タランティーノが人生を変えた7人のラッキー・スター

独自の世界観のみならず、俳優&女優を輝かせることにかけても天下一品のクエンティン・タランティーノ。ジョン・トラヴォルタ、ロバート・フォスター、クリストフ・ヴァルツ……タランティーノのおかげで返り咲いた&ブレイクしたスターは数知れず。今回、ジェニファー・ジェイソン・リーが初のオスカーにノミネートされた最新作『ヘイトフル・エイト』の公開を前に、彼との出会いで人生が変わった幸運なスターたちを紹介します!

ジェニファー・ジェイソン・リー『ヘイトフル・エイト』(2015)

ジェニファー・ジェイソン・リー『ヘイトフル・エイト』
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タランティーノ作品初参加となった『ヘイトフル・エイト』で第88回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたジェニファー・ジェイソン・リー。 “ハングマン”の異名を取る賞金稼ぎルース(カート・ラッセル)の“獲物”となった大胆不敵な犯罪者デイジー・ドメルグが今回の役どころだ。1万ドルという高額の賞金を懸けられており、左目には痛々しい青あざが。よせばいいのに憎まれ口をたたいては何度もルースに殴られて血を流し、凝視できない顔になっていく。しかしその一方で、囚われの身となり牙を抜かれたトラ状態になったドメルグがいたぶられればいたぶられるほど、彼女がいつか反撃に出るのではないかとヒヤヒヤ。主要キャラの中で紅一点であるにもかかわらず、ここまで女扱いされないキャラクターも珍しい。『ルームメイト』(1992)、『黙秘』(1995)など仏頂面が印象的な個性派女優リーが、そんな汚れ役を面目躍如といった感で生き生きと演じ、ようやくオスカー受賞のチャンスを手にした。

ティム・ロス『レザボア・ドッグス』(1991)ほか

ティム・ロス『レザボア・ドッグス』
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ハーヴェイ・カイテル、マイケル・マドセン、スティーヴ・ブシェミら個性派が、宝石強盗を企む男たちを演じたバイオレンス『レザボア・ドッグス』(1991)において、最もおいしい役どころを演じてブレイクしたイギリス人俳優ティム・ロス。『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男』(1995)ではアカデミー賞助演男優賞候補となり、イタリアの巨匠ジュゼッペ・トルナトーレの『海の上のピアニスト』(1998)などの名作からティム・バートン監督作『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001)といったハリウッド大作まで、幅広い作品でめきめき頭角を現した。タランティーノとは、恋人と組んでちんけな強盗を企むチャラ男にふんした『パルプ・フィクション』(1994)、クネクネとした体つきが印象的なホテルのボーイを演じた『フォー・ルームス』(1995)など『レザボア~』以降も度々組んでおり、最新作『ヘイトフル・エイト』にも出演。「絞首刑執行人」を名乗る冷静沈着な英国紳士にふんし、カート・ラッセルやサミュエル・L・ジャクソンらアクの強い面々に劣らぬ存在感を発揮している。

ジョン・トラヴォルタ『パルプ・フィクション』(1994)

ジョン・トラヴォルタ『パルプ・フィクション』
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アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)や『グリース』(1978)などのヒット作でダンスの名手として人気を博したものの、その後鳴かず飛ばずの日々が続いたジョン・トラヴォルタが、華麗なる復活を遂げたのが『パルプ・フィクション』(1994)。アムステルダム帰りのギャング、ビンセント・ベガは彼のキャリアの中でもとりわけ魅力的な役どころの一つだ。ある日、ボスから留守の間、妻ミア(ユマ・サーマン)を食事に連れて行くように言われ、怒濤の一夜を過ごすハメになる。1950年代風のレストランで行われたツイスト・コンテストでユマ・サーマンを相手に息ピッタリのセクシー&クールなダンスを見せたかと思えば、魅惑的なミアへの欲望とボスに対する忠義のはざまで葛藤し、強力なヘロインを吸い込んで死にかけたミアを見てパニックに陥る。クールなはずのギャングが不測の事態に取り乱し、“むき出し”の状態になるさまを人間味たっぷりに演じ、2度目のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。その後、『ゲット・ショーティ』(1995)、その続編『Be Cool/ビー・クール』(2005)、『フェノミナン』(1996)、『フェイス/オフ』(1997)などヒット作&話題作が続き、アダム・シャンクマン監督のミュージカル『ヘアスプレー』(2007)では女装でダンス&歌を披露した。

