大河ドラマ「真田丸」
「真田丸」に出演する真田信繁役の堺雅人(左)と真田信幸役の大泉洋

文=木俣冬

戦国時代の男たち

国民的番組・大河ドラマ「真田丸」がはじまって4週目。本屋さんに行くと目立つところに、わーっと「真田丸」関連書籍が並んでいて、世間の注目度の高さを感じる。

「真田丸」の主人公・真田信繁(幸村)は、大阪の陣で徳川家康を追いこむところまで攻めた武将として、居並ぶ戦国武将のなかでもひときわ愛されている。弱者が強者に立ち向かっていくヒロイズムに貫かれたテッパンの歴史譚を、ヒットメーカー三谷幸喜の脚本により、「半沢直樹」で好視聴率男となった堺雅人が主役をつとめるとあって、期待値が上がる。「真田丸」では、堺演じる真田信繁が、大阪の陣で華々しく活躍する前、九度山に幽閉されて地味に生きてきたところもじっくり描くようだ。1月31日(日)に放送された第4回の信繁はまだ十代で(堺がとても快活に演じている)、兄・信幸(大泉洋、彼もまた十代の少年を演じている)と共に、父・昌幸(草刈正雄)の言いつけに忠実に行動している。

この真田家を率いる父・昌幸が面白い。列強諸国に囲まれた小国の人間なりに、なんとか生き延びようと、風向きを見ながら、躊躇なく意思を変える。あっちにつくかと思えばこっちにつく。武田が滅びたら、織田につき、織田が滅びたら徳川に、そして上杉、ついには、兄・信幸を徳川派にして、弟・信繁を豊臣派にしてリスクを分散させる。

第4回の昌幸は、織田に認めてもらうために自分の価値をあげようと、上杉にも請われているフリをする。織田信忠(玉置玲央)の前でしれっと調子のいいことを言う昌幸。でも、徳川家康(内野聖陽)が昌幸の作戦を見破ろうとする。あたかも「クイズ$ミリオネア」の司会者みのもんたのように無言の圧力を発する家康。あくまでとぼける昌幸。手に汗握る展開だった。

大河ドラマ「真田丸」
内野聖陽演じる徳川家康(左)と草刈正雄演じる真田昌幸の手に汗握る駆け引き

本音と建前をうまく使って、相手の顔色を読みながら自分の得になるようにしむけていくのは、昌幸だけでなく、戦国に生きる人々(このドラマに出てる人々)がほとんどそう。男はつらいよ、だなあと、寅さんとはまた違ったつらさを、戦国の男たちに見た。

三谷幸喜の本音と建前

このサバイバル頭脳戦は戦国に限らず、現代にも通じるものがある。昨今のドラマは、弱小企業が巨大企業に技術で対抗していく「下町ロケット」や、一行員が巨大な組織の不正を暴いていく「半沢直樹」が人気で、じつは「真田丸」も、これらの現代ドラマの構造に近い。

だが、天下の三谷幸喜は、「下町ロケット」や「半沢直樹」を意識しているとされることは、不本意に思うだろう。なにせ以前、すでに「古畑任三郎」シリーズで、犯人と警部・古畑の頭脳戦を書き続けてきた作家なのだから。弱者の踏ん張り、狐と狸のポーカーフェイス合戦と、視聴者の好むモチーフを用いたうえに、まだまだとばかりに趣向を加えてくるのが、一流のエンターテイナー・三谷幸喜だ。男たちの緊張感と責任感あふれる戦いをじっくり描きながら、それと平行して、女たちのドラマも多く盛り込み、ほどよいゆるみをつくりだす。しっかりボディの赤ワインに、鴨肉のメインをいただいたら、デザートはふんわりメレンゲ入りのムースみたいな感じだろうか。

戦国時代の女たち

男がきりきり頭を働かせて作戦ばっかり立てているなか、女たちは実に伸びのびしたもの。どんなことがあってもどっしり構えている信繁の祖母・とり(草笛光子)、着物が大好きでおっとりした母・薫(高畑淳子)、馬にも乗れる機敏さをもちながら、夫一筋の姉・松(木村佳乃)、いざとなると男たちと戦う強さをもつ初恋相手・梅(黒木華)、そして、ちゃきちゃきした幼なじみ・きり(長澤まさみ)などが画面に花を咲かせる。もっとも、彼女らも彼女らなりに、日常生活のなかで駆け引きをしていて、第4回では、松の夫をかばうために、松と梅ときりがひと芝居うった。

大河ドラマ「真田丸」
ひと芝居をうつ、松(木村佳乃)、梅(黒木華)、きり(長澤まさみ)の3人(左から)

キーマンはきり。彼女はなかなか機転の利く娘のようで、その言動が楽しい。長澤まさみが演じると、つく嘘にもかわいげがあって、どこか憎めない。

こんなふうに、戦国企業戦士たちの物語として限定することなく、男と女、それぞれが、生きるために知恵を巡らせひと芝居をうちながら、乱世をどう生き延びていくのか、毎週、ハラハラしながら楽しめそうだ。

第5回では、決死の覚悟で頼った織田信長(吉田鋼太郎)が、本能寺の変であっけなく倒れてしまい、どうする真田家という展開。歴史の流れを知ってはいても、昌幸や信繁がどんなアイデアを出すのか楽しみでならない。