ジョニデ最新作で描かれたアメリカの病巣

コラム

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ジョニデ最新作で描かれたアメリカの病巣

ジョニー・デップ主演作『ブラック・スキャンダル』で描かれているのは、アイルランド系アメリカ人の闇、「アイリッシュギャング」の世界だ。ジョニデが演じるFBI最重要指名手配犯に認定された犯罪王ジェームズ・ホワイティ・バルジャーは、政治家である実弟、FBI捜査官となった幼馴染などを操り、闇社会を牛耳っていった実在するギャングのリーダー。本作は、FBI史上最大の汚職事件として語り継がれている実話である。

■アメリカで根深い“白人内差別”の現実

この構図は米アカデミー賞で主演男優賞を受賞したばかりのレオナルド・ディカプリオ主演の名作「ディパーテッド」でも描かれた、差別と偏見にさらされるアイリッシュギャングの闇でもある。

『ブラック・スキャンダル』の舞台となるボストンは、ニューヨーク州の右上に位置するマサチューセッツ州北東部にあるアメリカで最も歴史の古い街の一つ。ボストンの南部にある低所得者向けの公営住宅が立ち並ぶ「サウシー」と呼ばれる治安の悪い街だ。

1840年後半にアイルランドを大飢饉が襲い、多くのアイルランド人が餓死する中、アメリカに夢と希望を抱いて移民してきたアイルランド人の多くは、国際貿易港として栄えるボストンを目指した。

その数は100万人以上と言われ、この時期にアメリカへ移民した人口の半数以上と言われている。移民してきたアイルランド人たちは、差別などに苦しみながらも、同胞意識を強め、法律よりも固い「血の結束力」を優先させ、協力し合うことによって苦境を乗り越えていった。

アメリカは移民の国ではあるが、その中心となるのは国を開拓してきたアングロ・サクソン系(イギリスの血筋)の人々である。アングロ・サクソン系のアメリカ人は、キリスト教のプロテスタントを信仰している。一方、アイルランド人は、キリスト教のカトリックを信仰しているため、アングロ・サクソン系のアメリカ人からは異教徒として敵視されていた。

そんなアイルランド人、その子孫となるアイルランド系アメリカ人は「白人の中の黒人」と呼ばれて、黒人同様に差別されていた。このような差別社会において、自分たちを守るため、自然に徒党が組まれ「アイリッシュギャング」は生まれていくのだ。

ウサマ・ビンラディンに次ぐ懸賞金を掛けられるような悪人であるはずの『ブラック・スキャンダル』の主人公ジェームズ・ホワイティ・バルジャーも「アイルランド人の血」を大切にしていた一人だった。

恐喝、麻薬密売、殺人など、彼の行動は決して許されるものでは無いが、彼らの同胞意識は強く、地元では英雄視される一面も持ち合わせていた。このパルジャーは逃亡する直前まで、イギリスで独立闘争を行っていた武装テロ組織IRA(アイルランド共和軍)へ支援を行っている。

パルジャーを突き動かしたのは「アイルランド人の血」であり、私利私欲とは懸け離れた強い同胞意識だった。アメリカという多くの人種が集まる国で生き抜くためには、血筋の対立があり、宗教の対立もある。こんな背景を頭に入れて本作を観ると、面白さは増すのではないだろうか。

文・しのたいき

記事制作 : dmenu映画