経済効果2300億円超! アカデミー賞授賞式セキュリティ強化の背景

コラム

  • twitter
  • facebook
  • はてなブログ
  • google+
  • LINEで送る

文=ロサンゼルス在住ライター 石橋朋子

academy0303_07
艶やかすぎるジェニファー・ローレンスとシャーリーズ・セロン
Matt Petit / ©A.M.P.A.S.

ハリウッドスターと世界中の映画関係者らが一堂に会するアカデミー賞授賞式。伝統を持つ格式の高いイベントであると同時に、ロサンゼルス郡に毎年2億ドル(約2300億円)を超える経済効果をもたらす一大商業イベントでもある。我々は、スターのドレスやジュエリー、会場の美術や晩餐会の食事と豪華さに目を奪われるばかりで、映画の中の物語の続きのように現実味を帯びない光景であるが、これらひとつひとつを集めると、莫大なお金が動いていることにあらためて驚かされる。

そもそもアカデミー賞授賞式と晩餐会その他の公式イベント自体にかかる費用は260万ドル(約2億9900万円)と言われる。公式以外の関連パーティの総額が600万ドル(約6億9000万円)。ロンドンのビジネス紙「City A.M」によると、授賞式当日に会場前に敷かれるレッドカーペットの費用だけで2万5000ドルだそうだ。もちろん毎年新しいカーペットを敷き詰める。

academy0303_03
LAではカーペットを敷く業者もハリウッドを形成する人の一人だ

昨年、そのレッドカーペットの上を歩く女優たちが身につけるジュエリーの総額は、750万ドル(約8億6250万円)だった。彼らが利用するリムジンの費用は200万ドル(2億3000万円)というから、なんともハリウッドらしい金の使い方である。

academy0303_09
レッドカーペットをGIVENCHYのドレスで歩くルーニー・マーラ
Richard Harbaugh / ©A.M.P.A.S.

さて、そんなアカデミー賞授賞式。当然ながら町を上げての協力体制が敷かれるが、近年はその厳重なセキュリティにも拍車がかかる。会場周辺の警官の数は昨年同様、約1000人。数年前の2倍以上の数である。今年も制服警官や爆弾探査の警察犬、周辺のビルの屋上などに身を隠すスナイパーや、観客のフリをして客席に座る覆面警官などが配置されていた。

academy0303_05
爆弾探査犬も出動

マスコミ関係者はレッドカーペットのエリアに入るために金属探知機のブースを通り、所持品検査を受けなければならないが、昨年からは、ノミニーをはじめとする授賞式招待客も同様のチェックを受けなければならなくなった。ちなみに招待客の金属探知機は車を降りた後、レッドカーペットに入る前に設置されたテントの中に隠されており、外からその様子を見ることはできない。また、セレブを乗せているリムジンも、乗客をレッドカーペットで降ろした後、待機所である駐車場に着いたら、車のエンジンを止める前にチェックを受けなければならない。

そんな厳戒体制を可視化したかのように、当日レッドカーペット上で取材をすることができるメディアの数は今年、激減した。これまでは授賞式の一週間前から当日の朝11時まで自由に取材することが許される取材許可証があった。しかし昨年その権限は当日の取材では無効となり、今年はとうとうパス自体の発行が中止されてしまったのだ。数年前まで約2000人が受け取っていた許可証がなくなったことにより、一週間前からレッドカーペットのエリアに入れるのは、当日、中継をする通信社や各国の放送権を持つテレビ局、そして各国のネットワーク系のテレビ局のみとなってしまった。結果、レッドカーペットはかつてないほど閑散としていた。

academy0303_05
記念撮影をするカナダのテレビ局のレポーターたち

許可証だけでなく、10年ほど前までは受賞者にわたすオスカー像のパレードや、受賞者の名前が書かれた封筒を鍵のかかったアタッシュケースに入れて運び込む係員の撮影会、晩餐会の食事を披露するイベント、スターの名前が書かれた札を首から下げてリハーサルに参加するスタッフの行進など、レッドカーペット上でのメディア向け催し物が盛り沢山だったのが、今は、レッドカーペットを敷く、巨大オスカー像をペイントするなど、会場準備の作業以外には特に取材に値するものはない。

academy0303_04
塗装されるオスカーたち

このようなマスコミ関係者の限定には、少人数化によるセキュリティの強化以外に、インターネットの普及、SNSの進歩による情報の拡散といったことも背景としてあるようだ。インターネットが一般的でなかった時は取材といえばテレビメディアが中心。とにかく各国の記者やカメラマンに足を運んでもらおうと、イベントが目白押しだった。だが、現在は通信社や公式カメラが撮った映像をインターネットで全世界へ配信することができるようになった。そのため多くのカメラを入れる必要はない。授賞式そのものの動画もストリーミングで視聴できる(すぐに不具合でストリーミングが停止してしまう問題が多発しているものの)ご時世だ。

アカデミー賞を運営する映画芸術科学アカデミー(アカデミー協会)は、ますます多様になっていく映画ファンにアピールできるよう授賞式の内容改革に努めている。その一方で、限定された少数のマスコミとメディアを効率良く利用して、セキュリティを強化し、経済効果を上げる努力を進める。そんなアカデミー協会の方針がますます明確になった今年のアカデミー賞授賞式であった。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)