また、ミア役のユマ・サーマンも本作でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされており、黒髪のボブ&白シャツに黒パンツというシンプルながら洗練されたファッションも注目を浴びた。『キル・ビル』(2003)、『キル・ビル Vol.2』(2004)では黄色いジャージ&オニツカタイガーのスニーカーという出で立ちで、復讐に燃えるヒロインにふんし、日本刀を手に大掛かりなアクションを披露。千葉真一との共演も話題に。ビンセントの相棒ジュールスを演じたサミュエル・L・ジャクソンもアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、この後『ダイ・ハード3』(1995)、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)、『アイアンマン』(2008)などヒット作に恵まれ、驚くほどの出演本数を誇るスターに。『ジャッキー・ブラウン』(1997)、『キル・ビル Vol.2』、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)、『ヘイトフル・エイト』などタランティーノ作品の常連俳優となった。

ロバート・フォスター『ジャッキー・ブラウン』(1997)

ロバート・フォスター『ジャッキー・ブラウン』
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『スタントマン殺人事件』(1977)、『SFクローン人間の復讐』(1979)、『アリゲーター』(1980)といったB級映画で活躍し、出演作は少なくないもののヒット作に恵まれなかったロバート・フォスターに白羽の矢を立てたのがタランティーノ。ロバートをリスペクトしていたタランティーノは『ジャッキー・ブラウン』でパム・グリア演じる運び屋の客室乗務員に恋する保釈屋役に彼を起用し、第70回アカデミー賞で助演男優賞ノミネートの栄光をもたらした。普段は交わることのないであろう男女が出会い、理屈を超えて惹かれ合っていく“大人のプラトニックラブ”は、いぶし銀のロバートだからこそ画になるというもの。本作に出演後、デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』(2001)、第84回アカデミー賞作品賞にノミネートされた『ファミリー・ツリー』(2011)などの名作、話題作に出演しているほか、「HEROES/ヒーローズ(シーズン3)」(2008~2009)、「ブレイキング・バッド(シーズン5)」(2012~2013)などテレビドラマでもちょこちょこ活躍。ちなみに、ヒロインを演じたパム・グリアは『コフィー』(1973)、『フォクシー・ブラウン』(1974・日本未公開)など1970年代に流行ったブラックスプロイテーション映画(※郊外のアフリカ系アメリカ人をターゲットに作られた娯楽映画)で活躍し、タランティーノが10代からあこがれていた女優で、彼女を起用するために原作の設定を白人から黒人に変更して脚本を執筆したという。

デヴィッド・キャラダイン『キル・ビル』(2003)&『キル・ビル2』(2004)

デヴィッド・キャラダイン『キル・ビル』
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父は『怒りの葡萄』(1940)、『リバティ・バランスを射った男』(1962)などジョン・フォード監督作品で知られるジョン・キャラダイン。異母兄弟のキース、ロバートも俳優という芸能一家に生まれたデヴィッドは、父と共演したマーティン・スコセッシ監督の『明日に処刑を…』(1972)、テレビシリーズ「燃えよ!カンフー」(1972~1975)で注目を浴びて以来、中国武術の技を磨きアクション映画を中心に活躍。出演した作品数は多いものの、映画賞とは縁遠かったデヴィッドに光をもたらしたのがタランティーノと組んだ『キル・ビル』、『キル・ビル Vol.2』。ユマ・サーマン演じるヒロイン、ブライドが復讐を誓った暗殺者集団の親玉で、タイトルロールでもあるビルにふんした。ビルは、自分の元を離れたかつての恋人ブライドの結婚式に刺客を送り、その場にいた人々を皆殺しにする恐ろしい男。オーレン・イシイ(ルーシー・リュー)、エル・ドライバー(ダリル・ハンナ)、バド(マイケル・マドセン)らすご腕の暗殺者たちが仕えたボスとしての貫禄はもちろん、クライマックスではなぜブライドがそんな恐ろしい男に惹かれたのか、納得させるような大人の男としての色香、余裕を感じさせる円熟した名演を見せ、『~Vol.2』で第62回ゴールデン・グローブ賞助演男優賞にノミネートされた。ちなみに父と同様、4度以上結婚しており恋多き人生だった模様。2009年に72歳で死去。

