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文=金田裕美子

2月といえば、バレンタイン・デー。ウァレンティヌス(聖バレンタイン)が恋人たちの守護聖人となった由来などほとんど誰も関心を持ちませんが、デパート、スーパー、コンビニ、あらゆる店に各種チョコレートがあふれかえり、誰にあげるのか、誰にもらえるのか、その行方に人々が俄然注目する季節です。というわけで、今回はチョコレート作りに挑戦してみます。

特別な時期じゃなくても、チョコレートは私たちの日常にドロドロに溶け込んでいます。映画でもそれは同じ。「チョコレートを食べる」だけのシーンなら、もう無数に存在します。2月は映画ファンが楽しみにしている米アカデミー賞発表の季節でもありますが(3月のこともある)、第1回アカデミー作品賞を受賞した1927年のサイレント映画『つばさ』にもチョコレートが登場しています。

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ゲイリー・クーパー(右)はベッドにかじりかけた
ハーシーの板チョコを残して戦場へ。『つばさ』より

『つばさ』は、第1次世界大戦を舞台にした当時流行の空中戦映画。チョコレートを食べていた若いパイロットに出撃命令が下り、彼は意気揚々と出かけて行きます。しかし直後に飛行機は墜落、ベッドにはかじりかけのハーシーの板チョコが残されている……という、短いけれど印象的なシーンです。ほんのチョイ役ながら、このパイロットを演じた美系の無名俳優に戦前の日本の映画ファンが大注目、日本からファンレターが殺到したとか。この俳優こそ誰であろう、後に『誰がために鐘は鳴る』『真昼の決闘』『昼下りの情事』などでハリウッドを代表するスターとなるゲイリー・クーパーその人でありました。ゆえに、クーパーを最初に発見したのは日本の映画ファンだ、と言われています。

1964年度作品賞を受賞したミュージカル『マイ・フェア・レディ』では、ロンドンの下町の貧しい花売り娘イライザ(オードリー・ヘップバーン)が、「ラブリー」という曲で「暖かい家と、たくさんのチョコレートがあったらなんて素敵かしら」と歌います。さらに、訛りを研究している言語学者ヒギンズ教授(レックス・ハリソン)の「チョコレートを箱で、いや樽で食べさせる」という言葉に釣られ、住み込みで訛り矯正レッスンを受けることに同意します。イライザ、訛りのおかげで暖かい家とチョコレートの両方をゲット。まあ、このあとイライザはもっと素晴らしいものをゲットすることになるのですが。

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『マイ・フェア・レディ』Blu-ray発売中
4,700円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

『E.T.』では、宇宙生物を目撃したことを誰にも信じてもらえないエリオット少年(ヘンリー・トーマス)が、家のまわりにカラフルなキャンディ・チョコレートをまいてE.T.をおびき寄せようとします。そしてまんまとエサに釣られてやってくるE.T.。チョコレートはロンドンの花売り娘だけでなく、宇宙人をも魅了するようです。ちなみにここで使われているチョコレートはハーシー社のリーシーズ・ピーシズで、映画の公開後、爆発的に売上を伸ばしたとか。最初にオファーを受けたのに映画での使用を断ったM&Mのマーズ社は、さぞや後悔したことでしょう。

チョコレートを食べるだけでなく、作るところまでばっちり見せてくれる映画は、何といっても『ショコラ』です。映画はヨーロッパの小さな村に、ヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)とアヌーク(ヴィクトワール・ティヴィソル)という不思議な母娘がやってくるところから始まります。ヴィアンヌは古ぼけた空き家を借りて「ショコラティエ・マヤ」を開店。村人それぞれの好みをぴたりと当てて、とびきり美味しいチョコレートを食べさせ、人々を幸せにしていきます。でも、厳格な村の掟に従わず教会にも行かない母娘を村長は面白く思わず、チョコレートを堕落の象徴だとしてことごとく商売の邪魔をします。

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『ショコラ』
ジュリエット・ビノシュと恋に落ちるジプシー役でジョニー・デップも出演
© FAT FREE LTD/MIRAMAX / THE KOBAL COLLECTION

ヴィアンヌがカカオを砕くところから作って店に並べるチョコレートは、どれもこれも美味しそう。「映画の料理作ってみたら」、真似するならこれです。まったく未経験のチョコレート作りというものがどれだけハードルが高いのか、さっぱり見当もつきません。でもいつものように見切り発車です。結果的には、ハードルどころか棒高跳び級の高さであることが例によって明らかになったのですが。

例によって見切り発車!チョコレート作ってみます!

