右肩下がりの視聴率と人種問題――アカデミー賞が抱える二つの大問題

コラム

  • twitter
  • facebook
  • はてなブログ
  • google+
  • LINEで送る

文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨

academy0302
クリス・ロックとガールスカウトによる会場でのクッキー募金の一幕
Aaron Poole / ©A.M.P.A.S.

米人気タレントのマリオ・ロペス曰く「クリス・ロックは人種ジョークで頑張ったが、少しだけやり過ぎた感じ。でも状況的に、過去のオスカー司会者の誰よりも大きなプレッシャーがかかっていただろう」。

2月28日(日)に放送された第88回アカデミー賞授賞式の全米テレビ視聴率は、過去8年で最低だった。調査会社ニールセンによれば、今回の平均視聴者数は3440万人で、昨年から290万人減。2008年の3200万人に次ぐ低い数字となった。

例年通り、翌日の米4大ネットワーク局はほぼ1日中、同授賞式の話題で持ちきり。黒人コメディアンのクリス・ロックが司会を務めた今回の内容はまさに賛否両論を呼んだ。だが、あえてそこから平均的な意見を導き出そうとするならば、冒頭のロペスの言葉がふさわしいのではないか。

「オスカーは真っ白」の重圧

毎年、大物タレントたちが同授賞式の司会を依頼されるが、断るケースが多いという。悪い結果が出た時のダメージが大きいからだ。今年、2度目のオスカー・ホストとなったロックの不幸は、オファーを承諾した後に”状況”が厳しくなったことだ。

1月14日に同賞のノミネーションが発表され、演技部門(主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞)の候補者計20人すべてを2年連続で白人が占めたことが、激しい批判を浴びた。ウィル・スミス、スパイク・リー監督ら黒人映画関係者が授賞式欠席を表明し、ボイコットを呼びかけた。ソーシャルメディアでは「オスカーは真っ白(#OscarSoWhite)」というハッシュタグがトレンドとなり、反発の高まりは連日米メディアを騒がせ続けた。

このことが視聴率低下の要因かどうかはわからない。黒人の視聴者数は2%しか落ちていない(ニールセン調べ)。ストリーミング視聴が増えた影響もあるだろう。しかし、やはり演技部門の候補者がすべて白人だった昨年もその前年から大きく数字が落ち込んだことなどを考えれば、無関係とは言えない。いずれにしろ、アカデミー賞は人種問題と右肩下がりの視聴率、大きな二つの問題を抱えているのだ。

賛否両論も司会者には同情的

そのどちらにおいても、司会のロックに多大な期待がかかった。ロックが初めて同ホストを務めた2005年は、平均視聴者数4210万人と非常に高い数字を記録した。しかも彼は、もともと恐れを知らない人種ジョークを得意とし、重いムードを笑いで和ませる力を持つ。だが、それが空回りした時のリスクも大きい。諸刃の剣のような司会者だ。

今年度の人気作品をつないだオープニング映像の後に、ロックはいきなり「少なくとも15人、黒人がいましたけど」。続いて、「もしオスカーの司会もノミネート制だったら、僕はこの仕事をもらえなかった」。これらは大いにウケて、上々の滑り出し。「僕ら黒人も同じチャンスを得たいんだ」と真面目な訴えもしっかり交えてトークを展開した。

その後もロックは、ノミネート作品のパロディ映像などを含め、ほぼ人種ジョーク一辺倒で押した。しかし、全てがうまくはいかず、”すべった”ジョークも「やり過ぎ」と批判されたものもあった。それでも、総じてロックを責める声は多くない。かつてない重圧のなか、彼は踏ん張ったと言えるのだろう。

白人高齢者優勢の投票システムを改革、勝負は来年

人種問題に触れた受賞スピーチは少なかったが(受賞者の多くが白人だったせいもある)、2年連続で監督賞に輝いたメキシコ人フィルムメイカー、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(『レヴェナント 蘇りし者』)は、「我々自身をすべての偏見から解き放ち、皮膚の色が髪の長さ同様に重要でないと確認する素晴らしい機会だ」と力強く語った。

academy0302_2
ノミネート5度目にして初主演男優賞受賞のディカプリオ。
2年連続監督賞受賞のイニャリトゥは余裕のスピーチ
Phil McCarten / ©A.M.P.A.S.

また、同賞を主催する映画芸術科学アカデミーのシェリル・ブーン・アイザックス会長は「我々の観客はグローバルで多様性に富んでいます。我々の業界もそうであるべきです」と改革を継続していく決意をあらためて表明した。アイザックス氏はノミネーション発表の約1週間後、アカデミー賞の投票権を持つ会員の構成について、2020年までに黒人や女性といった少数派の人数を2倍にするなどの改革案を発表していた。

academy0302_04
映画芸術科学アカデミー会長シェリル・ブーン・アイザックスとレディー・ガガ
Phil McCarten / ©A.M.P.A.S..

「ロサンゼルス・タイムズ」紙による2012年の調査によると、アカデミー会員約6000人(現在は約7000人)の94%が白人で77%が男性、そして平均年齢は62歳だという。この会員構成に大きな変化がないまま長い年月が過ぎ、「興行的成功などが反映されない」「時代遅れの作品選考」などと同賞への批判は日増しに高まっていた。こういったことも近年の視聴率低下につながっているのかもしれない。

2020年までに少数派の人数を2倍にすることで非白人は会員全体の14%に、女性は48%になるという。また、これまで生涯保障されていた投票権に期限を設け、業界での活動実績がなければ投票権を失効させるなど、投票者の高齢化と固定化を防ぐ新制度も導入されることが決まった。これらの試みが始まるのは、来年度の投票から。つまり2017年の第89回アカデミー賞は、ノミネーション発表の段階から間違いなく大きな注目を浴びることになる。二つの大問題を解決するための正念場は、来年の授賞式なのだ。

 

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

関連映画