キャロル

ここ数年、同性婚やLGBTなど、性的少数者の話題が日本のお堅い場でも取り上げられるようになってきてますよね。もうそんな一部のキワモノの話は聞きたくねえよ、と思う古いジジイ、じゃなかった、クラシックな殿方もいるかもしれませんが、世界の映画市場でもますますこのテーマは盛り上がっちゃってるの。かく言うアタシもゲイの女装おじさんですから、話題作目白押しなLGBT映画特集を数回にわたってお送りしようと思います。

まずはLGBTのLから。昔、LはラブのL!と歌うデブ専アニメもありましたが、性的少数者の世界でのLは、女性同性愛者・レズビアンのL!なんです。(オネエさんの豆知識:マジメな場で「レズ」って略すと不快に思う人もいるわよ。)

欧米のレズビアンたちの間では、1952年に出版されたとある小説が女性同士の愛をうたった古典として読み継がれていました。40年近くが経った1990年になって、あのアラン・ドロン主演の名画『太陽がいっぱい』原作小説でも有名な女流作家パトリシア・ハイスミスが「実体験を元に自分が書いた作品」だと公言。それが今回ご紹介する映画『キャロル』の原作なんです。

ちなみに1960年公開の『太陽がいっぱい』もカンのいい皆さんは同性愛的要素が含まれた作品だと指摘していましたが、40年後にマット・デイモン主演でリメイクされた『リプリー』ではそこをハッキリと伝える演出に。パトリシア女史がずっと言えなかった真実を、亡くなる数年前に公表したように、全ては昔から変わらずにある想いを、言えるような時代になった、ということなのね。できれば何十年モノの熟成されたワインを、ついに開封し味わえるような気持ちで観ていただきたい作品、てな具合よ。

キャロル

舞台は1952年のニューヨーク。高級百貨店で売り子をする女性テレーズが、そこに現れた優雅な婦人・キャロルに心を奪われることから、この美しい女性同士のメロドラマは始まります。今とは比較にならないくらい、女性に自由がなかった時代。妻を飾り物としか見ない夫や、同性愛を反社会的行為だと捉える法律家たちが立ちふさがる中、彼女たちは本当の自分をどこまで貫くことができるのか……。

物語自体は古典だけにシンプルかつ王道ですが、徹底的に作りこまれた50年代の気品ある世界が、退屈することのない美術品鑑賞のような気分にさせてくれます。アカデミー賞を3度受賞したサンディ・パウエルが手がけ、フェラガモも衣装協力した、50年代NYファッションに見惚れ、その時代を生きた女性たちの「視線」を意識したカメラワークにも引き込まれます。

キャロル

そしてなんといっても主演のケイト・ブランシェットの圧倒的な説得力。アカデミー主演女優賞に輝いた大女優、というラベルを抜きにしても「本物の50年代レズビアン(タチ)」になっていました。いえ、アタシもさすがに50年代のレズビアンを見たほどのババアじゃないけどね…。上流家庭の妻を「演じて」いた彼女が徐々に自分らしい表情になっていく繊細な変化もすばらしい。その離れがたい魅力に吸い込まれていくテレーズ役ルーニー・マーラや、キャロルの元カノ役、サラ・ポールソンも含め、レズビアン・トリオの含みたっぷりな演技も生々しくてたまりません。

キャロル

レズビアンには、女性蔑視と同性愛蔑視の二重の差別がある、という言葉は、この作品でもたびたび感じさせられます。それでも、テレーズの視線そのままのカメラワーク、そしてそれを待ち受けるキャロルの表情に、求めあう想いと、それを選ぶ決心の普遍的な美しさに、すがすがしい気持ちで観終ることができました。「覚悟」したキャロルの、菩薩のような強く美しい微笑みは、映画史に刻むべき御尊顔。ゲイおじさんのアタシですら、全てを投げ打って付いていきたくなりそうな、惚れ惚れする逞しさでしたわ……はうん。

『キャロル』全国大ヒット公開中!
配給:ファントム・フィルム
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