ゾーイ・ベル『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)ほか

ゾーイ・ベル『デス・プルーフ in グラインドハウス』
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『キル・ビル』『キル・ビル Vol.2』でユマ・サーマンのスタントを務め、タランティーノに見初められたスタントウーマンのゾーイは、『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)で主演女優の一人に抜擢され、タランティーノ作品の“タフでクールなミューズ”としてたちまち脚光を浴びた。主演は、愛車“デス・プルーフ”で若い女性たちを血祭りに上げるすご腕のスタントマンで殺人鬼のマイクにふんしたカート・ラッセルだが、映画を観た後最も記憶に残るのは、マイクの獲物の一人を演じたゾーイと言っても過言ではないはず。マイクが狙った女性グループのうち、運悪くゾーイが腕利きのスタントウーマンだったことから、マイクは思わぬ反撃をくらうことになる。クライマックスで、1970年型ダッジ・チャレンジャーのボンネットに乗ったゾーイが、マイクから追撃され、反撃に出るカーチェイスは鳥肌が立つほどの迫力。揚げ句の果てにマイクをフルボッコに(もちろんグーで)する勇姿にKOされたファンは少なくないだろう。よほどタランティーノに気に入られたようで、『ジャンゴ 繋がれざる者』に続いて『ヘイトフル・エイト』にも出番は少ないながら印象的な役で出演している。

クリストフ・ヴァルツ『イングロリアス・バスターズ』(2009)&『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)

クリストフ・ヴァルツ『イングロリアス・バスターズ』
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日本では名前はおろか顔も認知されていなかったであろうヴァルツにとって、タランティーノはまさに救世主だ。彼の作品で、2度もアカデミー賞を受賞してしまったのだから! 「ブラッド・ピット演じる中尉率いる極秘部隊がナチスをぶっ殺す」という奇想天外なストーリーが展開する『イングロリアス・バスターズ』(2009)で、ヴァルツが演じたのはユダヤ人のヒロインの家族を皆殺しにする残忍なナチスの将校、ランダ大佐。ユダヤ人の家族を匿う農場主を巧みに尋問する戦慄の冒頭から、ブラッド・ピット、メラニー・ロランら華々しい顔ぶれそっちのけで、ヴァルツにくぎづけになる。この強烈な悪役で、マット・デイモンやクリストファー・プラマーら強豪を押しのけ、あっさり助演男優賞を獲得したかと思ったら、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)では一転してヒーロー的な役柄に。農場主から妻を取り戻そうとする黒人ガンマン・ジャンゴを手助けする謎の賞金稼ぎドクター・シュルツを好演し、ジャンゴ役のジェイミー・フォックス、白人至上主義の農場主という憎々しい悪役でイメチェンを図ったレオナルド・ディカプリオらを食う名演を見せ、2度目の助演男優賞を受賞。近年ではジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレットらと見事なアンサンブルを披露したロマン・ポランスキー監督のコメディー『おとなのけんか』(2011)やティム・バートン監督による実話ベースのドラマ『ビッグ・アイズ』(2014)などに出演。『007 スペクター』(2015)ではジェームズ・ボンドの敵フランツ・オーベルハウザー役に抜擢され、話題になった。

(編集部・石井百合子)