チョコレートを作ります!と声高らかに宣言してみたものの、一体どこから何をすればいいのかが、まず分からない。ものすごく大雑把にいうと原料はカカオ豆、ということは知っていますが、カカオ豆が売られているところなど見たことがないし、もしあっても困ります。ここはまず図書館でチョコレート作りの本を何冊か借りてきました。

それによると、カカオ豆は収穫したあと発酵・乾燥させ(ここでチョコレート色になる)、砕いてカカオニブと呼ばれるものにした後、焙炒。さらに細かくすりつぶしてカカオマスの状態にし、ここにココアバターや砂糖などを加え、微細化して練り上げます。さらにここから加工される前提で作られるのが、クーベルチュールと呼ばれる製菓用のチョコレート。チョコレート専門店の中にはカカオ豆の焙炒から始めるところもありますが、ほとんどはこのクーベルチュールを使用しているようです。

ほう。じゃあまずクーベルチュールを買ってくればいいわけね、と製菓材料の店を覗いてみました。季節がら、ズラリと並ぶ手作りチョコレートの材料たち。クーベルチュールにも、フランス産、ベルギー産、イタリア産と製造国の違うもの、カカオの含有量の多いものと少ないもの、厚い板チョコ状のものと丸いボタン状のもの、ビター、スイート、ミルク……と、めまいがしそうなくらいたくさんの種類があります。

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使いやすいように粒状したクーブルチュール。
厚い板状のものは削って使います

店頭でぽかんと口をあけてしばらく眺めていましたが、買って帰らないわけにはいきません。何となく美味しそうな感じのするフランスのヴァローナ社、ベルギーのベルコラーデ社、その他数種のクーベルチュールを買い物かごに入れました。さらにシリコンでできたチョコレート型や、製菓用のスパチュラ、出来上がったチョコレートをのせるも紙カップも購入。

チョコレート専門店のショーケースには、大抵十数種のチョコレートが並んでいます。ヴィアンヌのショコラティエ・マヤでも、ナッツの入ったものからトリュフ、太陽の形のもの、「ヴィーナスの乳首」なんてものまで、たくさんの種類を作っています。私も中に詰めものをした一口サイズのボンボン・ショコラをいくつか作ってみることにしました。

ボンボン・ショコラの詰めものにはヌガーやプラリネ、マジパンなどいくつも種類がありますが、最も一般的なのはチョコレートと生クリームを合わせたガナッシュ。これにさらにお酒やナッツ、ドライフルーツなどを加えれば、何種類ものバリエーションができそうです。

というわけでまずガナッシュ。生クリーム50ccを鍋に入れて沸騰しない程度に温め、100gのクーベルチュールにかけて溶かします。これをヘラで混ぜてなめらかにし、常温にもどした無塩バター10gを加えて練ります。この時、あまり空気が入らないようにすると口当たりよく仕上がるらしい。

チョコレート専門店では、それぞれの材料に合わせてカカオ豆の種類や配合などを吟味してガナッシュを作るわけですが、私は売るほどたくさん作ろうとしているわけではありません。シンプルに、このガナッシュを基本に、もろもろ加えて変化をつけようと思います。用意したのは、ヴィアンヌを真似てチリペッパー、アーモンドやくるみなどのナッツ、ピスタチオを砕いたもの、コーヒーの粉、ラムに漬けたレーズン、ブランデーに漬けたマラスキーノ・チェリーなど。

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用意したナッツ類とレーズン

マラスキーノ・チェリーは、よくパフェにのっている種入りの生っぽいチェリーではなく、カクテルのマンハッタンに入っている赤く透明の砂糖漬けチェリー。とても外国っぽい不思議な味のするアレです。私はあのチェリーを食べると、必ずあのテイストというかフレイバーから地下鉄(それもひと昔前の丸ノ内線)の独特の匂いを思い出します。でも「ねえ、これ丸ノ内線の味がしない?」と言って賛同してもらえたことは一度もなく、「丸ノ内線なんて食べたことがないから分からない」と言われるばかり。世の中に1人くらい賛同してくれる人はいないものかとずっと思い続けているのですが……(いらっしゃったら、ぜひコメントをください!)。

