華やかなレッドカーペットの裏にある女性たちの革命

コラム

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文=ロサンゼルス在住ライター 町田雪

シャーリーズ・セロン
主演作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が6部門を制したシャーリーズ・セロン
Aaron Poole / ©A.M.P.A.S.

「Who are you wearing?(そのドレスは、どのデザイナーのもの?)」は数年前まで、アカデミー賞授賞式におけるレッドカーペットを象徴するお決まりの質問であったが、今年は多くのメディアで禁句扱いされた。女性にだけ、ファッションのことばかりを質問することが性差別にあたるという議論を配慮してのことだ。

シアーシャ・ローナン
『ブルックリン』で主演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナン
Sara Wood / ©A.M.P.A.S.

かねてから物議をかもしていたことだが、議論が本格化したのは、ちょうど一年前ごろ。メディアや文化が女性の功績や影響力を正当に映し出すことを求めるプロジェクト“The Representation Project”が、レッドカーペットで女優たちに、よりクリエイティブな質問をするよう提言する「#AskHerMore(女性たちにもっと深い質問を)」キャンペーンを立ち上げ、人気女優のリース・ウィザースプーン、昨年までゴールデン・グローブ賞の司会を務めていたエイミー・ポーラーらが支持を表明したのだ。その後の様々なレッドカーペットでは、レポーターたちがファッション以外の質問を多く投げかけたり、ファッションに関する質問を最後に持って来たりと試行錯誤。今回のオスカーでは、授賞式の3時間以上前からレッドカーペット中継を行う公式放送局ABCのレポーターたちの口から、この質問が発せられることはほとんどなかった。

レイチェル・マクアダムス
『スポットライト 世紀のスクープ』で助演女優賞にノミネートされたレイチェル・マクアダムス
Aaron Poole / ©A.M.P.A.S.

おかげで、自身の出演作のメッセージをより強く長く伝えることができた女優や女性アーティストもいる反面、差し障りのない質問に苦笑したり、カメラに向かってメッセージを送るよう促され困惑するゲストも。ファッションが気になる視聴者を意識して、インタビューの最後に「それにしても、今日もとっても素敵ですね」と話を振り、何とかファッション情報を聞き出そうとしたり、ドレスを指差して「こっそり教えてください」と囁くレポーターたちの姿は、ぎこちなさと必死さが混ざるものだった。

ジャレッド・レト
2014年に『ダラス・バイヤーズクラブ』で助演男優賞を受賞したジャレッド・レト
Phil McCarten / ©A.M.P.A.S.

「#AskHerMore」を始めとするこうした議論については、司会のクリス・ロックも冒頭のモノローグで触れた。「差別っていえば人種だけじゃないよね。もう女性に、そのドレスはどこの? って聞いちゃいけないんだ。もっと深い質問をしなきゃいけないんだよ」と話したのち、「でも何でも性差別や人種差別ってわけじゃない。男性はみんな同じものを着ているから、質問されないだけなんだ。もし、ジョージ・クルーニーがお尻から白鳥が飛び出したライムグリーンのタキシード姿で現れたら、“ジョージ、何を着ているの?”って聞かれるはずさ」とジョークを交えて笑いを誘った。これは極端な話だが、実際に、ファッショナブルなことで知られるマシュー・マコノヒーやジャレッド・レトらには毎回、服装に関する質問が飛ぶことは事実で、今年も赤い縁取りの入ったグッチのタキシードに赤いフラワーコサージュというレトのファッションは、ソーシャルメディアを賑わせた。

ジャレッド・レト
『キャロル』で主演女優賞にノミネートされたケイト・ブランシェット
Aaron Poole / ©A.M.P.A.S.

こうしたクリスの発言の趣旨を理解してか、「#AskHerMore」プロジェクト側もジョークそのものを批判するよりも、「アカデミー賞では、彼女たちのルックスや美、セクシュアリティだけに注目するのではなく、芸術的な偉業を祝するための会話がなされるべきなのです」と議論の本質を再アピールして応じた。同プロジェクトを支持するウィザースプーンらも「もちろん、ファッションも大好き」と公言。セレブリティが、各デザイナーのミューズや広告塔になっている場合も多く、「ファッションに関する質問禁止」となると、別の弊害も出てくる。視聴率が減少し続けているオスカーにおいては、レッドカーペット中継でスターたちのファッションを楽しみにする視聴者の存在も重要だ。様々な面での差別問題が深刻さを増した今回のオスカーでは、メディア側の自主規制が強かったように思うが、今後は「もっとバラエティに富んだ質問を」という議論の本質を踏まえながら、状況に応じてファッションもフィーチャーするバランスが生まれていくのだろう。

ジャレッド・レト
『ジョイ』でゴールデン・グローブ賞主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)受賞に続きアカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされたジェニファー・ローレンス
©KGC-11/starmaxinc.com/Newscom/Zeta Image

というわけで、気になるオスカー・ファッション。今年のトレンドのひとつは、胸元に大きなV字切り込みの入ったドレスだった。花弁があしらわれた淡い緑のジョルジオ アルマーニ・プリヴェをまとったケイト・ブランシェット(『キャロル』)、裾のフリルが印象的なグッチのロイヤル・ブルーのロングドレスに存在感あるベルトで主張したブリ―・ラーソン(『ルーム』主演女優賞受賞)、レースの黒のディオールで決めたジェニファー・ローレンス(『ジョイ』)、母国アイルランドの象徴であるエメラルド・グリーンのカルヴァン・クラインが光るシアーシャ・ローナン(『ブルックリン』)。なかでも称賛を集めたのは、プレゼンターを務めたシャーリーズ・セロン(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』)で、ディオールの赤のドレスにハリー・ウィンストンのロング・ネックレスを合わせた抜群のセンスで、メディアやSNSの話題を集めた。

ブリ―・ラーソン
『ルーム』で主演女優賞に輝いたブリ―・ラーソン
Aaron Poole / ©A.M.P.A.S.

ハリウッドの性別格差をめぐっては、メディアの女性描写以外にも、男女の賃金格差、女性が主役の作品の欠乏、女優の加齢における偏見など、様々な問題が沸き起こっている。オスカーの受賞スピーチはもちろん、メディアのインタビューや自身のソーシャルメディアを通じて、これらの問題に声をあげる女優や女性アーティストも急増中。華やかなレッドカーペットの裏で、女性たちの革命が進行中なのだ。

アリシア・ヴィキャンデル
『リリーのすべて』で助演女優賞に輝いたアリシア・ヴィキャンデル
Sara Wood / ©A.M.P.A.S.

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)