「おそ松さん」に「老人ホームズ」!? 加齢に直面する有名キャラクターたち

コラム

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『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
シャーロック・ホームズを演じるイアン・マッケラン
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
©Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS

文=皆川ちか

シャーロック・ホームズを、ご存じだろうか? 鹿撃ち帽にパイプがトレードマークの、名探偵の代名詞にして、世界でいちばん有名な探偵である。有名人の常として、これまでに様々な形で映画化・アニメ化・ドラマ化されてきた。

クセモノ俳優ロバート・ダウニー・Jr.主演の映画『シャーロック・ホームズ』では、エキセントリックなホームズに。美形俳優ベネディクト・カンバーバッチによる現代ロンドンを舞台にした英テレビドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」では、イケメンなホームズに。米テレビドラマ「エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY」では、相棒ワトスンが女性に。アニメ界のレジェンド、宮崎駿が監督したテレビアニメ「名探偵ホームズ」に至っては登場人物が全員犬になったほか、ゲームをはじめメディアミックス展開を行う「探偵オペラ ミルキィホームズ」では美少女に!

『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
少年ロジャーを助手に未解決事件の真相に迫る
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
©Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS

人から犬から美少女まで古今東西姿を変え、変幻自在に描かれてきたホームズ。そして今年、究極ともいえるホームズが登場する。タイトルは『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』。なんと、御年93歳となった老人版ホームズである。このホームズ像は衝撃的だ。特にシャーロッキアン(熱狂的なシャーロック・ホームズファン)にとっては……。

探偵業を引退し、田舎でひっそりと隠遁生活を送るホームズ。かつての相棒にして親友ワトスンをはじめ、親しい人々はみんな彼のもとを去ってしまった。老いたホームズは肉体的な衰え以上に、かつての天才的な記憶力の低下に恐れおののき、頭の“老い“に効果的と言われるロイヤルゼリーやアジアの香辛料“山椒”に執着。本場の山椒を求めて戦後間もない日本にまでやって来る。

そんな、青汁的な健康維持に血道を上げるホームズなんて……正直、見たくない。そう思うファンも多いかもしれない。

本作を鑑賞する前に、ちょうど似たような懸念を抱いた作品があった。それは、現在第2クールが大好評放送中のテレビアニメ「おそ松さん」である。基になったのはご存知、ギャグ漫画界のワン&オンリー作家、赤塚不二夫の代表作「おそ松くん」だ。松野家の六つ子が大人になった世界、それもニートになっている姿を描く内容と聞いて……不安になったのだった。原作の、あのカオス的な祝祭感と魅力あふれる登場人物たちが、新たな製作者陣によって“改悪”され、残念な代物に堕してしまっていたら、どうしよう……と。

しかし、その心配は杞憂だった。六つ子をはじめ、イヤミにチビ太、ハタ坊やデカパン、ダヨーンのおじさんにトト子ちゃんといったおなじみのキャラクター陣が成長、あるいは変化した姿には、原作マンガにおける諸要素がそのままに違和感なく、かつ現代的に発展していた。また、深夜枠ならではこその実験的な試みも多い。六つ子がリアル頭身のイケメン“F6”に変身して女性ファン獲得を目論んだり、劇画タッチな作風を取り入れたり、アニメ表現ぎりぎりの下ネタやブラックジョークも満載だ。パロディがきつすぎたのかDVD未収録になったエピソードもある(それも初回である第1話が!)。

この「おそ松さん」、視聴者からは“絶賛”と“やりすぎ”の、文字どおり賛否両論の声が挙がっているが、そうした反響も含めて、実に赤塚不二夫ワールドを鮮やかに蘇らせていると思う。なぜならば、「おそ松さん」に込められた、露悪すれすれの笑い。まさにそれは「遊ぶときは、徹底的に遊ぶこと!!」をモットーとした赤塚不二夫のアナーキズムを実践しているのだから。

「おそ松さん」と同様に、『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』でも、オリジナル版のホームズを踏まえた上での、新たなホームズ像を構築している。感情を遠ざけ、理性をなによりも重んじ、女嫌いゆえに独身を貫き、結果、ひとりぼっちで晩年を迎えている本作のホームズ。自身の余命を意識しつつ、彼は過去を回想する。

『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
真田広之が需要な役どころで出演
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
©Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS

アーサー・コナン・ドイルが生み出した傲岸不遜、自信満々、冷静沈着なホームズは、はたして年を取ってもそのスタイルを保ち続けるのか。保ち続けられるのか? そんな問いかけも含まれていて、ミステリー映画であると同時に、老いについての考察映画ともなっている。原作の世界観とキャラクター造形がゆるぎないからこそ、オマージュは成り立つ。そして、オマージュにとって重要なことは、作品に込められたテーマを的確に汲むことと、原作へのリスペクトだ。

引退して独居老人となった元名探偵と、実家暮らしの六つ子ニート。一見、共通点のなさそうな2作品だが、どちらとも名キャラクターたちのその後の人生が、世界が、原作者への尊敬をもって展開されている。

最後にもうひとつ。若く輝いていた頃の過去にこだわるのではなく、年をとっても、または冴えなくとも、今現在を楽しみたい――そんな前向きなまなざしもまた、ホームズと六つ子たちの共通点である。

『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
3月 18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
©Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS
配給:ギャガ

この記事で紹介している作品

『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
『SHERLOCK シャーロック 忌まわしき花嫁』
『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』
『劇場版 探偵オペラ ミルキィホームズ 逆襲のミルキィホームズ』

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)