『エヴェレスト 神々の山嶺』阿部寛インタビュー

インタビュー

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落下して宙吊り……過酷な撮影に感謝

『エヴェレスト 神々の山嶺』阿部寛

第11回柴田錬三郎賞を受賞した夢枕獏のベストセラー小説を、「愛を乞うひと」の平山秀幸監督が映画化。映画『エヴェレスト 神々の山嶺』で、エヴェレストに魅了された孤高の天才クライマー。羽生を演じた阿部寛が、ネパールでの撮影の苦労、羽生というキャラクターに対する思い、演技の情熱を語った。

映画『エヴェレスト 神々の山嶺』は3月12日より全国公開

役者冥利に尽きる羽生という役柄

Q:出演のオファーがあった時どう思われましたか?

即座にやりたいと思いました。演技的にも追い込まれること確実な環境(現地ロケ)を用意してもらって、全員で一丸となって過酷な撮影に挑み、その中で俳優として仕事を全うできる。こんなチャンスはないですから。オファーしてもらえただけで役者冥利に尽きますね。

Q:演じられた羽生という人物は強烈なキャラクターでしたね。

この役を僕にやらせていただけるというのも、とてもうれしいことでした。常識の通じない突き抜けたキャラクターですから。想像するだけではなかなか理解できない人物です。絶対無理な話ですけれど、8,000メートルぐらいのところで山の壁にぶら下がったまま何泊かでもしない限り、羽生の精神は理解できない。いわば、神と語らう瞬間に立ち会うような人ですから。

Q:実際にネパールまでロケに行ったからこそ、感じられたものもあったのでは?

自分がイメージしていた羽生はとても屈強な男だったので、岩壁もガスンガスンとすごい勢いで登っていくようなイメージがあったんです。ところが、そういう風に登りたくても現場の岩場は手さえ引っ掛からない。ピッケルも刺さらない(笑)。映画の中ではゴツゴツしていて手が引っかかりやすいように見えるかもしれないですけど、本当はかなりツルツル。雪もあるし、強風にもあおられるから、なかなかうまくいかない。テストでやった時はどうやって登ったらいいんだろうって。なんでこんなことやっているんだろうって思ってしまいました(笑)。

『エヴェレスト 神々の山嶺』阿部寛

ネパールロケで感じた山の現実

Q:本物の山の厳しさに触れたんですね。

山は簡単には登らせてくれないんです。自分の思うようにいかないという、ある種のストレスを感じながらの撮影でしたね。でも、それが山に挑むということ。羽生が思うようにいかないことだらけの中で極限に挑むのと同じように、これもリアルだなと思いました。たとえばベースキャンプのシーンも実際にその場にいるわけですから、リアルなんです。日本のスタジオで撮影していたら「ハァハァ」とか息を荒くしたりして、演技的に余計なものをプラスしなければならない。でも、その場にいるのでシンプルに演技をすればいい。

Q:そのリアリティを体現するためにトレーニングはされたんですか?

実際に山に行って垂直な崖を20メートルぐらい登るというのを何度かやりました。都内ではボルダリングに通って、身体のバランスの取り方を訓練しましたし、低酸素室では6,000メートルまでやっていました。

Q:実際の現場は訓練とは全く違っていた?

5,000メートルの高さでヒマラヤの岩に張り付いて撮影した時は思っていたイメージの登りができなくて、くじけそうになった。トレーニングの時はあんな岩じゃなかったですから。腕の力だけで登れると思っていたところもあったんですが、実際に登ると腕じゃなくて、バランスが大事。全部の重さを1ミリの剥がれそうな岩皮にピッケルの先を引っ掛けて登るし、ずれるから信用できないんですよ。すごい緊張感でした。テストで、試しに2メートルぐらい落下して宙吊りになって下さいと言われたんですが、高さ20メートルのところですから怖いんですよ。落ちてみたらドスンとすごい衝撃がロープにかかって。でも、それを体験したことで程度がわかりホッとして、やっと思い切って登れるようになりました。

『エヴェレスト 神々の山嶺』阿部寛

真似のできないすさまじい生きざま

Q:阿部さんにとってやりがいを感じられる役だったようですね。

やりがいがありましたね。3か月という時間をかけて撮影するという映画に出会えたこと、羽生という役に出会えたことが本当に幸せでしたね。いくら演じても足りないくらいの役柄でしたから。一番大切にしたのは、羽生という男の情熱。それから彼の山に対しての真っ直ぐな気持ち。そして研ぎ澄まされた精神。そこは大事にしたいと思っていました。

Q:阿部さんが演じているというよりも、羽生そのものが生きているような感じでした。

余計なことを考えなくても良かったのかなと、自分なりには反省点もあるんですけど、羽生という人物に近づけていたとしたらうれしいですね。若い時はこういう役をやりたいと思っていてもなかなかオファーされませんでしたから、自分のイメージにはないような役を演じさせてもらえるのがうれしいんです。僕とは全く違う役をもらえると燃えるんですよ(笑)。自分の幅を広げるためにも僕も本気になれる。失敗してもいいと思えるくらいに。

Q:その生きざまに共感はできましたか?

簡単に「共感する」とは言えないですね。難しいです。山のこと以外すべて捨ててしまっている。山に対して、まるで鬼のように挑んでいる人間ですから。羽生にとってはそれがすべてであり、人生と向き合うこと。そういう生き方なんですよ。自分の夢と情熱しかない。このシンプルな考え方はとても真似できない。すごい人だと思います。

取材・文: 永野寿彦 写真:奥山智明

記事制作 : シネマトゥデイ(外部サイト)