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赤い色も似てます。マラスキーノ“丸ノ内線”チェリー

ガナッシュには生クリームが入っているので、冷えてもカチカチには固まりません。まわりをコーティングする必要があります。コーティング用チョコレートは、クーベルチュールを「テンパリング」して作るらしい。なんじゃそれ。本をよく読むと、クーベルチュールに含まれる脂肪分を均一に安定させるためには、まず温めて溶かし、冷やしてからもう一度温度を上げるこのテンパリング(温度調節)という作業が必須のようです。


クーベルチュールに温めた生クリーム加えます

テンパリングの温度は、ブラックチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートでそれぞれ違います。私が使ったブラックチョコレートの場合、クーベルチュールをボウルに入れ、最初は55度の湯せんにかけて溶かし、次に水をはったボウルにつけてヘラで混ぜながら27度まで下げ、もう一度お湯をはったボウルにつけて32度まで上げます。こうすることで、常温で固まり、口どけや光沢のよいチョコレートになるんだそうです。……誰がこれを発見したんでしょう。ただしこの温度は、本によって書いてあることが微妙に違うし、チョコレートのメーカーによっても変わるらしいので、テンパリングを本当にマスターするには相当な研究が必要だと思われます。

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コーティングにはおおまかに、型を使う方法と、ガナッシュをコーティング用チョコレートにくぐらせる方法があります。私はまず型方式から挑戦してみました。使ったのは、扱いが簡単そうに思えたシリコン製のもの。テンパリングしたチョコレートをこの型いっぱいに流し込み、型を台でトントンして空気を抜いてから、表面の余分なチョコレートをパレットでそぎ取ります。次に型を逆さにしてチョコレートをあけ、型の中に薄くチョコレートが残るようにします。もう一度表面の余分なチョコレートをそぎ取り、15~18度の室温でしっかり固めます。

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まず型いっぱいにチョコレートを注ぎ、逆さにしてこぼします

書くのは簡単ですが、これがなかなか難しい。型の表面のチョコレートをそぎ取るのも、軟らかいシリコン製だとなかなかうまくいきません。それに不慣れでまごまごしている間にチョコレートがどんどん固まってきて、型の中で均一になるはずが一方だけ厚く偏ってしまいます。うーん。何度かやってみるうちに少しはましになってきましたが、これもマスターするには時間がかかりそうです。

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型の中にまんべんなくのびればOK

チョコレートが固まったら、ガナッシュを入れます。ガナッシュは、砕いたピスタチオを混ぜたもの、チリやコーヒーを加えたもの、ラムレーズンを混ぜたもの、ブランデー漬け丸ノ内線チェリーをのせたものなど。ここでまた型をトントン、15~18度の室温で固めます。ガナッシュが固まったらテンパリングしたコーティング用チョコレートを型いっぱいに流し込み、固まらないうちにパレットで表面をきれいにして、また室温でひと晩おいて固めます。ひとつひとつの作業に、えらく時間がかかります。ここでせっかちにならずによーく固めないと、特にシリコンは軟らかいので、型から抜く時に崩れて失敗します(はい、私はしました)。

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左はピスタチオを加えたもの。
右上はマラスキーノ・チェリーを入れた“丸ノ内線味”

さらに問題が。同じ型で一度に数種類作ってうっかり型から抜くと、全部見た目が同じでどれに何が入っているのか分からなくなります。『フォレスト・ガンプ/一期一会』に「人生はチョコレートの箱のようなもの。何が入っているか開けてみるまで分からない」というセリフがありますが、この場合、箱を開けるどころか食べてみるまで何が入っているのか分かりません。自分で作ったのに。型の底にナッツなど何か目印になるものをまず入れておく、またはどこがどれかよーく確認して抜く、などの手段をとることをお勧めいたします。

