゴロゴロしていました。あれは「ぜんざい」と呼ばれるものなんでしょうか。そもそも「お汁粉」と「ぜんさい」の違いって何? 調べてみるとこれは関東と関西で認識が違うらしく、大まかにいうと関東では粒があろうがなかろうが汁気のあるものが「お汁粉」、ないものが「ぜんざい」。関西ではこしあんで作ったものが「お汁粉」、汁気があろうがなかろうが粒があれば「ぜんざい」と呼ばれているそう。ほう。では、『母と暮せば』の舞台、長崎でいう「お汁粉」は“粒”と“こし”のどちらなのでしょうか。

『鉄道員 ぽっぽや』で健さんが作るお汁粉って!?

お汁粉(またはぜんざい)が出てくる映画はたくさんあります。『鉄道員 ぽっぽや』では、定年間近の駅長、乙松(高倉健)が駅を訪れた不思議な少女(広末涼子)に「運転士さんたちに振る舞おうと思って準備してた」という「お汁粉」をごちそうします。冬の北海道の駅ということもあって健さんは室内でも制服のコートを着たままなので袖の陰になってよく見えませんが、手元のおたまをよーく観察すると、どうやら粒があります。関東認識のお汁粉です。それにしても、ひとりで黙々とお汁粉を仕込む健さん……想像つくようなつかないような。

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『おかあさんの木』には、のちに7人の息子たちを戦場に見送ることになるミツ(鈴木京香)が、まだ幸せだった時代に夫と子どもたち全員とお汁粉を食べるシーンがあります。ここではお椀の中身は見えないので粒のあるなしはわかりませんが、焼いた切り餅をのせて食べていました。

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©2015「おかあさんの木」製作委員会

お汁粉は生命力を表す食べ物!? 『生きる』『タンポポ』

黒澤明監督の『生きる』にもお汁粉が出てきます。癌で余命いくばくもないことを知った勘治(志村喬)が、町で偶然会った元部下のとよ(小田切みき)と一緒に時間をすごし、遊園地でお汁粉をごちそうします。明るく健康的なとよが美味しそうにお汁粉を食べるのを見て、勘治は自分の分も差し出します。とよはお箸で小豆をすくって食べているので、これも粒ありです。

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夫の遺したラーメン屋を立て直そうと奮闘する女性を描く伊丹十三監督の『タンポポ』には、お蕎麦屋で鴨南蛮と天ぷらそば、お汁粉を一気に注文する老人(大滝秀治)が登場します。老人はそれらを少しずつ順番に食べ、2周目に入ったところで餅を喉に詰まらせて卒倒。偶然居合わせたタンポポ(宮本信子)に掃除機で餅を吸い出してもらって助かります。これもお椀の中身は見えませんが、ふたをとってお茶のようにズズッとすするので、こしあんのお汁粉のようです。

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『秋日和』で原節子、司葉子が食べる 小津映画のお汁粉

なんだか映画の本筋に関係ない「粒かこしか」ばかり見てしまいましたが、この他にも『聯合艦隊司令長官 山本五十六』には甘党だったという山本五十六(役所広司)が町の甘味屋でお汁粉をおかわりして2杯食べているシーンが、小津安二郎監督の『秋日和』には未亡人の秋子(原節子)と結婚が決まった娘、アヤ子(司葉子)が旅行先の伊香保で「ゆで小豆」を食べるシーンが登場します。「ゆで小豆」とは関東・関西共に「ぜんざい」と呼ばれるものでしょうか。

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そして『母と暮せば』のお汁粉。長崎といえば和洋中を織り交ぜた卓袱(しっぽく)料理が有名です。このコース料理の最後に出されるデザートのような「梅椀」で、一般的に出されるのがお汁粉。いろいろな料亭の写真を見てみると、これはこしあんのお汁粉に白玉、そして桜の花の塩漬けを浮かべたものが多いようです。でもいくら長崎とはいえ、料亭で出すようなお汁粉を家庭でも作るものでしょうか。うーん、粒あんなのかこしあんなのか、よく分からないので両方作ってみることにしました。この機会に同じ豆で作ってふたつを食べ比べてみます。

お汁粉もぜんざいも両方作ってみる!

まず用意するのは小豆。お店に行ってみると、500グラム400円位から1800円くらいまで値段の幅があります。せっかくなら美味しい方がいいので、奮発して兵庫県丹波市春日町からやってきた最高級の「丹波大納言小豆」を購入いたしました。
これをざるにザーッとあけてよーく観察します。これは小豆のうっとりとするような美しい色を鑑賞するため、ではなくて(それもいいですが)、割れているものや悪くなっているものを取り除くため。

今回は500グラムの小豆を粒あん用250グラム、こしあん用250グラムに分けました。これを水洗いして、それぞれ500ccの水と一緒に鍋に入れます。たいていの豆は一晩水につけてから茹でますが、小豆は別。すぐに強火で茹で始めます。浮いてきた豆全体にしわが寄ってきたら、差し水をしてお湯の温度を50℃以下に下げます。こうすると豆が水分を吸収しやすくなって、早くムラなく煮えるんだそうです。

これを再び沸騰させ、豆が十分にふくらみ、しわも伸びたらざるにあけて茹で汁を捨て、水をかけてそっと洗います。これは小豆の皮に含まれる渋や苦みの原因、タンニンを取り除くため。これを鍋に戻し、それぞれ水500ccを入れて沸騰させます。

