日本オタクな名監督の最新ホラーとは?

コラム

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文=熊坂多恵

CRIMSON PEAK
(C) Universal Pictures.

メガネの奥でキラリと光る目、しかし全体のイメージはもさっと丸い。ある英国俳優は彼のことを「偉大なメキシコの熊」と呼ぶ……。メキシコが誇る鬼才にして、その日本大好きオタクっぷりを映画『パシフィック・リム』(13)で世界中(?)に知らしめた監督、ギレルモ・デル・トロ。彼の待望の新作が公開される。タイトルは『クリムゾン・ピーク』、おどろおどろしいゴシック・ホラーだ。

CRIMSON PEAK
(C) Universal Pictures.

舞台は20世紀初頭のアメリカ。幼い頃に母親をなくし、父親と暮らすイーディス(ミア・ワシコウスカ)は、恋愛や結婚に興味はなかったが、自分の書いた小説をほめてくれたイギリス人のトーマス(トム・ヒドルストン)に思いがけず惹かれていく。トーマスとの交際に反対していた父が謎の死をとげると、イーディスはトーマスと結婚し、イギリスへ。そこで彼女を迎えたのは、冬になると地表に露出した赤粘土が雪を赤く染めることから、クリムゾン・ピークと呼ばれる荒涼とした丘陵に立つ巨大な屋敷だった。見知らぬ土地でひとり、やさしく紳士的なトーマスの愛を信じようとするイーディスだが、トーマスのそばには常に姉のルシール(ジェシカ・チャスティン)がいて……。

CRIMSON PEAK
(C) Universal Pictures.

登場するのは、この映画の撮影のために約6カ月かけて細部まで作り込まれたというゴシック様式の謎に満ちた古い屋敷と、屋敷の主である青年実業家のトーマス、その姉のルシール、そしてトーマスに惹かれる作家志望の娘イーディス。美しくもどこか陰のある姉弟と、ちょっと変わり者だけれど好奇心旺盛なヒロイン……ってなんだか昭和の少女マンガみたい!? お年頃なのに鼻メガネをかけて、小説執筆に夢中なイーディスは、同世代の女の子たちが集う社交界ではうきまくり。そんな彼女の前に現れたトーマスは、アメリカン女子あこがれの英国貴族! ダンスパーティで、並みいる娘たちのなかからトーマスに手を取られ、羨望の眼差しのなかをうれしそうに踊るイーディス。少女マンガの王道、地味なメガネっ子に王子様が降ってきた!? 

CRIMSON PEAK
(C) Universal Pictures.

そんな二人をじっとり見つめるルシール(怖いっ!)。彼女とトーマスの姉弟にしては妖しすぎる距離感が、3人をまるで三角関係のように見せ、シリアス系少女マンガのような緊張感が漂います。そして、これも少女マンガのお約束、純粋で自由な心をもつヒロインに、トーマスはひかれていき……。イーディスとトーマスのうふふなラブシーン(イーディスがかなり積極的!)も含め、うれしいような気恥ずかしいような、少女マンガ的設定と展開で物語は進んでいきます。

CRIMSON PEAK
(C) Universal Pictures.

監督いわく、愛読書である「嵐が丘」や「吸血鬼カーミラ」をイメージした「ゴシック・ロマンス」だそうですが、なにしろ彼は日本のマンガにもくわしいお方(大友克洋の「童夢」映画化の話もあったほど)。もしや日本の少女マンガまでもが興味と研究の対象ですか!? などと勝手に妄想していると、さらに容赦なく、監督のこだわりが強烈なビジュアル、というか造形美として伝わってきます。そのこだわりの一つと思われるのが……虫!

監督の過去作品でもある『ミミック』(99)や『パンズ・ラビリンス』(06)でも、デカくてグロテスクな虫がバッサバサ飛んで、見る者絶叫・阿鼻叫喚、お好きな人にはそれも魅力、という感じでしたが、今回はもうちょっとさりげなく、耽美な感じに登場。たとえば公園で美しい蝶が大量に死にかけていたり、クリムゾン・ピークの屋敷の壁に蛾がオブジェのように埋まっていたり(ひえー!)、蝶と蛾がヒロインとそのライバルを象徴し、なんとも生々しく不穏な空気をかもしだしています。

そしてもう一つのこだわりと言えるのがクリエイチャー、イーディスの周りに現れる幽霊たち。この映画では、彼らはリアルなラインと質感をもち、暗い屋敷の廊下を高速移動し、優雅に宙を舞う。グロテスクなのに美しい色形、しかもアグレッシブ(死んでるのに……)。監督の頭のなかはどうなっているのかと思うほど、オリジナリティあふれる幽霊たちが活躍します。

SF大作『パシフィック・リム』の監督として名をはせたギレルモ・デル・トロですが、最初に注目されたのはヴァンパイア・ホラー映画『クロノス』(93)。その後も『デビルズ・バックボーン』(04)『パンズ・ラビリンス』などのダーク・ファンタジーを監督、プロデュースするなど、彼自身は完全なるホラー体質。人気アニメ「シンプソンズ」のハロウィーン・エピソードのオープニング用に監督が作った映像も話題となりましたが、これも古今東西のホラー&ファンタジー映画をパロディにして詰めこんだものでした。そのホラー、スリラー、ダークな空気がこの映画にも満ち満ちています。なんとも心地よい閉塞感というか……。

そんなギレルモ・デル・トロがこのゴシック・ロマンス映画のテーマとしたのは、「愛とは優しい罠である」。そして、「人間こそ一番怖いのだ」と。 その通り、一番怖いのは、虫でも、幽霊でも、呪われた屋敷でもなく……。 この続きは映画館でお確かめください。

CRIMSON PEAK

「クリムゾン・ピーク」

2016年1月8日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開
配給:東宝東和
レーティング:R15+
(C) Universal Pictures.

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)