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『フォレスト・ガンプ 一期一会』Blu-ray発売中
2,381円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

次に、固めたガナッシュをコーティング用チョコレートにくぐらせる方法にいってみます。まずはトリュフ。固まりかけたガナッシュを少しずつ取ってラップでくるみ、丸めます。これをさらに固めて形を整えてからテンパリングしたコーティング用チョコレートにどぼん。針金で自作した特製引き上げ器(?)で引き上げ、余分なチョコレートを切って、ココアパウダーの中に落とします。固まりかけたら転がして全体にココアパウダーがつくようにします。

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トリュフは手で丸めて。
左下は針金で自作した「引き上げ器」

四角にする場合は、ガナッシュを5ミリ程度の厚さにのばして固め、テンパリングしたコーティング用チョコレートをパレットで表面に均等に塗り、さらに固めます。これを適当な大きさに切り、下塗りをした方を上にしてコーティング用チョコレートにくぐらせ、余分なチョコレートを落としてクッキングシートに並べ、固めます。これはピスタチオなどを上に飾るときれいだし、何味か一目でわかります。

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薄くコーティングするのが難しく、ブサイクですが、
上にピスタチオをのせたりホワイトチョコレートで飾ったりすると、それらしく見えてきます

飾り付け用のペン型チョコレートや、チョコレートの表面に貼って使う転写シートなども売られているので(近所の100円ショップにもあった!)、これらを使うとぐっとお店で買ったものみたいに見えます。

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転写シートは、空気が入らないようにぴっちり貼ります

さて実食。ほう。ちょっとコーティングが固いような気がしますが、マラスキーノ・チェリーはジューシーでブランデーがきいて、しっかり丸ノ内線味もして美味しい。ラムレーズンも大人の味だし、ナッツ入りのものも悪くありません。まったく分からないところから作ったにしては、まあ合格点なのではないでしょうか。

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dmenu映画特製アソート、完成!

チョコレートに何を加えるかは、作る人の好み次第です。抹茶や柚子はすでに海外でもポピュラーになっているし、映画に出てくるチリペッパーだけでなく、ブラックペッパーや塩、わさびを入れたものもあります。新鮮ないちごをチョコレートでコートしても美味しい。以前ニューヨーク土産にもらったのは、なんとカリカリに揚げたベーコンをチョコレートでコートした、その名も「ピッグ・キャンディ」。もう何でもアリなのです。自分で作る楽しみは、とりあえず何にでも挑戦できることです(美味しいかどうかは別にして)。

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私もピッグ・キャンディに挑戦してみました。
うーん、ベーコン。しょっぱい。

と、ここで、有名ショコラティエのチョコレートをいただきました。美しい箱を開けて食べてみると……ほあああ~。コーティングが薄い。なめらか。口どけ最高。ガナッシュもプラリネも上品。まずまず美味しくできたと思った私のチョコレートとは比べものになりません。そりゃそうでしょうとは思うものの、あんなに時間をかけて苦労したのは何だったのか……。

チョコレートを作ってみたら、の結論。チョコレートは専門店で買うのが一番です。確かに「手作り」という言葉に魅力はありますが、個人で製菓器具や設備を整えて作るには限界があります。本当に美味しいチョコレートを食べたかったら、そして贈る相手に自分の愛情の深さを訴えるより美味しいものを食べて欲しかったら、私なら“ヴィアンヌのショコラティエ・マヤ”のような店で買います……。

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【ボンボン・ショコラ】
●コーティング用
 クーベルチュール(ビター、スイート、ミルクなどお好みで)
●ガナッシュ用
 クーベルチュール
 生クリーム
無塩バター
 ・アーモンド、ピスタチオ、くるみなどナッツ類
 ・レーズン&ラム
 ・マラスキーノ・チェリー&ブランデー
 ・コーヒーの粉
 ・塩、チリペッパー、ブラックペッパー
ベーコン
【映画っぽい気分を盛り上げる小道具】
 カカオ豆と石うす
 チョコレートを入れる可愛い箱
 ジョニー・デップのようなジプシーのギター弾き

この記事で紹介している作品

『ショコラ』
『フォレスト・ガンプ 一期一会』
『マイ・フェア・レディ』