沸騰したら弱火にして、豆が水面から頭を出さないように水を足しながら1時間、豆が指でつぶせるくらいに軟らかくかくなるまで煮ます。砂糖を入れるとそれ以上豆は軟らかくならないので、「あとでまた煮るんだから多少固めでもいいや」などと思わずに、この段階でしっかり煮ます。

まずは粒あんチームから

さて、ここから粒チームとこしチームの進路が分かれます。まず粒チームの小豆は、水の入ったボウルにあけてかき混ぜ、上水を捨てます。これを水がきれいになるまで何度か繰り返します。洗わないレシピも多数見かけたので、まあここはお好みで。この小豆の水を切ったものが「ゆで小豆」です。

鍋に先ほどのゆで小豆と砂糖200グラム、水250ccを入れて火にかけます。砂糖は、今回は三温糖を使いました。200グラムの砂糖って結構な量です。我が家では普段、1キロ入りの砂糖を買ってきても延々なくならないので、この豆全体を覆うような量にビビりますが、ここで砂糖を減らそうなどと考えてはいけません。こういうものは甘いからこそ美味しい。甘い物の得意でない私でさえ、「甘さ控えめ」の半端な甘さは美味しいと思いません。ここは思い切ってどさっと。沸騰させて焦げないようかき混ぜ、アクを取りながら少々煮詰めます。ここに塩をひとつまみ入れれば粒チーム、粒ありのお汁粉またはぜんざいの完成です。さらに煮詰めて水分をとばしたものが粒あんです。

続いての登場はこしあんチーム

次はこしチーム。茹であがった小豆をざるにあけてざるごと大き目のボウル入れ、お玉などでつぶし、水をかけながら手でさらにつぶします。

よーくつぶして下のボウルに小豆の中身、呉(ご)が、ざるには皮だけが残るようにします。結構大変な作業です。下のボウルにたまった呉をさらに目の細かいこし器にあけ、手で混ぜながら水をかけ、さらに細かい皮などを取り除きます。下のボウルにたまった呉をしばらく置き、呉が沈殿したら濁った上水だけを捨てます。ここでまたたっぷりの水を注いで呉をかき混ぜます。これが田んぼの泥にズズッと手を突っ込むような感じといいますか、でももっとさらっとした何ともいえない感触で、もう癖になりそう。これをしばらく置いてから上水を捨てます。この作業を上水が澄むまで3~4回繰り返します。こんなに何度も水ですすいで小豆の風味がとんでしまわないものか、段々不安になってきます。が、初心者の私は和菓子の本に書いてあることを忠実に守りました。水が澄んだら上水を捨て、呉をさらしにあけてぎゅっと絞って水気を切ります。

さらしを開けてみると……おおー、なんだか白っぽい粉っぽい塊ができました。これが「生あん」と呼ばれるものだそうです。鍋に水400ccと砂糖250グラムを入れて沸騰させ、砂糖がとけたら先ほどの生あんを半量加えてよく混ぜて溶かし、沸騰したら残りの半量を加えます。これを焦げないようにとろりと煮詰めて塩をひとつまみ加えれば、こしチーム、関西でいう「お汁粉」の完成です。さらに煮詰めて水分を飛ばしたものがこしあんです。

お汁粉に入れる2大トッピングは、お餅と白玉。お餅は焼いて準備します。白玉は白玉粉に水少々を加えて練り、小さく丸めて沸騰したお湯に落とし、浮いてきたらさらに1分茹でて冷水に取ります。

お汁粉とぜんざい、実は全然別物だった!

ここまで作ってきて思ったのは、粒あんとこしあんは全然別物だということ。よく人は「あなたは粒あん派? こしあん派?」などと簡単に質問しますが、このふたつはかかる手間も味も全然違います。粒あんは皮の風味も食感も楽しむワイルド系。こしあんは皮を取り除いて純粋に小豆の中身を味わうもので、なめらかさも味もとっても上品なのです。なんとなくですが、焼き餅はワイルド系の粒あんに、白玉はお嬢様系のこしあんのお汁粉に入れてみました。お汁粉またはぜんざいの完成です! ほわっと湯気の立つお汁粉は、とても素朴で優しいほっとする味でした。「どちらのお汁粉もそれぞれ素晴らしく……」と『ローマの休日』のアン王女(オードリー・ヘップバーン)のような台詞を吐きたくなるほど、粒のあるなしで甲乙はつけ難いです。

と、ここで『母と暮せば』のお汁粉が粒あんなのかこしあんなのか問題に戻ります。まだまだまだ食糧の不足している戦後、貴重な小豆の皮を取り除いてこしあんを作るために家庭であのような手間ひまをかけるとは思えません。『おかあさんの木』もそうですが、おそらく粒あんのお汁粉を食べていたのでしょう。これは両方作ってみなければわからなかったことでした。今は、出来上がったこしあんや粒あんを買ってきてお湯でのばせば簡単にお汁粉は作れます。でもたまには豆からじっくり煮てみると、また新たな発見があるかもしれません。

Recipe
《お汁粉とぜんざい》
 小豆
 砂糖(三温糖、グラニュー糖、黒糖、きび糖など好みで)
 水
 塩
 切り餅
 白玉(白玉粉、水)

《映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具》
 大きい鍋
 もちを焼く火鉢
 蓋つきの赤いお椀

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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