アカデミー賞は人種問題を解決できるか?

コラム

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文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨

オスカー
RICHARD B. LEVINE/Newscom/Zeta Image

アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは22日、同賞の投票権を持つ会員の構成について、2020年までに黒人や女性といった少数派の人数を2倍にするなどの改革案を発表した。

これは、14日に発表された同賞のノミネーションで、演技部門(主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞)の候補者計20人すべてを、2年連続で白人が占めたことへの激しい批判に対処したもの。ソーシャルメディアで「オスカーは真っ白(#OscarSoWhite)」というハッシュタグがトレンドとなるなど、反発の高まりは連日米メディアを騒がせている。昨年、同賞名誉賞を受賞した黒人監督スパイク・リーは、2月28日の授賞式欠席を表明しボイコットを呼びかけた。

ここ数年、米国では白人警官による黒人への理不尽な暴力が大きな問題となり、ハリウッドでは女優たちが主に賃金における男女格差を訴えるなど、マイノリティ差別への抗議が大きなうねりとなっていた。そうした不満が2016年早々、「2年連続で全員白人」という結果をきっかけに、米映画界で爆発したと言える。

ウィル・スミス、スパイク・リーら授賞式をボイコット

ウィル・スミス
第73回ゴールデン・グローブ賞の授賞式に出席したウィル・スミス
Galaxy/starmaxinc.com/Newscom/Zeta Image

具体的に「候補から漏れた」と指摘されているのは、アメフト選手の脳震とうが題材の“Concussion”に主演したウィル・スミス、『ロッキー』シリーズのスピンオフ『クリード チャンプを継ぐ男』の主演マイケル・B・ジョーダン、動画プラットフォームNetflixのオリジナル作品『ビースト・オブ・ノー・ネーション』のイドリス・エルバら出演陣、昨夏サプライズ・ヒットを飛ばしたヒップホップ・グループN.W.A.の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』の出演陣ら。

さらに、作品賞においても『クリード チャンプを継ぐ男』『ビースト・オブ・ノー・ネーション』『ストレイト・アウタ・コンプトン』はノミネートが有望視されていたが、候補に入らなかった。代わりに(?)、『コンプトン』からは白人脚本家コンビが脚本賞に、『クリード』からはシルヴェスター・スタローンが助演男優賞にノミネートされた。

ウィル・スミスは21日、米ABCのインタビューに「多様性はアメリカのスーパーパワーなのに、(同賞は)間違った方向へ進んでいる。僕たちはこれでいい、と言ってその場に立つことはできない」と語り、授賞式ボイコットを明言した。

圧倒的に白人男性優勢のアカデミー会員

ハリウッドがもともと、白人男性優勢のコミュニティであることはよく知られている。「ロサンゼルス・タイムズ」紙による2012年の調査によると、アカデミー会員約6000人の94%が白人で77%が男性、そして平均年齢は62歳だという。

毎年、新たな会員がアカデミーに招待されるが、その資格を得るためには現行会員からの推薦など厳しい条件がある。結果として会員構成に大きな変化がないまま長い年月が過ぎ、「時代遅れの選考」などとアカデミー賞への批判は日増しに高まっていた。この状況を打破するために2013年7月、アカデミー初の黒人会長としてシェリル・ブーン・アイザックス氏が就任。それが要因とは言えないにしろ、就任初年度には黒人差別が題材の『それでも夜は明ける』が作品賞など3冠に輝いた。

アイザックス氏の就任から3年間、アカデミーは例年よりも大幅にマイノリティの割合を高めて新会員を招待してきた(この期間、毎年300人前後の新会員中、10%~18%が非白人)。にもかかわらず、「2年連続で全員白人」と“効果”が表れなかったため、今回の劇的な改革案に打って出たわけだ。今回のノミネーション結果を受け、アイザックス氏本人が「胸が張り裂けそうで、失望した」と述べていた。

冒頭に記した案通り、2020年までに少数派の人数を2倍にすることで非白人は会員全体の14%に、女性は48%になるという。また、これまでは一度与えられた投票権は生涯保障されたが、新規会員については投票権を10年間に限定し、その後は業界での活動状況による更新制度をとる。さらに今後は現行会員も、業界での活動実績がないと見なされれば、投票権を失うことになる。今後、生涯投票権を得る会員は、30年間投票権を保持し続けるか、同賞にノミネートされた経験を持つ業界人のみに絞られる。これら新制度が導入されるのは、来年度の投票からだ。

当然といえば当然という感のある新制度だが、これによって既得権益を失うであろう“現在活動していない元業界人”たちからは、早くも反対の声が上がっている。そういった人々の多くが高齢者であることは、先に述べた会員の平均年齢を見れば明らかである。

最大の問題はアカデミー会員の高齢化か

芸術性など主観により意見が分かれる要素の多い映画に関することだけに、今回のノミネーション結果が、本当に白人会員による排他主義を反映しているのか、判断することは難しい。

『ハンナとその姉妹』(1986)『サイダーハウス・ルール』(99)で助演男優賞を受賞している英国の名優マイケル・ケインは、BBCラジオのインタビューに「黒人俳優だからという理由で投票はできない。いい演技をしなければ」とした上で、「イドリス(エルバ)は素晴らしかった。我慢していればその時は来る。私もオスカー獲得には何年もかかった」と話した。

『カリートの道』(93)『アーティスト』(2011)などで知られる白人女優のペネロープ・アン・ミラーが米エンタメ業界紙「ハリウッド・リポーター」に語った言葉が印象的だ。「私は何人かの黒人俳優に投票した。彼らがノミネートされなかったのは残念だけど、それで私たちすべてが人種差別主義者だと言うのはあまりにも攻撃的。今年はただ、とても競争の激しい年だったと思う。(中略)私は『ビースト・オブ・ノー・ネーション』のイドリス・エルバが大好きだけど、十分な数の人々(会員)がこの作品を見ていたとは思えない。よくあることだわ。『ストレイト・アウタ・コンプトン』も素晴らしい作品だけど、年配のアカデミー会員には向いていない」。

確かにNetflixという新たに台頭したメディアや、黒人ヒップ・ホップグループの実話を描いた作品が平均62歳というアカデミー会員にどこまでアピールしたかは疑問だ。白人男性優勢の業界構造もさることながら、会員の高齢化こそ最大の問題だったかもしれない。

一方、『クレイマー、クレイマー』(79)『レインマン』(88)で主演男優賞を戴冠した米俳優ダスティン・ホフマンは、英BBCにこう話した。「我々の国には、サブリミナルな人種差別がある。これ(ノミネーション結果)は一つの例に過ぎない。黒人俳優がノミネートされなかったこと以上に、若い黒人がストリートで白人警官に殺されていることが大きな問題だ」。

投票権を持つ会員の人種構成比を変えれば問題が解決する、という考え方は、我々日本人には少し違和感が残るかもしれない。だが、これが米国がおかれている現実ということだろう。第88回アカデミー賞授賞式は2月28日(日)にロサンゼルスのドルビー・シアターで開催される。司会を務めるのは、黒人コメディアンのクリス・ロックだ。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)